30話
数日後、秘書専門派遣会社のほうへと連絡を入れたの
だった。
「では、秘書の交代を望んでいると?」
「はい、できれば別の方をと思っています」
「えーっと、八橋はこちらでも有能な奴でしたが、何か
問題でも?どこの会社にも正式雇用をと言われるよう
な人材ですよ?よかったら事情を聞かせて貰っても?」
「いえ、凄く有能だと思います。ですから、もっと大き
な会社で実力を発揮した方がいいと思ったんです。」
「社長さんは謙虚なんですね?それに若い!」
「いえ……父が突然に亡くなったので……」
それ以上は何も言わず、淡々と交代の手続きだけした。
上田が背中を押してくれた事で、迷いもない。
自分の直感を信じる。
それを大事にするつもりだった。
雅人はまだ経営の事は素人だった。
だからしっかり分かっている人が一緒にいてくれるのが
一番いい事なのだ。
だが、それはあくまで理想で、いくら有能でも八橋を側
に置くのだけはどうにもそわそわして落ち着かない。
書類にサインも終わって、帰り際に八橋が慌てるように
やってきた。
「どういう事ですか!私をクビにするって事ですか!」
聞き迫る勢いで雅人へと抗議しに来たらしい。
年齢も下の、しかも学生でしかない雅人には信頼されて
いると思っていたようで、まさかいきなり契約打ち切り
されて、人員を変えられるとは思ってもいなかったよう
だった。
「えーっと……」
「ちゃんとした理由があるって事ですよね?会社も上手
くいってますよね?何が気に入らないんですか?」
「それは……ほら、優秀だし?だから……ここにいるのは
勿体無いかなって……」
「それが理由ですか?だったら正社員として雇用すべき
でしょ?それなのに、解雇って……やっぱりこの会社は
何かあるという事ですね!社長の突然の死もそうですし」
「黙って聞いてれば、それは秘書としてどうなんですか?
脅しにかかってますよね?一部始終を撮ってましたが、
脅すように迫って、正社員にしろ?それはやましい事で
もあるんじゃないですか?」
「何を言って…私は純粋に霧島さんの力になってあげよう
と思って、それに君こそ部外者だろう?」
「それは善意?……ではないですね?」
「善意だ!」
「なら、お引き取り下さい。もう、次の代わりがくる頃な
ので」
上田の乱入にそれ以上は突っかかっては来なかった。
「綾……ありがとう」
「いいよ。雅人、しっかり言わないとつけあがる奴もいる
からな?」
「うん……分かってるんだけど…」
「俺が言おうか?雅人が言えない分、俺が矢面に立てばい
いんじゃないか?それに、よかったら、また一緒に暮ら
ないか?俺の母さんは霧島家に使用人で、住み込みで働
いていたんだ」
「そうなんだ……、僕はありがたいけど」
「よし、なら決まりだな!」
今の家では雅人に逆らえる人はいない。
だからと言って、誰かを言いなりにさせるつもりもなかっ
た。
「明日から学校も行くだろ?これからの進路もあるし」
「……そう、だな」
大学受験も控えている。
本当なら、勉学に励む時期なのだが、そういうわけにも行
かなかった。




