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交信

久々の次話投稿はっじまるよー

 大海原を征くいくつもの航跡があった。その数およそ40。駆逐艦や巡洋艦、揚陸艦から成る偉大な艦隊である。

 彼らの母国はゲスティナ共和国。彼らがこれから向かうは蛮族が地。彼らはこの世界に飛ばされてから初めての反攻作戦を行うべく進んでいた。


 艦隊の中でもひときわ大きな艦がある。それこそこの艦隊の旗艦である、ミサイル巡洋艦グルックリンだった。

 同じ艦種である他のミサイル巡洋艦と比しても、更に巨大、重武装な彼女は国内からミサイル"重"巡洋艦とさえ呼ばれていた。

 その艦橋にいる者こそ、この艦隊を率いる男である。

 ゲスティナ共和国海軍第2艦隊所属、臨時第20任務部隊司令官、というのが彼の肩書きだった。

 彼の名前はミネルド・ミッツマン。ゲスティナ共和国海軍の中将である。


艦長(キャプテン)。先行艦からの通信は未だないか?」

「は。依然ありません。接敵を知らせる通信の後から、なにも」

「空軍機に確認させたいが、こちらと攻撃のタイミングを合わせる為にまだ現着していないからな」


 本土より遥か彼方の敵地への奇襲攻撃。この2年で戦力の再編を行ったゲスティナ共和国の、文字通りの全力攻撃。

 しかしこの作戦には重大な欠陥があった。それは制空権を確保する為に必要な戦闘機や、地上目標に打撃を与える為に必要な爆撃機の航続距離が足らないという問題だ。そこでゲスティナ共和国上層部は空中給油機を複数運用し、時には空中給油機に空中給油させるという、バケツリレーならぬ空中給油リレー(英国面方式)をすることで、この問題を解決することにした。

 だが、そういう仕組みの為にいざ総攻撃を仕掛けるというその時間まで、艦隊は直援なしで行動せざるを得なかった。


「敵、と考えるべきでしょうか?」

「でなければ説明がつかん。1隻ならまだしも、3隻の駆逐艦全てと連絡がとれないなどな」

「しかしゲヘートは最新鋭の駆逐艦です。それが沈められたとなると……いえ、そもそも我らの接近に気づかれたとなれば作戦全体にも影響が」

「気づかれようがなんだろうが我らのやるべきことは変わらん。大陸に橋頭堡を築く。そして我らに刃向かった愚か者共を殲滅する」


 ミネルド中将はこの艦長にはほとほと呆れていた。元より奴らの卑劣な奇襲によって多くの優秀な海軍士官が失われた為に、言わば繰り上げで、この共和国が誇る重巡洋艦艦長になった男。薄い頭頂部に骸骨かと思うほどに細い体。弱々しさをより際立たせる縁の細い丸メガネ。ミネルドに言わせればこの男は慎重過ぎる……否、自信がなさすぎる。


 直前まで敵に気づかれないことが前提の上陸作戦。しかし気づかれたとしても最早後戻りすることは考えられない。これはゲスティナ史に刻まれるであろう、そういう意味(プロパガンダ)を持った作戦なのだ。


 通信が入ったのはそんなときだった。


『こちらゲヘート艦長。ミネルド中将をお願いします』


 その言葉に一瞬室内の時が止まった。誰もが幻聴かと疑ったのだ。


「──こちらミネルド。艦長。何故これまで1度も報告しなかった」


 しかしその時はミネルドがマイクを取り、返事をしたことで再び動き出した。


『申し訳ありません。それが不可能な状況にありました』

「不可能とは?」

『攻撃により艦を失った為です。我々第24.3任務部隊は壊滅。現在は我々を沈めた者たちの手により虜囚となっています』


 疑惑が確信に変わった瞬間。しかし同時に何故その状態で通信ができているのか疑問に思う。艦が沈められた後、敵艦を乗っ取ったのか? そんな有り得そうもない可能性が脳裏をよぎる。


『我々を沈めた存在は、こちらのミサイルを容易く迎撃し、強力な電子妨害によって我々の目を奪い、ミサイルによって我々を撃沈した』

「奴らとは違う、と?」


 スピーカーの向こうでゲヘートの艦長が頷いたらしいのが伝わった。


『彼らの国名がなんなのか、それはわかりません。言葉も通じません。しかし彼らは我らと同じ転移国家。そして我らと同じ人間です。更に我々より優れた科学力を持っている。現にゲヘートは為す術なく彼らの艦に沈められました。彼らは決して敵に回してはなりません』

「……よかろう。君の言葉を信じよう」


 長い長い沈黙の末、ミネルドは言葉を発した。

 これが別の誰かの言葉であったなら、彼も信じようとはしなかったかもしれない。だが、ゲヘートの艦長は彼の同期であった。今でこそ立場は違うが、長年に渡り築き上げた信頼関係が彼に言葉を信じさせた。


『──司令、それからひとつ。()()()()()()()()()()()()()

「気づいていない?」

『どうやら蛮族の奴隷船が漂流していたようですが、彼らは蛮族共を救助していました』

「なにぃ?」


 眉を釣りあげ、強く握られたマイクがミシリと音をたてたようだった。


「……ふん、奴らを同じ人間として扱うとは。新たな転移国家とやらは相当マヌケのようだ」


 火山の噴火はすんでのところで食い止められた。

 それから彼は部下に命令を飛ばす。


「艦隊全艦に連絡。無線封鎖解除。緊急事態につき作戦は中止。グルックリンは単艦直進し、転移国家艦艇との接触を図る。他艦は後方で待機せよ」

「本艦単艦で直進ですか? それはいささか危険なのでは」

「こんなゾロゾロ引き連れて現れたら向こうも驚くだろう。イメージをより悪くしたくない」


 24.3任務部隊との交戦により、相手方の印象は最悪だろう。ここは紳士的に、単艦で近づいて交戦の意思は無いことを示さねばならない。


「……仕事が増えたな」

「は? それはどういう?」

「おそらく、蛮族共はすぐ転移国家に接触するだろう。転移国家が丸め込まれると面倒だ。奴らより早くコミュニケーションを確率し、こちらに取り込む。味方にはできずとも、せめて手出しできないようにしなければ」


 ミネルドは言葉が通じない相手に、コミュニケーションを成立させる方法を思案する。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 推定戦後過渡期(1945年〜イージス艦以前くらい?)とはいえ、戦艦はともかく空母がいないのはちと懐が寂しい感じがしますねゲスティナ艦隊。 彼らの敵勢力はゲスティナとの距離が遠くてこれまで追…
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