6.それぞれの道~最強勇者、花嫁への道~
それは突然訪れた。
「花嫁修業をするわよ」
その発言をしたのはアストロ。一緒にいたエンドローゼはやる気満々で前のめりだ。私はどうしようか悩んでしまう。こういう時の決断ができないのは私の弱点だ。克服しないと。
結婚前の姦し三人娘は完全な冒険者だ。家事が全くと言っていいほどできない。自分の周りは出来るのだが、人と暮らすまでのレベルに達していないのだ。
「い、い、いいですね。でーすが、だ、誰をし、し、師事しますか?」
「まず、頼むからには知り合いの方がいいわね。私達のことを知っている方が、向こうは教えやすいでしょうし」
成る程。そういうものなのか。正直母に相談しようと思っていた。
「レイヴェニア、は無駄にスペックが高いんだけど、今アレンにお熱だからなぁ、来てくれるかなぁ」
「ム?」
「ごめん。私の言い方が悪かったわ。だから睨まないで、お願い」
「ム」
ザワ、とちょっとだけ殺気が漏れてしまった。いけないいけない。
「今、アレンって両目が使えないでしょ? だから、盲目でも暮らせるような訓練? 特訓? をしているのよ。対一じゃないわよ」
成る程。確かに何か人狼の子と一緒にアレンのところに来ていた気がする。あれのことか。
「わ、わ、私は、あーんまり思い浮かびませんね。メザパさんくらい、でーしょうか」
「メザパ。あぁ、あのカラカラ邸にいたメイドさんね」
「ですが、い、い、今どちらにいーらっしゃるのか、分っかりません」
エンドローゼがシュンとしてしまった。なぜだが分からないが、エンドローゼが悲しようにするのは、なんかちょっと嫌だ。とりあえず頭を撫でてみよう。エンドローゼは不思議な顔をしている。気持ちいいから止めてあげない。
「こうして考えると、私達って交友関係かなり狭いわね。シキは心当たりある?」
「お母さん」
とりあえず思い浮かんでいる名前を出しておく。
「お母さん、か。良いわね。確実に花嫁であったわけだしね」
採用された。
そして、私達はアアップ村に向けて出発した。
「ここがアアップ村。シキとアレンが生まれた故郷ね」
「こっち」
久し振りに返ってきた故郷に対する感慨はない。早くお母さんに許可を取らなければ。
「ただいま、お母さ
「おかえり~~~~! シ、キ、ちゃ~~~~ん!!」
最後まで言い終える前にお母さんが出てきた。
最速だ。ヲルクィトゥも相当速かったが、お母さんだってかなり速い。魔王インサーニアを倒した直後では目で捉えることすらできなかったが、今では分かる。動ける。
サクッと右足を振り上げる。向かってくる相手に対する反射のようなものだ。
マズイ。このままじゃお母さんを蹴っちゃう。お母さんも気付いている。ちょっと顔を引き攣らせている。
「あ」
バキ!!
「成る程ね。花嫁修業に来たのね。いいわ! お母さん、とっても張り切っちゃうわ!!」
顔の左半分を分かりやすく腫らしたヲヌネは大きくガッツポーズをして、力こぶを作った。
こう、無駄にテンションが高い時のお母さんは、余計なことをしでかす。
一瞬断ろうかと思ったが、アストロやエンドローゼが前のめりであるため止めた。友人を裏切れない。
余談だが、開始時の家事スキルトップはエンドローゼであった。貴族の侍女としていたことがあるのだ、当然だろう。
アストロは家事全般を覚えたのだが、家にはメイド長のサナエラをはじめとするチラスレア達の侍女がいるため、家事が必要でなくなった。