3話
屋上の園芸部の鉢植えが落下しただけという事があって、結局
誰も罪に問えないとなった。
それを見ていた生徒全員が証人だった。
騒いでいたせいで、周りの注目を浴びたせいでこの事故はただ
の事故と処理されたのだった。
「ちげーよ!あいつが………霧島の弟がやったに違いないんだ!
俺は見たんだよ!あいつが……あいつにそっくりな奴が屋上か
ら落とした所をさ!」
証言したのはいちゃもんをつけてきた3年の生徒だった。
一緒に絡んできた挙句、友人が意識不明の重体になったことで
騒ぎを大きくしようとしていると判断された。
「永人、聞いてくれよ!本当にマジなんだって!あいつ屋上から
わざと落としやがったんだよ!」
「それで?他に見たやつは?」
「それは………でもよ〜、本当なんだ!それなのにあいつは目の
前にいるし…絶対に誰かに頼んでやらせたに違いないんだよ!」
いくら言っても誰も信じなかった。
その理由は屋上にある監視カメラの映像からそう判断されたから
だった。
たまたま偶然、鉢植えが屋上の手すり近くに置いてあった事。
その近くを通った生徒がいない事。
風でぐらついて落下していく姿が映っていた事などから、殺意も
なければただの偶然と警察も判断して、この奇妙な証言を誰も聞
き入れなかった。
「あいつ、なんか気の毒だよな〜」
「でも、本当に偶然なのかしら?」
「警察も事件性はないって言ってただろ?それに一つ間違えたら
自分の上に落ちてくる所だったんだろ?」
「そうね、そうよね……」
クラス中ではその話でもちきりだった。
素行の悪い先輩だっただけに、誰もが雅人に同情すらしたのだ。
最後まで突っかかってきた先輩も今は自宅謹慎になっている。
それは雅人にとってはいい事だった、はずだった。
学校の帰り道。
いきなり目の前に現れた黒いパーカーを着た、刃物を持ったマスク
姿の男。
見覚えなど全くないが、なぜか雅人に敵意をむき出しにしていた。
「お前さえいなければ矢部は死なずに済んだんだ……お前さえ…」
矢部とはこの前屋上から鉢植えが偶然落ちてきて重症だった3年の
先輩だった。
「誰の事ですか?」
「お前がそれを言うのかよ………お前が殺した癖に………いっそ俺
が殺してや………」
ブッブーーーー!!
いきなりの大きなクラクションに振り向く瞬間、トラックが突っ
込んできていた。
雅人のギリギリを通り過ぎると近くの電柱にぶつかっていった。
さっきのパーカーの男を轢きながらそのままぶつかったせいで電
柱との間には内臓が潰れて即死の男が挟まっていたのだった。
「どうして……」
全く無傷だった。
いつも、雅人に敵意を向ける度に、大怪我をする。
これは永人が生きてきた中でも、偶然としか思えなかった。
さっきの男を仕向けはのは兄であったが、こんなに呆気なく死ぬ
とは思わなかった。
じっくり眺めていたが、なんらおかしいところはなかった。
ただ、少し後ろに下がっただけなのに、あのけしかけた男は死に、
弟は生き残った。
実の母が精神的に病んで小さい時に雅人を手にかけようとした時も
そうだった。
真ん中に入って大怪我をした使用人の子供が死にかけ、いかれたよ
うになった母は窓を突き破って飛び降りた。
下にあった柵に身体を貫かれ無惨に死んでいたのを今でも忘れられ
ずにいる。
雅人は早々にその使用人の子供の事など忘れてしまったのだろうが
兄はあんな無惨な事件を忘れられずにいた。
それからといもの事ある毎に雅人を殺そうとしてきていたのだった。
「くっそぉ……あいつなんでだよ…」
再び雅人は警察で事情聴取を受ける事になってしまった。
が、ちょうど防犯カメラがある店の前だった為、一部始終が映って
おり、すぐに出て来れたのだった。