27.ケリュネイア
シルフィーが魔獣の気配に気付き立ち止まった。
「おい、待ってくれ。この辺りの魔獣はエリーナが狩り尽くしているはずだぞ」
そう言いながらシルフィーの所へ駆け寄ってみるとゾクリと何とも言えない悪寒の様な物を感じた。
俺はこの感じを知ってる。いや、正確に言うとこの身体が知ってると言うべきか。以前のこの身体の持ち主であった『クライド』は過去に魔獣と出会っていた。
「多分、何処かに新しく魔素が吹き出す場所が出来たんだよ……そこに魔獣が住みついたのかも……ねぇ、ここの薬草は諦めて違う場所に行こっ」
この場所からまた違う場所への移動となると更に時間がかかってしまう。ただでさえ時間が無い俺にその選択肢は取れなかった。
「いや、このまま進もう……」
「えっ? そんな危険だよ! エリーナにも言われてたじゃない、魔獣の気配がしたら逃げる様にって!」
「それはそうだが俺には時間が無いんだ! ここで他の場所に向かったらどれだけ時間がかかる? 大丈夫、魔力操作を覚えてから魔法の威力も上がったんだ。なんとかなるさ」
それにエリーナからいつまでも猪相手に大怪我を負ってしまう情けない人間だと思われたくなかった。
シルフィーはその後も引き返す様言っていたが俺が頑なに先に進むと告げると渋々付いてきた。
「この先が群生地でいいんだよな?」
「うん、そうだけど……」
乗り気じゃないシルフィーと共に目的地近くまで来た時だった。縄張りに入り込んだ時とは比べ物にならない程の禍々しい威圧感を感じた。身体中の毛穴と言う毛穴からどっと嫌な汗が流れる。
やはりと言うべきか、当然と言うべきか魔獣が目の前に現れた……
「フゥ……フゥ……」
それは異様に角の長い鹿の魔獣であった。目は赤く血走っており、体は黒く、体長は三メートルはあるだろうか? 見た目こそ鹿ではあるが、俺の知る鹿とは全く別物の生き物がそこにいた。
図鑑に載っていた魔獣だ。名は確か『ケリュネイア』
「クライド、逃げよっ! こっ、こんなの絶対相手しちゃダメだよっ! 」
シルフィーに言われるまでも無く目の前の魔獣は絶対に相手にしてはいけない存在という事が分かる……
俺の生存本能がレッドアラームを鳴らしまくり全力で逃げろと警告してくる。
だが引かない! ここでこの魔獣を倒し、この数日で成長したと言う所を証明したかった。




