2話
いつも蹲って泣いている雅人に付き添ってくれる優しい君
がいた。
顔も朧げで覚えていないけど、いつだって励ましてくれて、
側に居てくれた。
それはいつまでだったのだろうか………。
「大丈夫だよ。ずーっと一緒だよ。側に居てあげるから顔を
上げて」
「…」
「そうだ、僕もここに住む事になったんだ〜。これでずっと
一緒だね」
「…」
笑顔だと分かるのに…顔が見えない。
どうして、忘れてしまったのだろう。
ハッと目を覚ますと、朝になっていた。
制服に着替えると食事をとった。
そこへ兄の永人が起きていた。
「昨日の態度はなんだよ?父さんの前でくらい演技しろっつ
ーーの。あいつマジで笑えるぜ。言い訳が辛いっつーの」
兄の永人は留年スレスレの成績だった。
もちろん父の言っていた大学になどいけるはずもない。
ただ、友人だけは多かった。
ガラの悪い連中と最近ではつるんでいるらしいと聞いていた。
「兄さんはあんな事言って大丈夫なの?今年は受験も控えて
るんでしょ?」
「おいおい、雅人の分際でお説教か?黙れよ!」
食器を投げると雅人の横を通り過ぎた。
後ろでバリーンと大きな音がしてお手伝いさんが駆けつけて
きた。
「わりぃ〜な、弟が乱暴でさ〜。皿は投げるモンじゃねーっ
て教えておきましたから〜」
そういうと出ていった。
小遣いは同世代の人よりも多く貰っているので、別に家で食
べなくても毎日外食でもやっていける。
自分の食事を食べ終わると片付けてから学校へと向かった。
授業も当たり障りのない学習で別に誰かに当てたりもしない。
淡々と先生が黒板に書いていくだけだった。
書き留めるも、ただ眠そうに見ているも生徒の自由だ。
誰にも咎められないし、テストに出る場所であってもあえて
斜線を引きもしない。
生徒の自主性を尊重すると言いながら、結局は本人のやる気
次第で変わるのだとわからせているだけだった。
食事は食堂か、教室で食べるのが普通だったが、雅人はいつ
も一人で外で食べている。
教室にいても息が詰まるからだった。
「なぁ〜、お前永人の弟だろ?俺ら3年のお兄ちゃんの友人な
んだよ?分かる?」
「そうそう、親友と言ってもいいかな〜。それでさ〜、お兄ち
ゃんがさー弟から金借りて来いって言ってんだよ〜?意味分
かる?」
「……わかりません」
雅人の言葉に顔を見合わせると『ぷっ』と笑い出した。
「わかりませんだってよ〜。マジ頭悪りぃ〜な?だから〜、
金持ってるでしょ?か〜してって言ってんだよ?」
「そうそう、財布出せばそれでいいんだよ。持ってきてるだ
ろ?」
もちろんもジュース代くらいは財布に入っている。
それ以外は持ち歩いていなかった。
財布をひったくると中身を開ける。
『チッ』
と舌打ちをすると、さっきまでと態度が変わった。
「おい、ふざけてんのか?俺らの話聞いてた?」
「俺ら今日の帰りにゲーセン行きたいわけ?分かってる?これ
だけじゃ何も遊べないだろ?」
ムキになるように雅人の胸ぐらを掴むと、ペチョと上から鳥の
糞が落ちてきた。
「おい、おっ前〜、マジウケるw」
「うっわぁ〜マジかよお前が金出さねーせいで汚れただろ?」
なんとしてでも雅人のせいにしたいらしい。
騒いだせいでそれに気づいた生徒達の視線を浴びるようになっ
てきた。
イラついたのか一発殴ろうと腕を引くとその瞬間……
頭上から植木鉢がヒュンッと落下していたのだった。
目撃者はその場に何人もいた。
雅人の目の前でさっき雅人を殴ろうとしていた男が血を流して
倒れている。
連れは怯えたように上を眺めたが誰もいない。
「お前………こんな事して……」
「…?」
雅人には何を言っているか分からなかった。
ただ、殴られそうになったのは自分なのに、いきなりのアクシ
デントに驚くばかりだったからだ。