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4/10

「unknown」



いったいこれは。


MMORPGのステータス画面のような感じと言ったらいいのだろうか。

瞳の中にある右上のウィンドウにはレベルと称号と職業と書かれている。

左下のウィンドウにはメニューと書かれている。


この二つのウィンドウが、ミジンコピンピンの動きに合わせて出現した。


それほど視界を妨げる感じはしなく、そちらに視界を向けるとハッキリ見える。


ごめん、ちょっと意味わかんない。


混乱した頭が、さりげなく今の状態にツッコミを入れる。

ミジンコぴんぴんの動きに合わせて、ウィンドウが反応しているのを見ると、ミジンコぴんぴんはパソコンで言うところのマウスの役割をしているのだろうか。

レジの前で並んでいるお客様にミジンコぴんぴんを当てると、自分だけでなく他人のステータス欄も見れるようだ。あたし人間やめちゃった?

名前と職業と称号の表示されたウィンドウが浮かび上がる。

ミジンコぴんぴんのカーソルをお客様に当てながらタップするイメージで軽く叩くと、ポップアップしたウィンドウの一つ下の階層を表示する。称号に合わせて叩いてみると、いくつかの称号が浮かび上がった。

人によって称号は複数持っているようだ。

「まるふくヘビーユーザー」なんてのもある。

その人の現在状況によって表示される称号が変わっていく感じかな。


同じイメージで、こんどは自分のメニューをミジンコぴんぴんで押してみる。

視野の下方に薄い横長の形で、新しいウィンドウが開く。


装備 合成 ガチャ その他 空欄 空欄 決定キー表示


「ガチャって。」


ちょっと声に出して笑ってしまった。

あ、ちょっと気を取られすぎてた。レジが更に混んできてレジに集中しなきゃと考え始めた瞬間、頭の中にお花畑が広がるのを感じた。

突然あほの子になったわけではない。

私の心の動き。

トキメキ感を表現してみた。


「お願いします。」


ふわっと引力を無視したような、優雅な放物線を描いていくつかのパンがのったトレイが私のレジに置かれる。

目の前に置かれたトレイに乗っているパンの種類を見たあと、脊髄反射で目の前のお客様をちらみした後、目を伏せる。


いつも素敵です。


わたしのレジに来てくれた、これは運命に違いない。

3ヶ月ぐらい前から定期的に来てくれているお客様。年の頃は私と同じ17歳下少し上といったところであろうか。年配のお客様の多いブーランジェリー「まるふく」では珍しい年代だ。一言で言うなら美しい。これほど目を引く美しい男の子がいるだろうか。

全身を黒一色に染めた服からでる肌は陶磁のように白く透明だ。

このピークでごった返す店内の時間が止まったに違いない。

夜空に映える月のようだ。

口元からよだれがたれそうになる。おっといけない美幸さんにまた言われてしまう。


そう


選んだパンであなただとわかる。


ブーランジェリー「まるふく」の君。


磯辺揚げ明太フランスに、アンパンマン牛乳。


トレイの置き方までも美しい。


今日はいい日だ。

一日幸せな気持ちで過ごせるだろう。


あなたに逢えたから。


しかし。


私は見てしまった。


彼のステータス欄に浮かんでいた称号を。





「unknown」





「まるふくの君」あなたは一体。





 そして私の称号「まるふくの自称看板娘」の裏にあるもう一つの称号。

 そこには「異世界転生者」とあった。


 







★★★★★★★★★★★★







頭がいいわけでもなく悪いわけでもない、真ん中らへんの偏差値の学生が通う浅葱峰あさぎみね高校。

2年3組の窓側後ろから3番目の机に位置する場所が、わたしのこのクラスでの定位置。

右を向けば窓から見えるお気に入りの景色がある。遠くの山の中腹にある浅葱峰緑地ばら苑が見えるのだ。

春の開花の時期が迫るばら苑は三分咲きといったところであろうか。楽しみで仕方がない。そんな私の視界を遮るものがいた。むむ。


目の前に立った人物に心の中で………ちっと舌打ちをする。殺気も漏れたかも。


「で、ご用は?」

「あ、うん」


広義の意味での幼馴染、松田醍醐まつだだいごが、あたしの机に肘を置きながら前の席に座る。こっちを向くなよ、前を見ろ。

広義の意味というのは、家が近い。と言うかお向かいさん。

ただそれだけだからだ。


自宅の前の道の向かいの家の子だから、醍醐のことは子供のころから知っている。

家が目の前だからといって、同い年だからといっても男女の性が違えば親同士が特別仲がいいわけでもなければ、ほとんど接点はない。実際、おはようございますや、こんばんはくらいしか、話したこともない。

偶然同じ高校、同じクラスになるまでは、単語2つ以上交わしたこともなかったように思う。小学生の頃は特に同い年の女と話すのは恥ずかしいという、よくわからない理論のもと避けられていたようにも思う。

少し話しただけで、あいつら付き合っていると、からかわれるような年代だしね。

醍醐には年の離れた弟くんもいた。10歳くらい離れていたように思う。何年か前に交通事故で亡くなってしまったが、この子とは少し接点があった。少し悲しい記憶だからここでは思い出さないでおくけど。


そんなわけで醍醐とは大雪が降った翌日に、雪かきで何度かご一緒したくらいしか、印象がない。腰の引けた、いやいや雪かきやっているようなその姿に、いらっとした覚えがある。

 やらなきゃいけないことは、割り切ってさっさとやる主義の私としては、そのあたりから醍醐とはあまり関わらないでいこうと思い始めた気がする。




その松田醍醐が、あたしの前の席に座っている。

広義の意味の幼なじみだね

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