六十六 【落ち着いたその後に】
クロウは子供を追いかけようとするジハードの腕を掴み止めた。
「ジハード!追わなくて良いって!あんなガキ放っておけば良いよ!な?」
「いけません……いくら人種の子供と言えど、悪事を見逃すとろくな事になりません。
せっかくここに居るのですから何とかしてあげなくては。
大丈夫、一瞬で捕えてきます」
クロウと恵華で盗られたものは仕方がないと必死に説得するが、ジハードは強情にも聞こうとしない。
なぜそこまでこだわるのか疑問だが、ガイアにも説得を頼み、なんとか聞く耳を持たせた。
「黒龍よ、どんな世界にも生き抜くにはそうする他無い者もいるのだ。
気持ちは分かるが今日はレイチェルを祝う祭り。気を静めよ」
「……申し訳ありません」
ガイアの言葉でジハードは踏みとどまったが、納得はしていない様子。
そこでクロウは、もしこの先で盗みに遭うような事があれば、その時は容赦なく捕まえようと提案をした。
その時相手がまた子供であるなら共犯もいるでだろうと予想し、
その時は芋づる式で全員捕まえてしまおうとクロウの考えを述べると、ジハードもそれに賛成してくれた。
ふぅ〜……人と生活をした事があったっつーけど、全然人を理解してねぇな。
この感じじゃもうひと波乱あってもおかしくねぇな。
人の中に居れば人の汚い部分など沢山見る事になり、ジハードからすれば納得のいかない事も多々あるだろうが、
先程のような事にも目を瞑らず気にかけていては、いつまで経っても人と慣れ染み上手くやっていくなど到底できない。
この祭りを通して、またジハードが人種と触れ合う事を避けるようにならない事を願うクロウだった。
「とりあえず、ほらっ!魔法で腰袋を生成したから分けた金しっかり身に付けておけよ!」
「こんな物……なぜ腰に吊るす必要があるのだ?」
クロウが魔法で全員分の腰袋を作り、その中に硬貨を入れて渡すと、
ガイアとジハードはその袋を手の上で消し去ってしまった。
慌てたクロウは袋をどこへやったのか聞くと、袋を次元空間に飛ばしたと口を揃えて言った。
「世界を放浪する神ならば誰でもできる芸当だ。覚えておけ」
ガイアは魔法、ジハード聖神気法で次元空間に物を収納しているようだが、
クロウはその仕組みや考え方が分からず、どうすれば良いか分からなかった。
……ドラえもんってこと?
想像はできるが、再度次元空間から取り出せるか不安があり、クロウは魔法を使うのを断念した。
すると、ドレス姿で袋の収納に困った恵華は
「クロ様〜。恵華のスマホとバッグってなんとかなりませんかぁ??」
気絶した恵華をこちらに転移させた時に数日分の着替えなどはエリザ達に用意してもらったが、いつも持ち歩いているバッグは持ってきてはいなかった。
とは言ってもスマートフォンは異世界で使えるはずもないのだが、思い出やイラストの参考の為に写真が撮りたいらしい。
「っつーかお前今ドレスじゃん?その格好であのバッグ肩から掛けんの?」
「別に良いじゃないですかぁ〜!ささっ!早く連れて行ってください☆」
クロウは何も行っていないのにも関わらず、転移しろと言わんばかりに恵華はクロウの腕にしがみついた。
面倒だが仕方がないと、クロウは二人に「すぐ戻る」と言って恵華を連れアジトにバッグを取りに転移した――。
その間、ガイアとジハードの二人はその場からあまり離れないように辺り周辺の店を適当に見て回っていた。
ジハードは浮かない顔をしながら出店の小物を手に取って見ていると、その姿にガイアは気を使うように隣に並び商品を眺めていた。
「どうしたのだ?先程の事は気にすることは無いぞ?」
「……何年振りでしょうね、魔王様と二人だけでお話しするのは……」
何を気にしているのか。
しかし、ガイアにはその意味を分かっているようで、今は何も考えずに人に慣れる為に楽しめと言い聞かす。
ジハードは賑わう街中を見渡し、はしゃぐ子供達を見ると昔を懐かしみ笑みをこぼした。
「この景色は魔王様や私達が護っていた世界にも多くありましたね。
あの宇宙に戻れなくなった事を悔いている訳ではございませんが、人種を見ると思い出してしまうのです」
「あぁ……そうだな」
ジハードの言葉にガイアも同じような気持ちになり、昔を懐かしんでいた。
二人が元いた宇宙にも地球やタスリーフと似たような星も数多くあり、国があり町があった。
世界が変わっても人種は存在し、接する度に二人の言う世界を思い出していた。
「あの……魔王様、私には分かりません。
無限界を越えて辿り着いたこの世界でここまで私達を導いてくれましたが、
これからどうなさるおつもりですか?末裔とは言いますが、なぜクロウと共にいるのですか?
何よりも……なぜ魔王様がよりにもよって人種と番いになられたのですか?」
「……」
この世界に来て五千年の年月、思念体だけだったガイアが能力によって身体を手に入れ、
まともに会話ができるようになった今、ジハードの中で長年の疑問を投げ掛けた。
クロウと恵華が居ない今、ガイアは考えながらも口をゆっくりと開いた。
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