17話
目の前にいるのは紛れもなく、兄の永人だった。
「永人……兄さん……」
「雅人、お前が母さんを殺したって事は事実なんだよ!
そのせいで全て台無しだよ。俺は父さんに認められる
んだ!俺を追い出そうとするのはお前がいるからだろ
?死んでくれよ?そうしたら俺ははれて霧島家の唯一
の人間になるんだ!あんな女いらない、お前も………
このまま死ねぇーーーー!」
狂気を孕んだ瞳が、雅人を捉えていた。
逃げようにも足がすくんで動かなかった。
母が自分を殺そうとした時もそうだったように、動けな
かった。
ただ、ゆっくり刃物が自分に向けられたまま近づいてく
るのを黙って見ているしかできなかった。
鞄をぎゅっと抱きしめると目を瞑った。
「助けて……誰か……」
自分を助けるような人はきっといないと思うけど、それ
でも言わずにはいられなかった。
「だから動くなっていっただろ?」
「どう……して……」
そこには、永人を取り押さえる上田の姿があった。
刃物は地面に落ちたまま、後ろから押さえつけられた永人
が地面に転がっていたのだった。
「勝手に帰るからこうなるんだぞ?霧島?聞こえてるか?」
「上田……くん……ありがとう、怖かったんだ……本当に……」
地面に座り込むと力が抜けたかのように震えが止まらなかっ
た。
今更、死ぬのではないかと言う恐怖が来たのだ。
「まーったく!俺がそばにいてやるって言っただろ?」
「うん……ありがとう」
夢の彼と、今見ている彼が重なった気がした。
何度でも見た夢に出てきた幼い少年も同じ事を言っていた。
そして手を差し出されると、その手を掴んだのだった。
「前にも………こんな事…あった?」
「そういえば俺も……なんか記憶が……あれ……これって……」
上田の中のピースがあった気がした。
記憶の中のいつも一人の少年はどこか霧島に似ていた。
が、似ていたではなく、彼自身な気がする。
だったら、昔に見た影を持つ少年は霧島という事になる。
でも、この影はどうして自立しているのだろう?
「霧島……あのさ……お前の影が………」
「あれ?なんでそこに僕がいるの?」
上田の後ろにいた影を指差す霧島は驚いたように、こちら
を見ていた。
「そうなんだよ、この影がさぁ〜……」
言葉を言おうとした瞬間、意識を失うように霧島が倒れた
まま動かなくなってしまっていた。
「霧島?おいっ……起きろって!何があったんだよ!」
揺すっても、反応がなかった。
すぐに救急車を呼ぶと、一緒に病院へと向かった。
ついでに呼んでおいた警察に永人を預けておいた。
後日、義理の母親のキャサリンは付き合っていた男に刺さ
れて重症だという。
雅人はまだ目を覚さないままだった。
外傷はなく、ただ意識がないだけだと言われたのだった。




