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3 姫の新居はお化け屋敷

アリと数人の側近達は荷物を古城に運んでいた。ファビオは部下に古城を確認させていた。


「姫。ここで休んでください。確認してから入ります」

「……ありがとう。気を遣ってもらって」


……やはり。暗い。そうだろうな。こんなお化け屋敷に住むんだから。


寂しそうなマリア。ファビオは胸が傷んでいた。ここで安全確認が出たためファビオは流れでマリアと一緒に古城に入って行った。


「姫。あの、本当にここに住むのですか」

「はい。静かで良さそうですね」

「まあ、確かに」


森奥の廃墟。ここに若い王女は住むという。ファビオは首を傾げていた。


……そんなにこの姫は呪われているのか?もしや、罪人とか。


崩れかけた廊下を進んだ二人。足元の石畳がぼこぼこになっていた。ファビオも歩きにくかった。


「姫よ。私に捕まってください」

「平気よ。私一人で……あ?」

「危ない!?」


転びかけたマリア。思わず抱きとめたファビオ。その大きな声。マリアはくすくす笑った。


「大きな声ね」

「恐れ入ります。自分は普段、うるさいところにいるもので」

「ふふふ……じゃ、腕を借りますね」


マリアは彼の腕を組んだ。彼には花の香りがした。その顔の頬はなぜか染まっていた。


……元気が出たようだな。よかった。


「……姫様」


ここで暗い廊下の奥から低い声がした。ファビオ。恐ろしさで彼の毛が逆立った。


「うわああ」

「ファビオ。落ち着いて。あれは婆やです」

「婆や?って。召使いですか」


そこには白い服を着た老婆が立っていた。


「マリア様。お疲れ様でした。そちらの殿方は例のお方ですか?」

「し!婆や。何も言わないで」


……なんだ?俺のことか?


しかし。マリアは必死で恥ずかしそうに婆やに訴えていた。こんな二人は事前に古城入りしていた婆やのもてなしを受けた。


この日は帰る予定だったファビオ。しかし。賊の襲来を懸念した彼は野営することにした。


「すまんなマティス」

「いいさ。それにしても、あの姫様。本当にここに住むつもりかね」


誰の目に見てもボロボロの城。しかも他に誰も住んでいない屋敷。焚き火の前の騎士達も心配顔をしていた。

ファビオもまた不思議そうに草に腰をおろした。


「俺もそう思う。っていうか。住めないと思う」

「だよな?それにしても、それだけマリア姫は王族として相手にされていないんだな」


まだ若い娘のこの冷遇。ファビオは気の毒に思っていた。


……呪われているとしても。ここまで酷い住処はないだろう。


他の同じ年頃の王族は、栄華に暮らしているこの国。反してマリアの暮らしは庶民以下に見えたファビオ。今日、抱きしめたマリアの温もりを思い出していた。


……痩せていたし。まだあんなに若くて。


「ファビオ。肉が焼けたぞ」


……それに……あの時は俺を助けようと馬車から出てきて。


「なあ。飲み物は?」


……そもそも。なぜ俺に護衛を指名したのか。なぜだ?


「うわ?ファビオ。マントが焦げてるぞ」

「……なぜだ?俺のことを」

「だめだ!?みんな。水をかけろ!」


そして。彼は頭から水を掛けられた。


「え」

「え?じゃない!お前、丸焼けになるところだったんだぞ!」

「すまない」


同僚に叱られた夜。食事を終えたファビオ。テントの隙間から月を見ながら彼は寝そべった。


……姫も。見ているだろうか。あの月を。


草の香りの夜の世界。なぜかマリアの花の香りを探していた。そんな彼もいつしか眠りについた。





翌朝。マリアは忙しく動いていた。そんな彼女は笑顔で近づいてきた。


「おはよう。ファビオ」

「お、おはようございます」

「髪に草が……はい。取れました」

「恐悦至極に存じます」


そんなファビオをマリアはじっと見つめた。


「まあ?眠れなかったの?目の下が真っ黒よ」

「そうですね。眠れませんでした」

「お城の中が良かったかしら。無理させてごめんなさい」

「いいえ。自分が勝手に寝なかっただけですので」

「無理をしないでね?あ。こちらに朝食ができているのよ!来て」

「あ、ああ」


腕を引かれたファビオ。庭の囲炉裏の大きな鍋の前に連れてこられた。


「お城の中はまだ使えなくて。台所はここしかないの」

「自分は構いません」

「優しいのね。ええと、こんなスープしかできないけど」


そう言ってマリアは食器にスープを注いだ。そして白いパンを彼に渡した。草の上に座る彼は、驚きで受け取った。


「これは?姫が?作ったのですか」

「うん!パンは昨日離宮で焼いたもので、スープはここに生えていた野草を煮込んだの」

「いただきます……うまいです」

「良かった!」


満面の笑みのマリア。この日はピンクの服を着ていた。朝日に眩しかった。


……可憐とはこのことだ。しかし。どこが呪われているんだ。


やがて。他の騎士達もやってきた。さらにマリアの側近も食事を済ませていた。マリアはニコニコとこれを見ていた。


「あの。姫は食べないのですか」

「味見をしたから私はいいの。それよりもお代わりは?」

「では。あと一杯だけ」

「はい!」


こうしてファビオは遠慮なく食べ尽くしていた。そして帰る時間になった。ファビオは馬が来るまでマリアのそばにいた。


「ねえ。ファビオ」

「はい」

「これを。持っていってちょうだい」

「なんですか」


小さい布包み。マリアは開くように言った。そこには手紙が入っていた。


「それは。あなたが私をここまで送ってくれた証拠の品になります」

「なぜ、こんなものを?」

「……だって。王に報告するでしょう?それに。ただの感謝状だから。自宅に帰ってから開けてちょうだい」

「わかりました」


胸に収める様子。マリアはじっと見ていた。ここで声がした。


「全員揃いました」

「ああ。わかった。では姫」

「ファビオ。気をつけて帰ってね」

「……はい」

「皆さんも。ありがとうございました!」


ファビオ。姫の手前、さっと馬の乗った。そして彼女を振り返った。マリアは泣きそうな顔で見ていた。


「姫、あの」

「ありがとう。ファビオ。本当に」


最後は笑顔のマリア。その美しい微笑みに必死に前を向いたファビオ。城へと帰っていった。



「執政殿。マリア姫を古城へ送り届けて参りました」

「ご苦労であった」

「途中。街道にて賊に襲われました。あれは姫を狙った動きがありました。ここは調査が必要です。現在、私の部下が追跡を」

「必要ない」


執政は冷たく言い放った。


「どうせ物取りであろう」

「いえ?明らかに姫を探しておりましたが」

「賊はただ。馬車に乗っている娘が金目のものを持っていると思ったのだろう。調査の必要はない」

「ですが」

「ファビオ。お前は移動の護衛のみだ。後の古城の警備はこちらでやる。ご苦労であった。下がってよろしい」

「は、はい」


こうして下がったファビオ。傍にいたマティスと密かに帰りの廊下で話した。


「おかしいよ。調べなくて良いなんて」

「それよりもマティス。なぜ執政は馬車に乗っていた姫のことを知っているんだ」

「え。だって普通、姫は馬車だろう」

「そうじゃない」


ファビオは目を伏せた。


「執政は。『賊は馬車にいる姫が金目のものを持っていると思っていた』と言ったんだ。俺が腑に落ちないのは。なぜ賊は馬車にいるのが姫だと思った、ということだ。老人や金持ち男かもしれないのに」

「え、じゃあ、まさか」

「ああ。そのまさか、だ」


……大丈夫なのか。マリア姫は。


森の奥に置いてきた呪い姫。怖がりファビオの胸はいつの間にかマリア色に染まっていた。







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