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想い巡らし月仰ぎ  作者: sugar
サナエラの忠誠心とリックの苦悩
4/14

4.女は姦しく旅を楽しみ、男は独り寂しく旅に連れ添う

 アルバトエルがそわそわしている。


 原因は久しぶりのお出かけだからだけではなさそうだ。アルバトエルは一緒に寝かせてくれるという対応を見せたアシドを気に入ったようだ。そのアシドに会えるので心が浮足立っているのだろう。最近は頻繁に身だしなみのチェックをしたり、体を洗ったりしているので、元から可愛らしかったアルバトエルが神がかっている。


 チラスレアは神を嫌う側の存在だが、この時ばかりは神に感謝した。


 アルバトエルはサナエラやリックに言いつけて着ていく服を厳選している。すごく真剣だ。放置されているチラスレアは少し寂しい気持ちになったが、可愛くなっていくアルバトエルを見ていると幸せな気分になるので良しとした。


 地下の部屋を覗くと整理整頓されており、以前と比べ物にならないほど綺麗になっている。それほどアルバトエルはそわそわして落ち着かないのだろう。


 さらに最近はサナエラに弟子入りしてお菓子作りの勉強している。カヌレやらスフレやらアップルデニッシュやらたくさん作っている。そのたびに美味しい組み合わせになる紅茶と一緒にチラスレアのところに持ってくる。とてもいい笑顔でお姉様食べて、と持ってくるので断らずに食べているが、正直すごく嫉妬している。これらの愛情はチラスレアに向いていない。向かう先はアシドだ。チラスレアはアシドへ向かう愛に対してのフィードバックをしなければならないのだ。


 チラスレアはアルバトエルに愛されているアシドに苛立ちながら、口元を布巾で拭う。


「どう?お姉様?」


「えぇ、今日もおいしいわ。日に日に腕を上げていくわね、アル」


「えへへ」


 天使のような笑顔に苛立ちも浄化される。








 チラスレアは個人で馬車を保有している。現在はリックが御者として馬に鞭を打っている。幌で覆われた荷車にはチラスレアとアルバトエルとサナエラとリョウネンがいる。


「な、なぜ私も連れて来られたのでしょうか」


 ただのメイドであるリョウネンは冷汗を垂らしながら、体を細かく震わせて疑問を口にする。


「サナエラはとても優秀だけど、分身はできないわ。腕が2本だとできることは限られてしまうもの」


 チラスレアが答えながらサナエラの右腕を取り、身を寄せる。主の薄い胸が腕に押し付けられ、小さくとも形の変わるそれに顔から湯気が出そうなほど体温を上げる。アルバトエルは悪戯そうな笑みを浮かべ、姉とは反対の腕に身を絡ませる。アルバトエルはさらに首を伸ばし、サナエラの耳に息を吹きかける。サナエラは顔から湯気をボンと噴き出し、チラスレアに凭れかかるように気絶した。チラスレアは可笑しそうにクスクス笑い、膝を貸してやる。


 リョウネンはその光景を見ることすら恐れ多いと感じ、目を瞑って顔も逸らす。しかし、その行動は無邪気の権化アルバトエルには逆効果だった。


 アルバトエルはリョウネンの顔を覗き込みながら、真正面に立ちガバリと抱き着いた。リョウネンは驚きのあまり声が出ない。ここで突き放すのは不敬にあたるのではないかと考え、ただ受け入れるしかない。


 微笑ましく百合百合しい状態の荷車に対し、ただ男一人の御者席は何とも寂しいものだろうか。リックが溜息を吐いて肩を落とす頃には、温泉街が目の前だった。

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