表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

湊しずく その1



「いやー今日の転校生さ、やばかったねぇ、さすが「まるふくの君」だよね。はんぱなかったねぃ。みんな恋に落ちてたよね。男子もいれて。でもさ、糸ちゃんうれしかったでしょう」

「うんうん、運命としかいいようがないかな、わたしと「まるふくの君」は、もう付き合うしかないかもと思ってるよ」

「だね、付き合うしかないよねぃ、ただ、ライバル多いねぇ、他のクラスはおろか、他の学年までライバルはいるらしいよぅ。」


 ここはアルバイト先、ブーランジェリー「まるふく」のレジの中。

 お客様が使い終わったパンを置くトレイを高速で拭きながら、しずちゃんが話しかけてくる。

 赤ランプ絶賛点滅中の沢渡さんの親友、称号「松田醍醐ファンクラブ会員番号2番」を持つ女。湊しずくは三ヵ月前、ブーランジェリーまるふくにアルバイト入店していた。



 三ヶ月前。放課後のアルバイトに精を出していると、湊しずくさんがアルバイト募集の面接のため店に訪れた。


 「いらっしゃいませ」


入店のお客様に挨拶する。

レジを打つ私と目が合った。


 (これは辞退するだろうな)と、思った。


 沢渡さんと親友の湊さんは、醍醐が私に話しかけるたび、敵意のある視線を二人して私に送っていたからだ。

 実際面接が終った後には、こちらに目を合わさないで帰っていったしね。


 また新人さん入らずか、このハードなシフトはいつまで続くんじゃろな。

 学校が休みの日は朝から通しで入っているし、週7日出勤なんていうのも何度か経験させていただいた。ぶらっくなのである。

 

 顔にマンガのような縦線を入れながら、バイトが終わるまでもの思いにふけっていたら。


「さっきの面接に来た湊さん、採用したからユニフォーム用意しておいて。糸ちゃんと同じ学校の子だね」

「ちなみにクラスも一緒ですよ」

「おぉ~。お友達かいもしかして。人員不足を心配して紹介してくれたのかな。ありがとう」

「いやいやぜんぜん偶然です」


 店長から意外にも採用のご報告があった。ユニフォーム整理係を拝命している私に指示がでる。ちなみにユニフォーム整理係というのは、限られた枚数の制服をシフトに応じて皆に分配し管理するという地味な係だ。


 まじか。


 赤い光点の人がバイト先にも来てしまうとか。

 

「なんでもね、磯辺焼き明太フランスが好きすぎて、一緒に働きたいと言ってくれたんだよ」「それは期待度大ですね」


ドヤ顔で店長が胸を張って告げて来た。

 磯辺焼き明太フランスは店長の考案した、ゲテモノフランスシリーズの店長自慢の逸品なのだった。

 転校生様と同じパンが好きな人に悪い人はいない。きっと湊さんは素晴らしい女の子だろう。私にはわかる。1分前の私とは180度変わった考えにチェンジした。


「それでは、一週間後までに採用か不採用かの連絡をします。連絡がなかった場合は不採用になります」


 という、いつものパターンではなく、面接その場ですぐ採用という欲しい人を絶対逃がしたくない場合にしか使わない、店長の気合の一手だった。


 ふむふむ。


 湊さんなかなかやるなと感心し、なんだか仲良くなれそうな予感がしていた。



 

 


「わかってるとおもうけど、今日の転校生「まるふくの君」に想いを寄せたら、生命の保証はしないよ。」

「大丈夫、醍醐くんファンクラブで充分だから。ふふふ。」


 満面の笑顔で、我ながら物騒なことをしずちゃんに告げる。

 裏に色々な思いや感情、考えを乗せているのかもしれないが、油断したら惚れてしまいそうな笑顔で返してきた。

 だから、しずちゃんけっこう好きなんだよね。

 仲良くなるのは本当にすぐだった。


 湊しずくこと、しずちゃんは背が低い。

 私よりだいたい頭一個分ほど低いが、かなりの美少女だ。

 印象的なのは、その大きな黒目。

 私のようなカラコンとは違って、天然ものだ。

 目力があるというのだろうか、視線が合うだけでちょっとドキドキしてしまうほどに引き込まれる。

 アヒル口の口元はいつも笑顔の形をしており、つられて微笑んでしまう。


 そしてなんかいい匂いがする。


 パン屋のアルバイトなので、パンの香りを阻害する匂いのあるものはNGとして徹底されている。

 しずちゃんの香りは、香水でも柔軟剤でも石鹸でもシャンプーでもないのだろう。

 フェロモンともなんか違う気がする。

 

しずちゃんの香りなのだ。


 髪の毛は綺麗に帽子の中に織り込まれ、折り目きちっとした清潔感漂う制服姿は特筆ものだ。

 非常にモテ度の高いリア充の階層に存在しているはずだが、親友の沢渡さんの印象が強いためか、そのポテンシャルに見合わない控えめな印象をクラスに与えている。


 わざとそうしていると私は踏んでいるんだけどね。


「ねぇ糸ちゃん、頼みがあるんだけどぅ。」

「なんでしょうか」


「まるふく」の従業員休憩室で休憩をしている間、ひと寝入りしようとマイ枕を鞄から出したところで、しずちゃんが話しかけてきた。

 私の睡眠を妨げるものは敵で、人の頼みごとでよかったためしはないが、聞いてみる。

 なぜなら、しずちゃんの称号に「神谷糸の親友」というのが、現れているから。


 おぉ



 沢渡さんに怒られちゃうよと思いながらも、どんな頼みが来るのかちょっと心惹かれている私がいた。

どきどき

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ