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想い巡らし月仰ぎ  作者: sugar
後日談
8/14

1.それぞれの道~稀代のハーレム王~

「ありがとうございます、ありがとうございます!」

「なぁに、良いってことよ。こういう時はお互い様だからな」


 コストイラが村のお爺さんに手をブンブンと握手されている。

 コストイラはなにかこう、超デッカイ獣とか言いようのないものと戦っていた。この村の畑を荒らすので助けてほしい、と依頼を受けたのだ。


「どうぞこちらをお納めください」

「いやいや、畑が荒らされたんだ。そっちだって苦しいだろ?」

「いえいえ、こちらは私共の気持ちですので、貰ってほしいです」

「断りづらいこと話してきやがったな。そこまで言われてたら、受け取らないのは無礼か」

「えぇ、えぇ、貰ってください」

「ありがとうございます。妻達も喜びます」


 袋一杯の野菜を手に、コストイラが村を離れた。


 コストイラは真っ直ぐ森の中へ入る。これまでの森は魔物に警戒しなければならなかったが、現在の森は野性の獣に警戒すればいい。あまり変わっていないように思われるかもしれないが、だいぶ違う。前者はレベル30くらいまでのものが出るが、後者はレベル15くらいまでしか出ない。たったの15。それでも数十万人分の冒険者の数がいる。その数十万人が護衛のような職を得られるようになったのはかなり大きい。


『おぉ、野菜だ。トマトに、ナスに、最硬野菜(ヘルタルベジ)。全部新鮮で旨そうだね』

「そうだな」


 袋の中を覗き込むように現れたのはアイケルスだ。

 

 あの決戦の後、コストイラは天之五閃メンバーであるエレスト、アイケルスと合流した。久し振りに会えたことで、お姉さんがしたいアイケルスは、コストイラの左手を揉みながら闇で覆っていった。

 闇は今もコストイラの左手を覆っている。凄いことだが、その闇はコストイラの神経に繋がっており、左腕が動かせるようになっていた。


『どう? 左腕の調子』

「日常生活への支障はねぇな。でも、戦いにはついて来れてねぇな。今のところは、相手が弱ェから助かっているが、エレストとかと戦うってなったら無理だ。ついてこれねぇ」

『うーん。改良が必要だね』

「別にもう本気で戦う気なんてないわ。ごめん。言い換える。殺す気で行かなきゃいけないことがなくなったわね」

「エレスト」


 ふと名前を出しただけなのに、いつの間にか隣にはエレストが。本当にいつ来た。


「ちょ、勘違いしないでよ!? ちゃんとセルンの体力向上のための運動も終わらせているし、サヒミサセイの神魔力の循環も済ませたわ。今の私は自由時間!」

「家でまったりしてりゃいいのに」

「待ったりなんてしていらんないわ。もう今は種族がわけ分かんない状態になって、グレイソレア様から不老不死ですねって言われたけど、生き急いでいた毎日のせいで、じっとなんてしていらんないのよ」


 エレストが少し早口で言うと、コストイラの手元を見た。


「あら、お野菜貰ったの? じゃあ、いくつかフラメテにお供えする?」

「そうだな。母さんは最硬野菜(ヘスタルベジ)が好物だったし、墓に供えるか」


 コストイラ達は寄り道するために道を外れた。

 しばらく歩くと、墓に辿り着く。


「お、グリード」

「うん? やぁ、コストイラじゃないか。君も墓参りかい?」

「あぁ」


 墓場には、花を一輪持った先代がいた。その隣にいるナギは青い顔をしてカタカタと震えている。どうした? 病気か?


「ナギじゃん。まだ生きていたのね。おめでとう」

「し、師匠」

「え、師匠?」


 何気ないエレストの一言にもビクついている。


「今のってどういう意味だ? 弱ぇのにってことか?」

「違う違う。私の教えた流派の動きは、命を燃やすものなの。使いすぎると燃え尽きて死ぬわ」


 その事実を聞き、アイケルスはドン引きである。死に急ぎ集団なのかよ。


「し、師匠の方も壮健で」

「今のを聞くと、師匠が死んでないのって相当な生命力ってことだよな。不死魔族は先の魔力消失で絶滅したわけだし」


 震えながら礼をするナギの横で、グリードはエレストの外観を隅々まで見る。エレストはさも当たり前のように答える。


「ま、私、どうやら不老不死になったっぽいしね」





 先代勇者に少なくない衝撃を与え、コストイラ達は帰路に着いた。


「さっきの戦いで汗ェかいたし、風呂か水浴びしてぇなぁ」

「いいんじゃない? 別に」

『そうね。私達は夕ご飯の準備をしているわ』

「ありがとう、助かるわぁ」


 コストイラはクリストロの郊外にある自宅の扉を開ける。


「ただいま~」

「ただいま」

『ただいま』


 返事はない。


「セルン達どうしたんだ? 寝てんのか?」

「そうなんじゃない?」

『じゃ、私達はご飯の準備するわ』

「オレは汗を流してくるか」


 コストイラは居間を通って裏庭に出る。風呂にしろ水浴びにしろ、ある場所は裏庭だ。

 ジャパ、と井戸の方から水音が聞こえた。もしかしたらセルンかサヒミサセイが両名かが寝汗を流し、拭いているのかもしれない。


 オレはできる男。ラッキースケベにならないように風呂場へと行こう。

 コストイラが風呂場脱衣所の扉を開けた。


 しかし、コストイラはやらかした。ラッキースケベが起こってしまったのだ。

 目の前にはしっとりと濡れたサヒミサセイとセルン。

 サヒミサセイは大人っぽいデザインのランジェリーを身に着け、ズボンを履こうとしているところ。

 セルンは何も身に着けておらず、床に着くほどに長い癖っ毛に苦戦していた。

 サヒミサセイの慎ましやかな胸の谷間も、セルンの可愛らしく小さなお尻もがっつりと見えてしまっている。


「す、すまッ!?」

「せっかちだな、コストイラ。少し待て、今着替え終わる。まさかそこを狙ったのか? 策士め」

「こッ、コストイラ!? こっちは心の準備が欲しいんだよ!?」


 コストイラは叱責を受けながら、慌てて外に出る。まさか二人が入っているとは。というか、見ること自体は容認していなかったか?


 ってことは、井戸の方にいる奴誰だよ。


 そこには、アスタットがいた。


『やぁ、コストイラ。久し振りだね』

「何でお前がここにいんだよ。お前は魔族になったんだから、死んだんじゃねぇのかよ」

『生きてはいないよ。死んだよ、間違いなくね。でも、私は自分の体に呪いをかけて復活した。凄いだろ? 私は天才だからな』


 キラキラとしたアスタットに面倒くさくなったため、家の中に入っていった。


「早いわね」

「え、あ! 汗流し忘れた」

「何しに行ったのよ」


 エレストに半眼を向けられてしまった。


『あぁ、コス君、お煎餅食べる?』

「シュルメまで来ていたのかよ」

『今日は美味しいご飯が頂けるって聞いたからね』

「冥界の女王が、そんな簡単にここに来ていいのかよ」

『大丈夫、大丈夫。平気、平気』

『ご飯できたよー』

「あ」

『お』


 呼ばれたコストイラ達は、居間へと向かっていった。

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