七十【振り出し】
建物まで走って行き、入口の前で中を覗こうとするが、ボロ屋にも関わらず覗き穴一つ見つからない。
これでは何が起こっているか分からないと思ったクロウは魔法陣を展開させた。
中が見えれば良いだけだから、少しの隙間を透けさせれば……いや、うまくいかなくて向こうからも透けて見えるようになったらアホだ。
壁ではなく、自分の目に魔力を集中して壁の向こうが見えるように魔法を使った。
ん?部屋で見た同じ光?どっから出てきてるんだろう?
魔法を使い終えると、いつか見た微かな茜色の光がクロウの頭上に現れすぐに消えていき、何か分からないクロウは頭を傾げつつも気に留めなかった。
目の前の壁だけ透けて見えるようになった壁の向こうでは子供が二人戦っている。
片方は小さな女の子。
念動力でも使っているのか、宙に浮きながら青白い光を放ちながら周りの木材や小石を飛ばし、それを武器に戦っている。
もう片方はフードを被って顔は見えないが、驚く事にクロウから硬貨を奪い去った子供と服装が同じであった。
砂埃が舞って良く見えない事もあり人違いかもと思ったが、その子供は相手の攻撃を目にも止まらぬ速さで避けているところを見て、クロウは同一人物だと確信した。
あのガキ!……っつーか何でこいつの生命力だって気付かなかったんだろ?
一度会って覚えてるたはずの生命力にも関わらず、クロウは目で確認するまで分からなかった。
しかし、分からないのも無理はなく、この子供の生命力がとても小さく弱くなっていたからだ。
少女は念動力で攻撃しているが、フードを被った子供は逃げ回るだけで何も仕掛けない。
移動速度だけに特化した能力を持っているだけで攻撃手段がないのだろうか。
「クロ様!中はどうなってるんですか!?音だけじゃ分からないですよ!」
恵華と二人で出ていったところでどうすれば良いのか、いざとなった時は魔法で攻撃をして良いのか、攻撃魔法はまだ使った事は無いが、魔力量や核は大丈夫なのか、また倒れてしまう恐れがあるのではないか。
そもそもこれは助ける必要があるのかと、ここまで来て弱気かつ臆病にものを考えてしまうクロウ。
中の状況を見たいと恵華がうるさいので、クロウが自分にかけた魔法を恵華にも使い、中が見えるようにしてあげた。
「子供じゃないですか!しかも一方的!助けに行かないんですか!?」
「助けるも何も……こうなってる理由が分かんねぇし。しかもあのフードのガキ、俺から金奪って逃げた奴なんだよなぁ〜」
クロウは自分が弱気になっている事を隠し、動かない理由を簡単に述べると、恵華は今にも泣き出しそうな表情を浮かべ黙り込んでしまった。
……またその顔か。
恵華の表情見て、ブランドンの屋敷でクロウが塞ぎ込んでしまった時の事を思い出した。
記憶が欠落し、目覚めたばかりの時もそうだった。
恵華の知っている過去のクロウとかけ離れた言動や行動があると、恵華は決まってこの表情をすることをクロウは勘づいていた。
それでもこの状況でどのような行動を取ったら良いか分からないクロウは、ジっと人外種の戦いを黙って眺めているだけだった。
見ているとフードの子供は防戦一方に対し、少女は念動力でお構い無しの猛攻。
なぜ分が悪い事に気付いて退かないのかが気掛かりだが、それでも飛んで来る物を避けるだけで一向に攻撃を仕掛けない。
どちらも退かずいつまで続くのだろうか、事情が分からないためにこんな所で戦っている意味が分からず、クロウは見ているだけだった。
ところが、素早い動きで避けていたフードの子供の足に念動力で飛ばされた木材が直撃し倒れ込んでしまった。
すると、痺れを切らした恵華は立ち上がり倉庫の扉を開けようと動き出した。
クロウは無言で恵華の腕を掴んで止めると、恵華はクロウの方を見ずに「放してください」と一人でも中に入る気だった。
「お前中見えてんだろ!?能力使いだ。それに、フードのガキもあの足なら逃げようと思えば逃げれるのに意味がわからねぇ。何か理由があるんだろ」
クロウは生命力を感知した時に、一方的にやられているものだと思って駆けつけただけだと言い、これなら手出しする必要ないと恵華を止める。
中ではフードの子供が片足を負傷しながらも起き上がり必死で少女の攻撃を避け続けている。
それでも恵華は言うことを聞かず中へ入ろうとする。
「何言ってるんですか?殺し合いをしてるんですよ!?……しかも子供!」
何を躊躇しているのか、それでもクロウは喧嘩や殺し合いとして成立したやり合いなら間に入る必要はない。
それに"人外種"の能力を使った非常識な争いだから人が入る余地はないと。
「一方的にタコられてんならともかく、一対一でやり合ってんだ!人外種同士の勝手な殺し合いだ!ほっとけ!」
恵華は察した。クロウまた振り出しに戻ってしまっている。
アンナを助けに行った時に恵華の後ろで震えていた時のクロウを思い出した。
屋敷で無感情に人を殺し、感覚だけは取り戻した様に見えたのになぜか。
途端に恵華は心寂しくなり、クロウがまたクロウではなくなってしまったと涙を浮かべた。
恵華は過去に、クロウの意味不明な力の使い方や突発的行動を見てきたようだが、それ等は結果的には間違ってた行動ではなかった。
今まで誰かの為を思っての行動が全てだったので、今回も気になるならと、手助けする為ならとついて来た恵華は涙が頬を流れる前に拭い
「……"うるせぇんだよ、命に人も人外も関係ねぇんだよ"」
「あ……あぁ!?」
恵華らしからぬ言葉を吐き捨て、クロウの手を振り払い扉を蹴破って中に入って行ってしまった。
数ある中からこちらを見て頂きありがとうございます。
気が向いたらブックマーク、評価など頂けたら幸いです……!




