30.死へ向かって
「ヒュー……ヒュー……さて……どうしたもんかね……」
呼吸するだけで脇腹に激痛が走る……
勝利を確信した魔獣は余裕の表情で俺の事を見下ろしている。勝ちがほぼ確定しているこの状況で俺の事をみすみす逃してくれるとは到底思えない。
この絶望的な危機を乗り越え、生き延びる方法を考えなければと思っていた……
……いや待て、待て待て待て待て! 何ヌルい事考えてるんだ俺は!
生き延びるって何だ? 倒す気が、勝つ気があるのか?
そもそも相手は自分より遥かに強いと分かって戦いを挑んだはずだ。
その相手に対して何の犠牲も代償も無しに勝てると思っていたのか?
足りないのだ、覚悟が……命を掛ける覚悟が……
相手の魔獣は弱肉強食の世界で常に命を掛けて生きてきたはず。そんな魔獣相手にいくら待っていても隙など生まれるはずが無いのだ。
魔獣がトドメを刺しに三度襲いかかって来る。
俺は手に持っていたナイフを口に咥え、地面に転がっている適当な大きさの石を左手に持つ。
(勝ちたいなら生きようとするな……)
真っ直ぐ向かって来る魔獣の眉間に狙いを定め、指弾を放つ。
ガツッ!
魔獣は首を振り、角で俺が放った指弾を弾き飛ばす。だが、ほんの僅かながら体勢が崩れた。
魔獣は突進の勢いはそのままで僅かに体勢を崩したまま左の前脚を上げ俺を踏み付けに来る。
生きようとするなら後退し避ける事も出来るだろう。だが、その後どうする? その場は凌げても結局は打つ手も無くなり詰むだけだ。
(勝ちたいなら死を受け入れろ……)
口に咥えていたナイフを再び左手に持ち直す。
(生きようとするなっ! 前へ! 死に向かって踏み込めっ!!)
魔獣の前脚を一歩踏み込んで躱す。半身になった後頭部スレスレを前脚が通過する……
と同時に左手を頭上に掲げナイフを魔獣の胸元に突き刺す!
「グカッ!」
なんとかナイフは刺さりはしたが、片腕では魔獣の突進の勢いに押され弾き飛ばされそうになる。
俺は負傷している右手を使い、両手でナイフの柄を握りしめる。
「ぐがぁあああ!!」
余りの激痛に意識が飛びかける。だが、今は痛がる暇も余裕もねぇ!
「っだぁぁらっっしゃああああ!!!」
胸元に刺さったナイフを両手で振り下ろし、そのまま腹部まで切り裂く!
交差する俺と魔獣……
再び俺と魔獣の間に距離が生まれ、追撃を加えるべく振り返り魔獣と対峙すると
「ブモォオオ!!……」
そう叫びながら魔獣は腹部から大量の血を噴き出しながら地面へと崩れ落ちた……
勝った……? 倒した……のか……?
「っしゃオラァアアア!!!!!」
思わず雄叫びをあげる。終わった……俺は魔獣に勝ったのだ!
そして安堵と共に緊張が和らぎ、麻痺していた痛覚が正常に機能し始める。
「だァああ!!……いっっってぇぇえ……もう……泣いちゃいそぅ……」
痛みに悶えながらも魔獣を倒した達成感に興奮状態だったが、ここでふとある事に気付いた。
そう言えばシルフィーは何処に行った? 出来れば早急に怪我を治して貰いたい。そう思い辺りを見回し、シルフィーを探す。
「おおーい……シルフィー、居るかぁ……? 終わったぞぉ……」
そもそも、ここに来たのは魔獣討伐が目的では無く、薬草採取に来たのだ。シルフィーには道案内もしてもらわないと困る。
もしや、また蜘蛛の巣に絡まったりしてやしないだろうか?
あの間の抜けた妖精の事だ、有り得ないと言い切れないのがまた怖い所である。
ガサッ
と後方から物音がした。
「おっ……そんなとこに隠れて……」
そう言葉を言いながら振り返ると、そこに居たのはシルフィーでは無く、倒したはずの魔獣が立ち上がっていた……
「そういうの……いいから……」
面白かったら高評価オナシャス!




