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刻とバラの魔王スレドフェイトの呪い

 異世界フォルマ=ギアナには春と秋しかない国がある。


 その国の王である魔王が刻の大魔法によって、気候さえも変化させた国だ。


 その国の名前をスレドフェイト。

 魔王スレドフェイトの名がそのまま国の名前となった。

 1年を通してバラが咲き続ける国。


 魔王スレドフェイトが何を考えて、1年中バラの咲く国を作ったのかは誰も知らない。

 バラの咲き続ける魔王の理想郷に、多くの魔族が寄り添っていった事によりできた国。


 その見渡す限り地平線まで続く、バラの園の中心に天空まで届かんばかりの塔が立っている。

 塔の外壁にはつるバラが覆い、剪定の悪魔プラビルが常にバラの花が最も映える手入れを常時行っている。


「塔の悪魔」と呼ばれていた魔王の理想郷は、いつしか国となり、彼は「薔薇の魔王」とも「刻の魔王」とも呼ばれるようになっていった。


 塔の最上階にある宝物庫には、失われたとされる刻の魔法書や未来視の魔法書といった、失われた魔法書ロストマジックが収められていると噂されている。


風が吹く。

その風の名は魔王スレドフェイト。

 塔が現れてから300年。

 ずっと吹き続けていた。







バラの咲き続ける塔の門前に、二人の人影が現れる。


「魔王城っていうことであっているのかしらね。魔王スレドフェイトのバラの塔。幼い頃、母が絵本で読んでくれたわ。異世界に行きたい魔王の寓話。」


年の頃は20代と思しき白銀の髪を持つ女は、魔王城を前にして一切の緊張がないような表情で話した。


「すべての世界を征服する。野望高き第一魔王の冒険譚。今は失われた時空魔法、刻魔法、未来視等を駆使して、異世界も支配下にって話ですね、お嬢」

 こちらは20代から50代まで、すべての年代で当てはまりそうな年齢不詳な執事服を着た男。女をお嬢と呼んでいるところ従者か執事であろう。


「あら、私は離れてしまった恋人を探すためって教わったけれど」

「恋人=新しい支配地という隠語ですよ」

「夢がないわね」


この世界には9人の魔王がいるがその中でもバラの魔王は人気が高い。子供向けの絵本にもなっているほどだ。


「ここだけの話だけれど」

「いいねぇ。ここだけの話は大好物だよ」

 男が深いシワに笑みを浮かべる。

  

「この塔に招かざられるもので、生きて門を出たものはいないと聞いているわ」

「お嬢に招待状が届かないのはいつものことだからな」

 飄々と答える男の姿に、お嬢と呼ばれた女は安心感を覚える。

 手下の中でも最も信頼をおいている手練だ。


 準備期間に一ヶ月を使った。 

 各地の魔王が集まるというワルプルギスの夜会。

 魔王不在のこの時に合わせてバラの塔への侵入を図る。 

 狙いは最上階。バラの魔王の宝物庫。

 自信はある。

 これでも冒険者としては超のつく一流を自負している。

 男と女は静かに塔の中へと消えていった。



 扉の前。

 一ヶ月かけて揃えた装備の殆どは失われていた。

 必ず殺すと書いて必殺。必殺の仕掛けや罠、怪物、化け物、魑魅魍魎のバーゲンセールをくぐり抜けてここまで来た。

 

「ここで待っていなさいな」

 宝物庫の扉の前で女が言うも、男は取り合わず背後に女をかばうようにして二人で扉の中に消えていく。

 突然、呪文の詠唱が部屋中に鳴り響く。

 理解の範囲外の詠唱だが、これはわかる。

 冒険者としての勘が特大の警報を鳴らす。


「いけねぇ、お嬢ずらかりましょう」


 女は返事するよりも早く扉の反対側へ部屋の奥へと移動する。

 男は苦笑いを浮かべながら、女の行動をフォローするように背中を合わせて扉の蝶番を魔法で壊す。

 床が壁が天井が波のように歪み、動きを阻害する。


「これは、この部屋は生きているということかしらね」

「あっしらを捕まえようとする意思を感じますね」

「あら、殺さずに捕まえるとかお優しいのね。いや逆に怖いのかしら」

「いけねぇ」

 男が部屋中に生まれたバラのつるに足を取られるも、女がそのつるを切断する。鋼糸。と呼ばれるミスリルでできた糸が、女の指先からそよいでいた。男はその技量に、世界一の冒険者ハンターである自分の主人だけは生きてここから返さなければならないと誓う。


「もう用事はない。逃げるよ」

「アイアイマム。派手にドンパチと行きましょうや」


 部屋に響いていた呪文の詠唱が終わり、二人を呪いの矢が貫いた。

 

 



 夢の中で何度も伸ばした手が空を切る。

 あの指先にいた、存在。

 夢の中で出会う異性の存在はどうしてこんなにも、心動かされるのだろう。

 無自覚な恋心はいま、桜吹雪のようにゆれている。

 真実の輪郭を形作れないまま、揺れていた。

 眠りから覚めるまどろみの時間の中で。



 雪が。

 雪が顔に落ちていく。

 やさしく頬に触れては解けていく雪に、自分の体温を感じ生を確認していた。

 舌を伸ばして、頬を伝う解けた水をなめるように飲み込む。

 深い闇が支配する。


 バラが咲き乱れる森の中。

 女は降り積もった雪のなか倒れていた。

 雪が音を吸収し、たった1つの雑音も聞こえなくなっていく。

 男は宝物庫の扉を締め女を外に出し、塔に残った。

 女はここまでどうやって逃げてきたのか記憶も定かではない。


 (まだ死ねない)

 (どうしてこうなったのか)


 雪の中の逃避行。

 深い雪の中眠るように落ちていく。

 魔王の哄笑が聞こえる。


 女は刻とバラの魔王スレドフェイトの呪いによって異世界へと転生された。


あれれPと申します。

君の心を動かせるようなお話を作るのが目標です。

よろしくお願いします。

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