吸血鬼バンは今日も眠れない
私は吸血鬼のバン。今はこのボロボロの洋館に住んでいる。ここは誰も近寄らないし、私の眠りを妨げる者もいない。今日も朝が来たので、棺で寝ようと開けてみると、もうすでに誰か入っていた。
「これは一体どういうことだ・・・」
意味が分からず戸惑っていると、中の者と目が合った。
「お前ここで何をしている」
私の問いに目の前の人物は口に人さし指を当ててしーっと言った。
「静かにして、見つかっちゃうじゃない」
「お前の他にも誰か来ているのか?」
「いいえ。私だけよ。かくれんぼをしているの」
「・・・楽しいか?」
「いえ、全然」
こいつは何がしたいんだろう。早くそこから出て行ってほしいのだが。
「あ、私まだ名前言ってなかったわね。私はマナよ」
マナという者は棺から身を起こすと、私の前に立った。よく見ると、まだ幼い五歳くらいの少女だった。
「私は吸血鬼のバン。マナよ、早くここから立ち去れ」
「なんで? 私まだ遊び足りないわ」
「ここは私の館だ。人の家に勝手に入るなと教わらなかったのか?」
「わかってるよ。でも、あなた人じゃないじゃない」
確かに言われてみればそうだが、ここは引き下がる訳にはいかない。私はキッとマナを睨むと、低音で威嚇した。
「つべこべ言わずに早くここから立ち去れ!」
さすがにマナもひるんだが、じっと私を見つめてきた。
「私行くところがないの。お願いここにいさせて!」
私は威嚇をやめ、はぁーとため息をついた。
「お前には何を言っても無駄だな。私は寝たいから早くそこをどきなさい」
するとマナはぱぁっと明るい笑顔になって、私に抱き着いてきた。
「ありがとう! バン、これからよろしくね!」
いきなり呼び捨てか。私はお前より何百年も年上だというのに。まぁいい、これでようやく寝られる。私は棺の中に入り眠りについた。
少したって棺をドンドン叩く音がして、私は目を覚ました。そして棺を開けると、マナと目が合った。
「なんだ、私はまだ眠いんだが・・・」
「だって退屈だし、私お腹空いちゃったわ」
「なら帰れば・・・。あぁお前は行くところがなかったな。ちょっと待ちなさい。今何か作ろう」
「本当! なら私も手伝うわ」
「お前は危ないから部屋で待ってなさい」
「・・・あなた意外に親切ね」
私がまたキッと睨むとマナは、きゃぁと笑いながら別の部屋へと向かった。
「全く、どうしてこうなった・・・」
私の呟きを聞くものは、そこかしこにいたコウモリだけだった。私が料理を作っていると、マナが入ってきた。
「こら、部屋で待っていろと言っただろう。なぜ待てない」
「だって部屋の中何もなくてつまんないんだもの。ココにいた方があなたともおしゃべりできて楽しいわ」
「私は邪魔されたくないんだがな。まぁいいだろう。そこに座っていなさい」
私が椅子を指さすと、マナは大人しく従った。一応聞きわけはいいようだ。
「バン、料理は何を作ってるの?」
「一応簡単なスープだが?」
「えー! 私はオムライスが食べたいわ!」
「文句を言うなら食べなくていいぞ。幸い一人分しかないからな」
「ごめんなさい! 私はいい子です! ちゃんとなんでも食べます!」
「ふんっ。最初からそうしてればいいのだ。ほら出来たぞ」
机に料理を並べると、マナはわくわくしたような顔で、スープを見ていた。
「いただきます!」
そう言うと、マナはスープを一口食べた。
「おいしい! バンこれおいしいわ! あなたレストランでも出せるんじゃない?」
「大げさだな。しゃべってないで早く食べなさい」
「えー、他のみんなは楽しくおしゃべりするわよ?」
「そんなの知らん。私は静かに食べたいんだ」
私がそう言うと、マナは少ししゅんとなって黙々と食べ始めた。少し言い過ぎただろうか。しかし、人間の言う事はわからんな。それからはお互い何もしゃべらずに食事が終わった。
「ごちそうさまでした」
マナはそう言うと、さっさと食器を片付け始めた。
「・・・何をしている?」
「洗い物は私がするわ。それくらい出来るもの」
それからキッチンの洗い場に持っていき、ガチャガチャと洗い出した。おいおい、もう少し静かに洗えないのか。私ははらはらしながら見ていると、案の定ガチャンと音がした。マナが食器を落としたのである。
「ご、ごめんなさい! すぐ片付けるから!」
「待ちなさい。欠片を素手で触るつもりか。ここは私がやるから、もう部屋で待ってなさい」
マナはまたしゅんとなって、とぼとぼと出ていった。全く、余計な仕事を増やしてくれたものだな。私は、はぁーとため息をついた。そして、全部片づけ終わると、私もマナのいる部屋まで戻った。ドアを開けると、マナが泣いていた。なぜだ。私がドアの付近で固まっていると、マナがこちらに気づいた。
「あ、おかえりなさい」
「・・・なぜ泣いている」
マナは、はっと気づいて慌てて涙をぬぐった。
「こ、これはなんでもないの!」
「もしかして先ほどのことか?」
「だってちゃんとしないと追い出されると思ったんだもの」
「ふんっ。私の眠りを邪魔しなければ追い出したりはせんよ」
「・・・本当?」
「あぁ。だが、それを守らない時は問答無用で追い出すからな」
私がそう言うと、マナは笑顔になりまた私に抱き着いた。
「ありがとう、バン! 大好きよ!」
その言葉に私はどこかくすぐったい気持ちになったが、これからもこの少女が私とともにいてくれることを、少しうれしく思ったのはこの少女には内緒だ。




