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1 嫁が来ない俺に、呪い姫がやってきた。

「坊っちゃま。お父上からまた例の件で」

「……また結婚の話か」


騎士のファビオ:ロシターは面倒くさそうに髪をかき上げた。傷だらけの横顔。爺やは悲しげにため息をついた。


「坊っちゃまのお気持ちもわかりますが。ご両親のお気持ちも、はあ」

「俺だってわかっている!」


ファビオは疲れた顔で椅子に座った。そして上着を脱いだ。その筋肉の腕も傷だらけだった。


伯爵家の次男である彼。後継は兄であったので、自分は王の側近として存分に力を発揮していた。気ままな独身貴族。しかし、心配性の母親が結婚を望んでいた。


……俺だって、年頃になれば嫁など簡単にもらえると思っていた。


しかし、戦いによる負傷にて、身体中に傷を負っていた彼。見た目は最高に強面。男性の同僚には尊敬されるが、元々の低い声や、高身長から見下ろす鋭い目線に女性達に悲鳴を上げさせていた。


任務さえ頑張っていればいつか女性が振り向いてくれると思っていたが、その考えは甘かった。次々と結婚を決める仲間達にファビオは焦っていた。


「わかっている。だから先日のパーティーにも参加したんだ」

「暗殺者を倒したパーティーですね。しかし、それを目撃した令嬢達に人気が出るかと思いましたが」

「あれは逆効果だったようだな」


王族を狙った刃物を持った反逆者。これを取り押さえたファビオ。勢いで男の腕をへし折ってしまった。


……しかし。あの時はあれしかなかったし。


これを間近で目撃してしまった女性達は卒倒したくらいだった。彼はまた心が折れかけていた。こんな老執事のしつこい話に逃げるようにファビオは過ごしていた。そんな時、彼は部下で幼馴染のマティスと話をしていた。


「そうだよな。あの時、相手は泡を吹いていたもんな」

「王の前だぞ?それに刃物を持っていたし、手加減などできなかったんだ」

「お前らしいよ。ところでさ、結婚って、いいところもあるけど。大変だぞ」

「そうなのか?」


新婚のマティス。ため息で酒を飲んだ。新妻は彼の母親と仲が悪く、板挟みで辛いと打ち明けた。


「そうか。お前の母親は、昔から厳しかったもんな」

「ああ。だから彼女も参ってしまって」


顔色が悪いマティス。これをファビオはしみじみ見つめていた。


……そうか。結婚が幸せとは限らないんだな。


ファビオの両親は親が決めた政略結婚。しかし、それなりに仲良くしているようにみえていた。しかし、今のマティスのやつれた顔を見ると。結婚が全てではないと思い返していた。


……無理をして結婚しても。互いに不幸になるだけかもしれない。


後継者の兄にはすでに男子が誕生している。ファビオは幼馴染の生活苦を見て、結婚をあきらめるようになっていた。



そんな彼は父親に呼ばれた。


「ファビオよ。お前に極秘の頼みがある」

「極秘とは。珍しいですね」

「……お前は離宮にお住まいのマリア姫を知っているか?」

「え?離宮の姫?初耳です」


初めて聞く名前。ファビオは騎士を引退した老父を見つめた。


「そうだ。離宮にいるマリア様は、まだ十六歳であるが、現在の王の叔母に当たるのだ」


父の説明では。マリア姫は先々王の末子と話した。老齢の父は次男を前に説明した。


「現王の祖父に当たるアコスタ王は、妻を何人も持っていた。しかし、マリア様が母親のお腹にいる時にアコスタ王が亡くなってしまった。このためマリア様は王族の資格が与えられなかったのだ」

「……アコスタ王の亡き後、誕生したとは?だから正式に認められなかった」

「ああ。しかも。彼女の母親は出産時に亡くなってしまって。マリア様は密かに離宮で育てられたのだ」


ここで老齢の父は険しい顔になった。


「マリア様は幼き頃より変わったお子様でな。乳母が言うには世話をするととても疲れると言ってな。使用人が長続きしないのだよ」

「それは。手がかかると言うことですか?」

「いや……動物も近寄らない。花も早く枯れるなど。このせいで、呪われ姫と言われているのだよ」


……怖い。


戦う男であるがファビオはこの手の話は弱かった。父の暗い顔にすっりびびってしまった。


「それで、お、俺に何をせよと?」

「そのマリア様が。離宮から引っ越しをされるのだ。その移動の際の護衛を頼まれたのだ」


……なぜ俺に?


それを言うとした際、父親もお茶を一口飲んだ。


「なぜ我が家に頼んできたのか私も気になったが、執政が言うには。誰も引き受けてくれないそうだ」

「そうでしょうね」


……呪われ姫……超怖いんですけど。


びびるファビオに父は目を向けた。


「我が家としてはここで恩を売っておきたいところだ。それに。これは移動の際の護衛だけだ。お前ならできるだろう」

「しかし、呪われ姫とは……」


珍しく考え込む次男。父親はそれに気がついた。ファビオは近衛隊でも三本指に入る男であるが現在、怪我のため雑用に徹していた。これの気分転換に良いと思ったが、次男の考え込んでいる様子に父の思いは決まった。


「ファビオ。迷いは禁物だ。ここは、無理しなくて良いかもしれぬ」

「え」

「お前はまだ怪我が完全に癒えておらぬしな。よし!それを理由に断ろう」

「良いのですか?」

「ああ。うちが断れば他がやる。お前は気にせず怪我を治せ」

「はい……」


こうして彼は実家を後にした。帰り道の馬上、マリア姫のことを思っていた。


……きっと。誰かが護衛をするよな。


三ヶ月前。彼は王を庇い、弓を身に受けていた。自ら弓を抜き傷が塞がっていたが、弓の一部が身に残っているようで、時々、胸が痛んだ。おかげで力は入らず剣を持てない今。このため彼は担っていた国境警備から外されていた。


……そうだ。俺は早くこの傷を治せねば、任務に戻れぬ。


しかし。手術などできない深い箇所。完治は無理の可能性が大。こんな彼は自分に言い聞かせながら王宮のぬるい勤務に苛立つ日々を過ごしていた。



◇◇◇

「おい、ファビオ。呪い姫の話って聞いたか?」

「ぶ!マティス。その話をどこから」


王宮の警備の休憩中。ファビオは飲んでいた水を吹き出した。マティスは面白そうに話した。


「侍女達が噂をしていたんだ。離宮のお姫様が引っ越しするのに、誰も護衛をしてくれないんだとさ」

「そ、そうなのか」


……まさか。誰も引き受けないのか?


大汗のファビオ。自分の責任を感じた。が、それを知らない幼馴染は続けた。


「ああ。姫側から信用のおける人物を指名したそうだが、その人物が健康上の理由で断ったそうだ」

「しかし、他にも兵はいるだろう」


背中に汗のファビオ。マティスは首を横に振った。


「いいや。姫が拒んでいるそうだ。だから今は、お供だけで支度をしているらしいぞ」


……嘘だろう?


「どうした?ファビオ……顔色悪いぞ」

「マティス。あのな。俺、姫の護衛を頼まれていたんだ」

「え?お前が?」


マティスは驚きで目を向いた。


「な、なんで?」

「知らん。それに呪われ姫だから。父上が無理しなくて良いと言ったし。それに俺も万全じゃないから」

「……お前は責任感があるからな」


ここで落ち着いたマティス。これにファビオは心をこぼした。


「俺を指名なのは知らなかったし。それに他に誰かが行くと思っていたんだが」

「まあ、そう気にするなよ?これから誰かが行くかもしれないし」

「あ、ああ、そうだな」


……だが、誰もいないのは……問題だな。


見知らぬ姫、異名は呪い姫。断った判断は正しかったのか。正義感の強いファビオは悶々とした思いで屋敷に帰ってきた。

そして。ざんざん悩んだ挙句。父に頼み、この護衛を引き受けることにした。


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