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想い巡らし月仰ぎ  作者: sugar
後日談
12/14

5.それぞれの道~捨てに捨てて今は最高の幸せを手に入れた~

「う、う~~ん」


 エンドローゼは唇についたスープをを舐めとる。首を20度ほど傾けて悩んでしまう。

 この味じゃない。


「な、な、何が、足ーりない、の、でしょうか。お、お塩、でーしょうか、ね?」


 エンドローゼは味見用の小皿を鍋の横に置き、塩の入った小瓶に手を伸ばす。

 エンドローゼは大量に置かれている調味料の大群を見ると、つい微笑んでしまう。これらすべてはフォン様が変装(バレバレ)をして届けてくださったものだ。有難く使わせてもらおう。


 今エンドローゼが作っているのは、かつてレイドと初デートで行ったお店で食べたコース料理だ。肉料理(メイン)サラダや揚げ物(オードブル)菓子(デザート)は出来たのだが、どうしてもスープだけが決まらない。

 スープを少々小皿へ移し、一口。


 うん、違う。


 こりゃ駄目だ。一度作り直した方がいいかもしれない。


「糖だな。糖が足りん」

「あ、こ、こ、コウガイさん」


 後ろからスッと現れた手は小皿を取り、スープを飲んだ。コウガイがスープの感想を言う事で、エンドローゼがコウガイに気付いた。


「と、と、糖、ですーか?」

「あぁ、人間はブドウ糖を摂取すると幸福(しあわせ)になれるからな。お前ら夫()婦の初デ()ート場所()のレストランの一連の料理(フルコース)を再現しようとしているのだろう?」

「は、はい! そ、そ、そうです」

「なら、糖が足りない」


 そう言うと、コウガイは(テーブル)の上にどんと革袋を置いた。


「こ、こ、これは?」

「うちで作った糖だ。是非使ってくれ」

「そ、そんな」

「アスミンも使っているところを想像して作ったんだ。断ってくれないでおくれよ」

「む、むう」


 感謝された、や努力した、という文句に弱いエンドローゼは受け取ってしまう。


「そ、そんなに感謝っさーれるようなことは、な、なーいです、よ? わ、私は当ーたり前のこ、事をし、し、しただけです、ので」

「その当たり前に感謝してんだ。それに感謝するのは当たり前だろ?」


 言い返されてしまい、もうエンドローゼは何も言う事もできない。


「また家に来いよ。カレトワにロッド、それにアスミンも会いたがっている」

「は、はい。そーれはもちろんっです。れ、れ、レイドさんといーっ緒に、行かせて、いただきます」


 エンドローゼが腰を折ると、コウガイは手をヒラヒラと振りながら家を出て行った。

 エンドローゼは革袋の紐を解くと、中を覗く。


「お。おぉ~」


 袋の中には綺麗な糖が入っていた。


 コウガイのところは四年ほど前から糖を作り始めた。どうやらアスミンやカレトワの神力操作の練習の一環らしい。エンドローゼは糖の作り方を知らないため、どんな練習になるのだろうか。


 糖は高級品だ。エンドローゼはゴール家の侍女をしていたが、一度しか見たことない。ちなみにフォンは月で広域的に生産をする体制を整えているため、毎日のように糖を造り出している。

 これはなぜかよく分からないが、グレイソレアがコウガイのところに居候しているらしい。何でだろう。何に繋がりがあるのだろうか。

 今度訪ねた時にでも聞いてみよう。と思いながら、スプーンで一匙掬う。


 コウガイの言う通り、少しばかりの糖を入れてみよう。贅沢かもしれないが、料理をおいしくするためだ。

 気付いてくれるだろうか。私の夫(レイド)はあれでも元々貴族だ。もしかしたら、菓子や食事で糖を食べていたことがあるかもしれない。

 スープを一口飲んで、これ、砂糖が入っているな? などと言われたら、笑ってしまうかもしれない。


「フフフ」


 もしもの話だけで、少し笑ってしまう。

 でも、気付かれなかったらどうしよう。自分から喋っちゃうかもしれない。

 でもでも、これ初デートのところの料理だな、なんて言われたら許しちゃうかも。


 小皿にスープを少し移し、口に運ぶ。


 うん、美味しい。これだ。


 エンドローゼは鼻歌を奏でながらエプロンの紐を解き始める。

 そこで、コツコツと外から靴音が聞こえてきた。この重さから来る音の大きさはレイドだ。間違いなくレイドだ。


「れ、レ、レイドさんは、どーんなか、感想をおっしゃーるの、で、で、でしょうか」

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