偶発的戦闘
投稿していたことを忘れてた小説の次話投稿はっじまるよ〜
「不明艦艇群より高度目標分離、対艦ミサイルが発射された模様。我が艦に4、奴隷船に2発向かっています。以降、奴隷船をデルタ。不明艦艇群を目標群アルファと呼称」
レーダー上に計6発の飛行目標が表示される。その進行方向は2つ。ひとつは護衛艦ふゆづきへと向かうもの。もうひとつは対空防御手段など持たない奴隷船に向かっている。
「対空戦闘開始。ECM、対空ミサイル準備せよ」
「ECM用意よし」
「ECM照射開始」
その言葉によりふゆづきの見た目にはなんの変化も訪れない。彼女はミサイルを発射したわけでなければ艦砲を撃ったわけでもない。しかしレーダー上には確かな変化が現れた。ふゆづきに向かう対艦ミサイルが急に進路を変えた後に反応を消した。
「ECM効果大。ミサイル残3。内1発が本艦に接近中」
「対空戦闘、ESSM発射開始。発射弾数は6発。敵ミサイル1に対し2発で対処せよ」
「ESSM発射用意よしっ」
「撃て!」
砲雷長の号令と共にふゆづきのVLSが開き、6発のESSMが発射された。
入道雲のような分厚い白煙をたてながら飛翔したミサイルは、空中で姿勢を変えると目標の未来位置に向けて飛翔し始める。
「インターセプト5秒前……マークインターセプト!」
CICに居た者たちは皆ごくり、と固唾を飲んでモニターを凝視した。初めての実戦。本物のミサイルを撃墜することなど初めてである。もしミサイルが外れれば、と考えれば心配になるのも当たり前だった。
「──! 目標撃墜! 全目標撃墜を確認!」
小さな歓声の声があがった。中にはガッツポーズするものや、隣の者とハイタッチする者もいた。しかし艦長はあえてそれを咎めなかった。咎める時間が惜しかったからである。
「目標群アルファにECCMの兆候はあるか?」
「いえ。その様子はありません。我々のECMは正常に機能していると思われます」
よし、と頷いてから艦長は覚悟を決める。
「対水上戦闘用意。これより目標群アルファに対艦ミサイル攻撃を行う」
先程までの熱気はどこへやら。CICがしんと静まり返る。その静寂を破ったのは砲雷長だった。
「艦長、確認しますが対艦ミサイルは目標に命中させるのですか?」
「それ以外に何がある?」
「敵の目前で自爆させれば威嚇になるかと」
「現在我が国は未曾有の事態に陥っている。輸入に頼っていた各種資源の供給が絶たれたことでミサイルのような精密誘導兵器は生産不可。そして他国と違い海自は予備弾もほぼない。つまりミサイルは1発たりとも無駄にできない」
「ならば、近づいて砲撃で敵を無力化するというのは? それでしたら、敵の死傷者も最低限に抑えられます」
「バカを言わないでくれ。ミサイルを温存するために貴重な護衛艦を轟沈の危険に晒すのでは本末転倒だ。現状彼らは我々に無警告で先制攻撃を仕掛けた謎の武装勢力。ここで仕留めなければ本土が危険に晒されるかもしれない。だからここで確実に叩く。慈悲は必要ない」
誰も言い返すことができず、目標群アルファへの対艦ミサイル攻撃が決まった。
◇
ゲスティナ共和国海軍第24.3任務部隊、駆逐艦『ゲヘート』
主武装は前後部の単装速射砲と対艦ミサイル。またハリネズミのように増強された対空機銃群が目を引く彼女は、ゲスティナの定める仮想敵国用に改装された駆逐艦だった。
ゲスティナ共和国海軍第24任務部隊から分派された『ゲヘート』を含む3隻の駆逐艦は、艦隊の前路警戒並びに掃討を目的としてここに存在しており、相手が彼らの言う『蛮族』であれば、さしたる脅威はないはずだった。
「なんだこれは!」
ダンっ、と拳を机に叩きつけたのは艦長だった。彼が怒り心頭の理由は、目の前に広がるモニターが原因だった。
「何故レーダーがホワイトアウトしているのだ」
「敵の電子攻撃の影響と思われます。対処は……できません!」
「できないではない。そもそもミサイルは? まさか迎撃されたとでもいうのか?」
レーダーが使えない以上、ミサイルの着弾は確認できていない。しかし彼らの使用するミサイルの最終誘導が母艦からの火器管制システムの誘導を受ける以上、そしてその母艦のレーダーがホワイトアウトしている以上、ミサイルは外れたと考えるのが妥当だった。
この艦もふゆづきからのECMに対処すべくECCMを展開していたが、まったく効果は出ていなかった。それはつまり交戦中の敵が洗練された先進文明であることを表している。
「蛮族どもにここまでのことができるはずがない。我々は……我々はいったい何と戦っているというのだ……」
誰もが気づき出していた。
あれ、俺たちもしかして、人違いで攻撃しちゃったんじゃね、と。
しかし気がついたときには時既に遅く。破滅の衝撃はすぐそこまで迫っていた。
「……なんとかして今からでも意思疎通できないか?」
「言語が不明ですから不可能です。それに無線もジャミングをうけています」
自らで撒いた種である。為す術はもうない。願わくば、攻撃してしまった相手が、1発だけなら誤射かもしれないなどと馬鹿な考えでこちらを許してくれるよう願うだけである。
「──! 見張り員から報告! 低空を高速で本艦隊に近づく目標認む!」
「対空戦闘! 手動で迎撃しろ! 我々ゲスティナ共和国海軍の底力を見せろ!」
艦長の命令により艦砲や機銃が一斉に火を吹き始める。曳光弾を含めて空へ殺到するそれらの姿はどこか幻想的ですらあったが、目視頼みの攻撃で亜音速の速さで飛来するミサイルを撃ち落とせるわけがなかった。
艦隊間近に迫ったSSM-1Bはホップアップと呼ばれる急上昇を行った後、艦斜め上からそれぞれの目標に向けて突っ込んだ。