26.魔獣
「クソっ!! また失敗だっ」
ひと月で五種類の薬品を作るという勝負を挑んで三週間程経ったが未だ一種類も成功していなかった……
「薬草が切れたか……シルフィーっ! 薬草採取行くぞっ!」
朝から薬品の調合に取り掛っているが失敗が続き、更に期限は迫り焦りばかりが募る、今は一分一秒たりとも無駄にしたくなかった。
「いいけど、クライド大丈夫? 顔色悪いよ……最近あんまり寝てないみたいだし……」
「関係あるかよっ! 時間が無いんだ、早くしろっ」
そう言って薬草採取に向かおうとした時だった
「待てっ! 採取に向かう前に飯を食うてゆけ 」
とエリーナに呼び止められた。
「大丈夫です、今は腹も空いて無いですし時間が勿体無いですから」
「そう言うて昨夜もろくに食事をしておらんじゃろ。これは命令じゃ、採取に向かう前に食事を取るのじゃ」
今の俺には食事の時間でさえ惜しく思えた。下手をすれば三、四日平気で食事を抜く勢いだっただろう。そんな俺を見透かしたかの様にエリーナが食事を取るようにと命令してきた。
勿論、俺の身体の事を思っての事だと分かってはいるが、今はその優しさが少々煩わしく思えた……
「分かりました……」
そう返事をし、自分の分の食事を作ろうと調理場へ向かおうとすると
「待て、これを食うが良い」
とエリーナの前に用意してあった食事を俺に差し出してきた。そう、俺は自分の分の食事は準備していなかったがこれ迄もエリーナの食事は毎日作っていたのだ。
食事だけでは無い。掃除に洗濯と家事もきちんとこなしなていた。それがこの家に住ませて貰う条件だったからだ。
そしてそれ以外の時間を全て薬品作りに励んでいたのだが、それでも薬品を完成させる事が出来ずにいたのだ。
「でも、それは師匠の為に作った料理ですから……」
「かまわぬ、ぬしが出かけた後自分で作れるしの。焦る気持ちも分かるが体を壊しては元も子も無いであろう?」
「でも……いや、すいません……では頂きます……」
ここで口論しても時間が勿体無い。エリーナの為に用意した食事を取る。
食事中会話は無かった。今、俺の頭の中では薬品作りの事ばかり考えている。会話をすれば必然的にその話になってしまう。
勿論エリーナは俺の会話に合わせてくれるし、優しい彼女はさり気無くアドバイスなんかもしてくれるだろう。
だが、俺はエリーナのその優しさに甘えたく無かった。この勝負を持ち出した手前、自分の力だけで完成させたかった。
手早く食事を済ませ、薬草採取へと向かう準備をする。この家の近くの森の薬草は採取し尽くした感があったので今日は少し離れた場所へ向かう予定だ。
「では師匠、行ってきます」
「うむ、気をつけるのじゃぞ。それと何時も言っておることじゃが魔獣の気配がした時はその場から直ぐに逃げる様にな」
「勿論、分かってます」
この世界の魔獣とは普通の動物から突然変異で産まれてくる強い魔力を持った動物の事だ。そしてその特徴は凶暴で身体能力が高く魔素濃度の高い場所を縄張りとして生息している。
魔素とはエリーナが教えてくれた話によると、この世界で大気中に含まれており、前世で言えば酸素や窒素、二酸化炭素なんかと同じように存在している物の様だ。
そしてその魔素は低い場所へと溜まる習性があるが、時折魔素を吹き出す場所があり、そういった所を魔獣は縄張りとしている。
そして魔力の高い者がその場所に踏み入ると魔獣は縄張りを荒らされまいと襲いかかって来るらしい。
猪相手に大怪我してしまう様な俺に魔獣の気配を感じたら逃げろと言うのも当たり前の話である。
だがそんな風に心配される事もまた己の不甲斐なさに苛立ちを覚える要因の一つだった。
「クソっ、クソクソっ!」
苛立つ俺を見てシルフィーが心配そうな顔で声を掛けてきた。
「クライド大丈夫? 最近ずっとイライラしてるし全然楽しそうじゃないよ……」
楽しい? あぁ、そうだ。以前はエリーナと一緒にいれるだけで毎日が楽しかった……
「最近クライドが笑ってる顔も見てないし……そんなに辛いなら勝負なんて辞めちゃったら? エリーナも焦る事なんか無いって言ってたじゃない」
「確かに最近は自分の不甲斐なさに苛立ってお前にもキツく当たってたかもな……すまない」
「ううん、ボクは全然平気だよっ。でも、勝負なんか辞めちゃってさ、前みたいに楽しく過ごそうよ。薬作りもゆっくり覚えよ?」
「それは出来ない。自分から言い出した事を途中で降りるなんてこれ以上情けない話があるかよ。それにお前との契約も解除しなくちゃならないしな」
「うぅ……」
「確かにお前にとっちゃ不本意な契約かもしれないけどさ、俺にとっちゃこの世界でたった一つの繋がりなんだ。ここ最近お前には色々と助けて貰ってお前の存在の大切さが分かったし、その繋がりを無くしたく無いんだよ」
俺の言葉を聞いてシルフィーは少し考え
「ボク……そのままでもいいよ。ずっと契約結んだままでいいからさ、だからもう勝負なんか辞めよ? 身体壊しちゃうよ……」
「そいつも無しだ。失敗すれば契約は解除する。一度口にした事は曲げらんねーよ……」
そう、自分が言った言葉に筋を通せ無い様な人間にはなりたく無かった。
「まだ迷惑かけるかもしんないけど、もう暫く付き合ってくれよ、色々心配してくれてありがとな」
「うん……でもちゃんとご飯は食べてしっかり寝る様にしてね。エリーナも心配してるからさ」
「あぁ、気をつけるよ」
シルフィーとそんなやり取りをしているうちに目的の採取場所へとたどり着いた。
「さて、この先に目的の薬草があるはずだ。シルフィー、場所分かるか?」
「うん、もうちょっと森の奥の方にいっぱい生えてたはずだよー」
シルフィーの案内に従い、森の奥へと進んで行くと先を進んでいたシルフィーがふと立ち止まった。
「ん? どうした、もう着いたのか?」
シルフィーに追いつき様子を伺うと真っ青な顔で震えながらこう呟いた……
「この先……魔獣がいる……」
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いや、まじでお願いします、なんでもします、嘘です、出来ることには限界があります、すいませんでした!




