1.サナエラへの罰
この話はメグルユメの6章12話【地上に差す光】のその後の話です。
ガチャリと扉を開けると豪奢な部屋と少女特有の臭いが女を襲った。中にいる主はにこにことこちらを見ている。その笑顔が今は恐い。緊張した足取りで中に入り、扉を閉める。指を重ね合わせ、丁寧に礼をする。
「勝手な真似をして申し訳ありません」
「何に対しての謝罪かしら?」
頭を下げているので主の顔は見えないが、声は弾むようであり楽しそうである。しかし、サナエラは緊張しすぎて気付かない。
「はい。私が主様の命を聞かず、あの者たちを追ったことです。あまつさえ、私は負けた」
「そうね。負けてしまったわね」
サナエラは絶望した。見限られたと思ったのだ。サナエラは気付けなかったが、チラスレアはちらりと自身の後ろにいるアルバトエルを確認する。アイコンタクトをして互いににこりと笑うと、チラスレアはサナエラを見る。
「サナエラ?顔を上げなさい?話しづらいわ」
「は、はい」
大きすぎるベッドに腰掛ける幼き姿をした主は脚を組み替える。ベッドに横たわり、毛布に体を入れ込み、ぬいぐるみを抱きしめたもうひとりの主は、こちらをじっと見つめている。その目にはどんな意味があるのか分からない。それがサナエラに恐怖を与えていた。
「見ればわかるわ。貴女は今罰を欲している。自らの行いの審判を私に託している。違う?」
「その通りでございます」
子供のようにクスクスと笑いながらこちらの心を見透かしてくる。サナエラは命令も聞かず、後に聞いたことだが殺すな・追わなくていいと言った相手を追い、それどころか殺そうとまでした。最低でも解雇、最悪処分だろう。
「本当なら私に託すなんてと言いたいけど、サナエラ、あなたにならそのための時間を割いてあげるわ。煩わせないでとも言いたいけど、貴女のために私が裁いてあげるわ。さぁサナエラ。こっちに来なさい」
ギシリとベッドから腰を離し、一歩だけ前に出たチラスレアが左手をサナエラに差し出す。サナエラには裁くが捌くに聞こえてしまい、緊張が最高潮になる。首までしっかりと毛布を被ったアルバトエルの目はいまだに何も語ってくれない。サナエラはゆっくりと足を踏み出し、主の元へと向かう。主の前に立とうとした瞬間、袖を摑まれ一気に引かれた。サナエラの体が前傾に倒れ掛かる。主は襟も摑み、柔道のようにベッドに投げる。
ボフッとベッドに身が沈む。身を起こそうとするが、失敗する。左腕に抵抗を感じる。見るとアルバトエルが左腕にしがみついていた。ぬいぐるみはどうしたのだろう。相変わらずジッとこちらを見ている。
シュルと紐を解く音がした。チラスレアは着ていた寝間着を脱ぎ捨てていた。
「審判よ。3日は寝かさないわ」
ちらりとアルバトエルの白く細い肩が見えた。そしてチラスレアの美しすぎる裸。緊張と興奮によって血管が破裂してしまいそうだ。
「心配かけたから。構ってくれなきゃ嫌よ」
「あなたにはこれが利くってリックが言っていたわ。真実っぽいわね。さぁ、覚悟なさい」
サナエラは死を覚悟した。
「ふむ」
リックはパチリと懐中時計を閉じた。厨房にあまり立つことのないリックだが、驚くほど手際よく器を用意していく。器を3つ準備するとそれぞれを水で満たしていく。
リックがサナエラを追うことの許しを主にもらおうとしたところ、条件を2つ出された。1つ目が生きたサナエラを主の前に連れてくること。2つ目はその後、審判が終わるまでは男子禁制にすること。
現在、主の部屋の周りは男子禁制のためリックは近付けない。
「オイ、そこのリョウネン。この水を運んでくれないか?」
「はい?どこですか?」
「主の部屋だ。今は男子禁制なのでな」
「承りました~」
呼び止められたメイドが不思議そうな顔をしながらトレーを手に厨房を出て行く。リックももう体を休めようと襟元を緩めながら厨房を出る。溜め息を吐きながら窓の外の月を見ようとする。しかし、そこに月はなかった。夜明けだ。夜は長いと思っていたが、こんなにも短かったか?あの7人が訪ねていた時から寝ていない。まさか、今日も徹夜か?2徹か?
他のメイドは日替わり制なので今日を乗り切れば休める。しかし、リックは執事長。欠けてはいけない役職だ。リックは今度トップを2人作る案でも提案しようか。いや、よく考えたら執事長とメイド長とでトップは2人いるではないか。駄目じゃないか。
片や2徹で疲れている状態の執事長。片や監禁状態のメイド長。どうすればいいんだ。
リックは死を覚悟した。
チラスレアもアルバトエルも自分の家で働いてくれている者たちが大好きです。解雇も処刑も基本的にしません。処刑はアルバトエルを傷つけたものに対してキレた結果の一回しかありません。解雇も必ず理由を話し、相手の言い分も聞きます。
この4人は今後も本編で出演予定です。