2.それぞれの道~落ち着ける場所を見つけた後追い星~
ザザッと波の音を聞く。
やはり海は良い。心が安らいでいく。
椅子に座っている状態で、背を凭れさせ、目を軽く詰めっている。
少し風が吹いてきた。午後になって数時間、気温が下がり始めている。とはいえ、過ごしやすい気温だ。
髪が風に揺れている。
「後三、四時間で雨が降りそうだな」
「お、アシド、ここにいた!」
「んあ?」
アシドが横を見ると、そこには金髪に青紫のドレスを着た少女がこちらに来ていた。
「雨降るなら戻った方がいいかな?」
「いや、まだ時間があるからいいよ。それにアストロを迎えに行かなきゃいけねぇしな」
「アストロの事大好きですなぁ」
アルバトエルは岩場に注意しながらここまで昇ってきた。少女は質問しながら椅子に座ってくる。いや、オレの膝の上か。
アルバトエルは向かい合うようにして座った。足を膝上からなくしているとはいえ、少しは脚が残っている。アルバトエルの小さくとも柔らかいお尻が、アシドの脚でグニグニと形を変えている。
「アルバトエル」
「アル。アルって呼んで」
「分かった分かった。アル、アル! これでいいか?」
改めて名前を呼ぶと、アルバトエルはアシドの胸に頭をぐりぐりと押し付けてきた。
いろいろと動くため、ずっとお尻が形を変えて押し付けられている。正直に言えば、アシドだって現役を引退せざるを得なくなったとはいえ、まだまだ若いのだ。アシドのアシド=サンだって反応してしまう。
「アル、オレだって男の子だ。そんなに接触されると、襲っちまうかも、だぜ?」
「いいよ、別に?」
「え?」
アシドの冗談にアルバトエルはまともに受け入れた。
「えぇ、我々はアストロから、子を授かっても構わない、と許可をもらっていますし」
「許可? え、許可って何? 何の話?」
後ろから近づいてきたのは金髪に紅赤色のドレスを着た少女が、アシドの顔を真上から覗き込んできた。アシドが上を向くと、チラスレアの顔が逆さまに映る。
チラスレアはアシドの両頬を優しく挟み、じっと瞳を覗き込んでくる。
「許可ですよ、許可。アシドの子を産む許可ですよ」
「え、マジで? アストロが許可出したのかよ」
「私も聞いたぁ~」
微笑み顔のチラスレアが怖い。間延びした声を出すアルバトエルの台詞も怖い。年齢的には子作りOKだとしても、見た目は十代前半の子供なのだ。手を出すのが憚られる。
というか、オレの知らないところで、何か事が進んでいるのが怖い!
「いつの間にかそんな話が」
「うふふ、貴方が眠っている間ですよ」
「マジかよ」
アシドはチラスレアの両手から解放されると、頭を抱えた。オレの妻は一体何を考えてるのだ!?
そもそもバンツウォレイン王国は一夫多妻制を認めているとはいえ、実際に複数の妻を娶る人は少ない。コストイラは堂々と歩んだが、オレは歩ける自信がない。アストロ、オレを殺す気か?
「ところでアシド?」
「ん?」
「そろそろ出発すれば、学舎の授業の終わりに着けますよ」
「あぁ、そうか」
アシドはチラスレアの言葉を聞いて、海を見た。
「じゃ、うちのお姫様を迎えに行くか」
「えぇ、分かったわ」
アシドが行く合図を出すと、チラスレアは片手で車椅子を持ち上げて反転した。