20話
身体がふわふわした感覚がする…。
まるで他人が身体を操ってでもいるような感じ
がした。
どう言うわけか、家の中を徘徊している。
霧島はさっき確かに駅のそばにいたはずだった。
そして上田が来て、兄の永人が……?
肝心なことが思い出せない。
一体何があったのだろう?
自分の部屋に向かうはずが、なぜが父の書斎へと
来ていた。
本棚を押すと、奥に扉が開く。
『うそっ………何これ……』
全く知らなかった。
自分の家なのに…こんな仕掛けがあったなんて。
でも、確かに今自分は自分の足で歩きながら家にき
ている。
父は今、日本に帰ってきている。
いつ家に帰ってくるかわからない。
それなのに…いいのだろうか?
足はすでに先に進んでいく。
まるで導かれるように階段を降りていく。
地下らしき部屋の中には一面に文字の書かれた紙が
張り出されていた。
そこには永人の行動や、どんな人間と連んでいると
かがぎっしりと書かれていた。
素行調査でもされていたのだろう。
そして横の書類は雅人のことが書かれていた。
交友関係……無し
学歴…………問題なし
家での態度…問題なし
女関係………無し
オナニー……自室にて
多くの情報が書き続かれていた。
知りたくもないことまで事細かに書かれていた。
「こんな事…プライベートもないじゃないか……」
すると、上で話声が聞こえてきた。
降りてくる気配がする。
「まずい……どうしよう」
勝手に入った事がバレるのも良くないし、なぜここ
の事を知っていたかと問われると困る。
本当に、どうしてか自分でもわからないからだった。
あたふたとしている間に、父の姿が見えた。
目の前を素通りしていく。
「……父さん………これは………?」
話しかけても、全く反応しない。
まるで見えていないかのような反応だった。
横にいるのは秘書だろう。
「雅人はどうだ?」
「いまだに目覚めていません」
「そうか………、役に立たない息子だ。永人はその
まま牢獄で自殺に見せかけて殺せ。絶対にバレ
るようなヘマはするなよ?」
「はい、では、雅人さんは?」
「そうだな………まだ利用価値があったんだが、しば
らくそのままでいい。目覚めないようならそのまま、
死なせてやれ」
「分かりました」
聞きたくなかった。
父親のこんな言葉、できる事なら一生聞きたくなんか
ない。
父に認められたくて頑張ってきたのに…。
それなのに……。
「僕は父さんにとって、どうでもいい存在なの?」
「全く、あの女の子供はどっちも役に立たなかったな」
「父さん……答えてよ……父さん………」
涙が溢れ出てくる。
それでも気づいてさえもらえなかった。
机のモノを引っ掛けると、ガシャンと音がした。
「誰だ?誰かいるのか?」
モノが落ちた事で、父は誰かの存在に気づいたらしい。
「父さん………」
「雅人……お前どうして?今病院にいたんじゃ……」
「父さん……僕は父さんにとって何?母さんと一緒でい
らなくなったら殺すの?」
「違うんだ…雅人、お前は俺の自慢の息子だぞ?いい子
だ。だから、さっきの事は忘れるんだ?いいね?」
そう言うと、いきなり近くにあった物で殴りかかって
きた。
目を見張ると殴りつけたはずの場所には雅人はいなか
った。
そう、今、確かに殴られたはずだったのだ。
だが、それは身体をすり抜け地面に勢いよく落下した
のだった。
「それが答えなの?……父さん………」
「違うんだ……なぜだ、なぜ当たらない………雅人お前
は一体……」
自分でもわからない。
いきなり手を前に伸ばすといきなり父が壁に向かって
勢いよくぶつかっていた。
衝突した勢いで壁にかかったモノが落ちてきていた。
「げほっ…ごほっ……やめてくれ、雅人……」
『お前は……いらない………』
自分の声であって、自分じゃない声。
誰が言ったのだろう。
雅人は驚きながら周りを振り返る。
そこには誰もいなかった。
目の前にはガラスに映る自分だけだった。
それも自分そっくりな誰か…だった。
白目の部分が真っ黒で、黒目が白い。
こんなの自分じゃない!
そう思った瞬間、目の前にあった父親だった者が
ひしゃげて逝くのを目撃してしまったのだった。




