エリーナの憂鬱Ⅳ
そう思っていた矢先だった。玄関のドアが開きクライドが帰ってきた。が、その姿は身体中傷だらけの血まみれであった。
自分の身体から血の気が引くのを感じた。
血まみれのクライドを見て脳裏によぎったのは200年前に戦死したマキシムの事だった。
彼は戦場にて魔力が枯渇してしまった自分を守りるため傷を負い、そして戦地から自分を逃がし戦死してしまった……
◇◇◇
『嫌じゃ、わっちだけ生き延びとうない!! 逃げるなら主も一緒じゃ!』
『なに、もうすぐ援軍も来る。心配するな』
『何が援軍じゃ! 来るのは早くても3日後じゃ。それまでこの砦はもたん!! それぐらい主も分かっておるはずじゃろ』
『この砦を抜かれれば帝国の勢いを止める事は厳しくなる。ここで何としても帝国の進軍を抑えねば王国の未来は無い』
『王国などどうでもよいっ! 王国より主の方が大事なのじゃ!』
『エリーナの気持ちは嬉しいが、私は次期国王となる身。民が安心して暮らせるよう、ここでこの国の危機を塞がねばならぬ。私は逃げる訳にはいかぬのだ』
『ならばわっちも残る! わっちも主と一緒に最後まで戦うのじゃ 』
『エリーナには私の身に万が一の事があってもこれから先、国を支えて行って貰いたいのだ。ここでエリーナの身に何かあっては初代のハイデッカ様に申し訳が立たぬ。どうか聞き分けてはくれぬか?』
『嫌じゃ!! 嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃ!! 主のおらぬ国など何の意味も無い!』
『大丈夫だ、策はある。だからここは大人しく引いて欲しい……』
そう言ってマキシムは口付けをしてきた……と同時に自分の口の中に何かが流れこんで来た。
『!? 主、何を飲ませた? 策とは何じゃ? この後に及んでどんな策があると言うのじゃ!』
マキシムは敵軍の陣を睨み
『敵の指揮官を直接叩く。指揮官がおらねば敵の進軍も止まる。その間に援軍が間に合えば砦も持ちこたえられるだろう』
『……!! まさか……お主……死ぬ気か? 敵軍のど真ん中に突っ込んで行くなど、そんなもの策とは呼べぬ!! 無謀にも程があるぞっ! そんな策、反……対…………じゃ…………』
『反対するのは分かってたよ。だからこうするしか無かった。すまないエリーナ……』
飲まされたのは眠り薬だというのがその時分かった。そして薄れ行く意識の中で見たマキシムの悲しそうな笑顔は今でも覚えている……
目が覚めた時は移動する馬車の中だった。
『ここは何処じゃ!? わっちはどれくらい眠っておった? マキシムは何処におる? 』
目覚めてすぐ、近くに自分の身の回りの世話をする女中を確認し状況の説明を求めた。
『ここは現在、王都へ向かう馬車の中でございます。エリーナ様は二刻ほど眠っておられました。マキシム様は……その……』
『どうした? はよう答えよっ!』
『マキシム様はこの馬車を見送られた後、直ぐに出陣されたと……』
『!! 、馬車を止めよっ!!』
『エリーナ様っ! どうするおつもりで!?』
『マキシムの元へ向かう!』
『そんな……無茶ですっ!!』
『無茶をしたのはマキシムの方じゃ!!』
馬車から飛び降りマキシムの元へ向かう。眠っている間に魔力は少し回復しており、風魔法で身を包み急行する。
砦を飛び越え敵陣へと辿り着くとそこは屍の山であった。
そしてその屍の中、一人立ち尽くす人物がいた。
マキシムだった。全身からは敵の返り血なのか自らの傷からなのか血まみれであった。
その右手には剣を、左手には敵の指揮官らしき人物の首を持っていた。
『たわけ者がっ!! 無茶をしおって』
マキシムの元へ駆け寄り、その身体を支える
『もう……起きてしまったんだね……見よう見まねで作った睡眠薬では、効果は薄かったか……』
『喋るでないっ! 今、回復魔法を掛けてやるから黙っておれっ』
そう言って回復魔法を掛けようとするが、ここに来るまでに回復していた魔力は使い果たしてしまっていた……
『無理をしなくていい……もう……魔力は枯渇しているのだろ? まだ近くに敵がいるやも知れぬ……魔力は残しておけ……』
『それでは主が死んでしまうではないかっ! 』
『良いのだ……私の役目は果たした……』
『ならぬ! ならぬっ!!死んではならぬっ! わっちを置いて行くなっ!』
200年も王宮で暮らしていた中、代替わりするにつれ自分の事を邪魔に思う者や魔女である自分の力を利用し権力を得ようとする者、 恐れ近づこうとしない者ばかりとなっており、常に孤独であった。
何故、自分はこの国に居るのだろうか? 自分はもう誰からも必要とされていないのではないだろうか? この国に自分が存在する理由が最早見当たらず国を出ようと思い始めていた。
そんな中現れたのがマキシムだった。彼は自分を敬い、慕い、必要とし、孤独という暗い海の中に差し込んできた一筋光の様な存在だった。
ここでマキシムを失ってしまってはまたあの孤独という深い暗闇の海の中に沈んでしまうという恐怖に駆り立てられた
『そんなに泣くな……美しい顔が台無し……だ……』
頬を伝う涙を拭ったその手がだらりと力なく落ちて行った……
…………
……
王都に帰って暫くしたある日、援軍が遅れた理由が援軍に駆けつけた者が王子に恩を売る事が出来、今後の出世に有利になるという事でその役目の取り合いで揉めた為だと聞いて、怒りの余り王宮内の一部を吹き飛ばしてしまった。
お陰でその件が『破滅の魔女』と言う不名誉な二つ名が着く原因の一つとなった訳だが……
◇◇◇
もうあんな思いはしたくない……
クライドの胸に手を充て、あの時出来なかった治癒魔法をかける。
幸いにも大事に至るような傷ではなくホッと胸を撫で下ろす。
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