4.それぞれの道~立場が弱すぎる騎士団長~
「団長、こちらの書類にも目を通してくださいませんか?」
「ウム。そこに置いてくれ。すぐに確認する」
私はいつの間にか大忙しになっていた。
旅を終えてからすでに数年経っており、お誘いされて、現在は騎士団長などという役職を貰った。この役職を言い渡された理由は分かっているつもりだ。
それまでの騎士団長のレベルが56、私のレベルが851。私が団長の方が他国への牽制になると思ったのだろう。さらに私は元とはいえ貴族。事務系の仕事に任されると、考えたのだろう。
フッ、残念だったな。私の貴族としての二つ名は”野蛮人”。事務仕事は弟達の方が得意なのだ。
今、目の前に積まれている書類の山を見ると、溜息が出てくる。
『大変そうだねェ、クックック』
「……フォン様、何の御用ですか? 御覧の通り、私は忙しいのですが」
『ふん! 何だい、その態度は! その忙しさを解消してあげようと、馳せ参じたって言うのにさ!』
「お願いしまう。この哀れな私奴をお助け下さい」
『お、おう。土下座までしやがって。急な態度の変化ってのは気持ち悪ぃな』
フォンが鳥肌を押さえるように腕を擦っているが、関係ない。私は! 早く! 帰りたいのだ!
『ま、まぁ、君が何と言おうが、手助けは投入するつもりだったから、いいんだけどさ。助けてくれる人、来い!』
フォンが扉の方で手招きをする。
「やぁ、兄さん。手伝いに来たよ」
「兄上の役に立とう」
事務仕事が得意な弟達がやってきてくれた。
「いや、ありがとう。これで早く帰れそうだ」
『本当だよ!』
フォンは突然激怒た。さっきから情緒が激しく安定しない。栄養が足りていないのだろうか。いや、エンドローゼに甘やかされ、月でも甘やかされ、美味しく栄養たっぷりな食事を食べているからそんなことがないはずだ。まぁ、エンドローゼが関連しているからか。
『最初はね? ほっとこうと思ったんだよ? だって、夫婦の問題だし。私だって過保護なのを自覚しているんだ。エンドローゼちゃん本人にもどうしようもなくなるまで手を出さないでほしいって言われているからね。だから私だって最初は見守っていたんだ! でもテメェ、全然帰んねぇじゃねぇか! 夫婦の時間、もっと大事にしろよ!』
フォン、魂の叫び。
私はフォン様を宥めようと立ち上がりかけるが、フォンは座れ、と睨んできた。
『あぁ、そうだ、レイド』
「はい、何でしょう」
『やりながら聞いてくれ』
「はい」
『国に内緒で取引しないかい?』
「裏切れ、と?」
『違う違う。ま、というか、私達月組が介入している時点で、ていう話はあるんだけどね。国家機密事項のバチバチ漏洩案件で、さぁ、レイドの立場が困ったぞ』
「な!」
今までフォン様の言動で忘れていたが、この方は王であり、神なのだ。しかもディーノイはそこの騎士団長。私よりもレベルが高い。抵抗されたらきつすぎる。
『私達からの要求はただ一つ!』
「一つ!?」
『稽古をつけてやる』
要求を結局言ったのはディーノイだった。発言を盗られたフォン様はディーノイの脛を蹴っている。というか、稽古?
『君達が強くなれば、こんな仕事は減るんだ! そうすればあとどれくらいで帰ってくるんでしょうかって言いながらソワソワするエンドローゼちゃんを視なくて済むんだ!』
フォン様、血涙を流しそうな勢いである。というか、私の妻可愛いっ!? メッチャ早く帰って、そわそわしている姿を遠目でいいから見たい!!
「うぉおおおお!!」
「私も続こう! はぁあああ!!」
「ぬぅうううううん!!」
『おぉ、気合いだ! 気合十分だ!』
『これ事務仕事だぞ。気合で何とかなるものか?』
ガリガリとペンを進める一行に、フォンが油を注ぎ、ディーノイは完璧に仕事をこなしながら、連中に半眼を送った。
一人ならば三日はかかっていたであろう仕事が、神懸かり的なピッチで僅か二時間半で終わらせることができた。
「よし、できた!」
『よっしゃ! じゃあさっさと帰れ! エンドローゼちゃんを安心させろ!』
「よし!」
レイドは慌てて荷物を纏め、とっとと帰路についた。
フォンはそんなレイドを手を振って見送った。
『さ、て』
フォンはゆっくりと戻すと、厭らしい笑みを浮かべた。
『さて、バンツウォレイン王国国王ロンフォースの元まで行こうか』
『ハイ』