表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

6 彼女は行方不明

「ん。朝か」


自室のベッド。朝の日差しを浴びて起きたファビオ。背伸びをした。清々しい目覚めだった。彼は立ち上がると手洗いを済ませ顔を洗った。鏡の中の自分を見た。


……やっと調子が上がってきたな。昨日の疲れが完全に取れているし。


軽い体、スッキリした頭。彼は元気よく朝食を食べようとしていた。目の前には卵料理とサラダとパン、そしてスープがあった。


……あの時のスープ、うまかったな。


マリアを送って数日経っているのに、彼はまだ彼女の声がリフレインしていた。そんな彼は食べ始めた。


「あの坊っちゃま。本日の予定は」

「あ?ああ。今日は体調がいいので。稽古場に顔を出そうと思っている」

「腕の方はどうなのですか」

「それがだな、全く痛みがないのだよ……ん。は、ハックション!」


コショウを振った彼、思わずくしゃみをした。この時、ナプキンで口を押さえた彼、外した時、驚いた。


「あれ、こんなの食べたかな」

「なんですか」

「爺。口から木屑が出ててきたぞ、お前、料理の中に入れたんじゃないか」

「まさか?」


二人はその木のかけらを確認した。しかし、心当たりはないと思っていた。




ファビオは久しぶりに稽古場に来ていた。そして剛腕を奮っていた。


「なんだ。元気になったんじゃないか」

「ああ。マティス。今までにないほど調子が良いのだよ」

「お前、古城以来。顔色がいいもんな」

「そ、そうか」


稽古を終えた二人、汗を拭いていた。


「そういえば。姫様どうしているだろうな」

「俺に聞くなよ」


……くそ……せっかく忘れようとここに来たのに。


しかしマティスは続けた。


「まあ、可愛い顔してたけど、呪い姫だもんな。あそこに住むのがお似合いなのかな」

「顔と呪いは関係ないぞ。それにだ、姫は俺たちを心配してくれる優しい人だったじゃないか。あの古城では苦労するだろうな」


寂しそうなファビオ。これにマティスはニンマリ笑った。


「ずいぶん気にしているな」

「送ったからな」

「会いにいけば?」

「理由がないだろう!それに俺なんかが行っても迷惑だ」


怒ったりいじけたりするファビオ。マティスは真顔を向けた。


「それはつまり。理由があれば行きたいってこと?」

「それは」

「俺には隠さず話してくれよ。お前さ、姫に会いたいんだろう」

「ば、ばか!声がでかい」


真っ赤なファビオ。マティスはまあまあと制した。


「そうだよな?そうだと思ったんだ。やはりな」

「マティス。俺はどうしたらいいんだ」

「……まあ、そうだな。いきなり会いに行くのもお前には難しいな」


うちひしがれているファビオ。これに彼はポンと手を叩いた。


「手紙だな」

「え」

「彼女に手紙を書くんだよ!『その後、お元気ですか』って。何かお困りではないですか?って」

「そ、そうだな。そこからだな」

「ああ。書け。今すぐ、そうしたら俺が手紙を届けてやるから」

「お前って、いい奴だったんだな」


感激したファビオ。帰宅後、早速手紙を書こうと机に向かった。そこにはマリアがくれた感謝状が置いてあった。彼はまた見直した。


『親愛なるロシター卿

此度の警備、心から感謝申し上げます。貴方に神の御加護が続きますように。マリア』



と美文字で書かれた手紙。彼は毎晩読んでいた。しかもこれにはマリアの光る髪がスプーンの持ち手ほどの太さで束になって入っていた。彼は手に取っていた。


……ああ。姫の香りがする。こんな美しい髪をくれるなんて。


姫にとっては自分はただの警護。この手紙も社交辞令、この髪も王家の決め事なのかもしれない。しかし、彼は嬉しかった。こんな胸熱の彼、必死で手紙をかき終えた。ただ『お元気ですか。お困りのことがあれば連絡ください。必要なものは届けます』と書いた。これを翌朝、マティスに託した。



◇◇◇

「大変だよ」

「どうした」

「あのな!古城は空なんだよ」

「え」

「誰もいない。暮らした形跡もないんだよ」

「まさか」


……盗賊に襲われたのか?おお。なんてことだ。


マティスの声に、彼は倒れそうになっていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ