六十一 【説教】
クロウはどの様に何処へ行ったのか。
レイチェルがドレスを取ろうとした瞬間、頭の中で咄嗟に部屋の外を思い浮かべ転移していた。
空間が開いた先は更衣部屋のドアの外、レイチェルの自室ですぐ隣りであった。
「きゃっ!びっくりしたぁ〜……ねぇねぇクロ様!このドレスどうですか!」
先に転移して来ていたガイアを含め、
恵華達がテーブルを囲って紅茶を飲み寛いでいたところに転移し、皆を驚かせた。
その中で恵華がレイチェルから借りたであろうドレスを着ており、クロウに感想を求めている。
はぁ……はぁ……転移魔法使えなかったら万事休すだったぜ!
クロウは額から出る冷や汗を拭い、恵華には「おう、似合ってんじゃん」の一言で終わらせて
煙草を吸おうとバルコニーへ向かった。
そっけない一言に恵華は頬を膨らませ、機嫌をそこねてしまったが、リルルが頭を撫でながら慰めている。
するとミルルが思い出したように
「にゅっ?この部屋の近くまで来てたでしょ?何ですぐに転移して来なかったにゅ?」
やはり近くにクロウの生命力を感じとっていたようで、それはリルルも一緒だった。
やべ、何て言お……。
「ま……まだここへの転移は上手くいかねぇみたいでよ!何度か転移を繰り返してたんだよ!」
このくらいの誤魔化ししか出でこないと苦笑いを浮かべるクロウ。
納得したリルルとミルルと対照的に、ガイアは茶を飲みながらクロウを睨んでいた。
ガイアはすぐ隣りの部屋にクロウが居たことを分かっていたが、
リルル達にクロウが今どこにいるか聞かれても知らぬ存ぜぬで通したため、何もツッコまずに黙ってくれた。
ふぅ〜……何でこんなんでヒヤヒヤしてんだ俺。
クロウはバルコニーへ出て煙草を吸い始め、部屋の中では四人で茶を飲みながら雑談。
主に日本の漫画やアニメについて語っているようだが、
外から四人を見ながら一服するクロウは、恵華とガイアが自然に話している光景がなんとも不思議に思え、気付いたら釘付けとなっていた。
「おい小娘、先程から話しているマンガとはどのような書物なのだ?」
「なに?興味あるの?恵華の部屋に沢山あるから勝手に読んでも良いよ。
でも、まずはその小娘って呼ぶのやめてからね」
相変わらず恵華はガイアにだけはタメ口だが、ガイアはそれに対し何も言わない。
異様にガイアは三人に漫画やアニメについて色々な質問をしていると、
多少ならば地球から持ってきた漫画をレイチェルが持っているので、
許しが出れば借りてみようとガイアは見た目通り本当の子供の様に心弾ませていた。
何でこの悪魔は漫画ごときでワクワクしてんの?アホか。
クロウが煙草を消し部屋の中に戻ると、丁度更衣部屋のドア開き、
ドレスの形状を選び終えたレイチェルとジハードが出てきた。
するとジハードは長い黒髪に合うドレスで身を包み見違えるほど綺麗になっていた。
「わぁ〜!ハーちゃん凄く綺麗ですよ!!」
はーちゃん?ジ……あぁ、確かにハーちゃんの方が良いね。
ジハードを囲い、ドレスやレイチェルの指導の元で化粧や艶やかとなった髪を絶賛し感動していた。
それに対し、たかが着物や自身の色合いを変えただけなのにとジハードは褒上げられる意味が不明で、
困惑しながら皆に礼を言っている。
「雅やかで良いではないか。貴様のそんな姿を見る時がくるとはな」
「あ……ありがとうございます。私にはこのような人種のこだわりはまだ分かりませんが、
これからまた学んでいきたいと思います」
なぜだかガイアとジハードが人についての話しをすると深く重い言い回しに聞こえ、
"二千万年前"の出来事を知らないクロウは話しに割って入れず、褒めるタイミングを失った。
するとジハードの方からクロウに視線を向け、何かを待っているように微笑んでいる。
な……なんだよこいつ。
クロウは空気を読み、近くに行って周りと同じ様にドレス姿など褒め始めた。
すると
「良いんじゃね?それだけ綺麗な顔立ちなら何でも……」
「突然傍に来てどうしましたか?またキスをねだります?」
「!!!!!?」
クロウが褒め言葉を述べている途中で、突然騙してキスをさせようとした話しを持ちかけ出し、
驚いた恵華達は一斉にクロウに詰め寄り怒りを露わにして問い詰めだした。
「どういう事です!?キスをねだるってどういう状況なの!?はぁ!?」
「したんじゃなくて、ただ単に"してくれ"って頼んだって事?なんで?はぁ?」
「にゅ〜……龍神様にキス?はぁ?」
「クロ様!?血を飲ませるためとかですよね!?……あれ?
でもねだるってどういう事ですか?はぁ!?」
チッ!やられた!まだ怒ってたんじゃん……。
まだキスをさせようとした事を根に持っているのか、更衣部屋で隠れていた事を怒っているのか、
ジハードは皆の前でクロウに誑し込まれた事を言い出し四人は激怒。
言い訳をさせる暇もなく、何と言い逃れをしたら良いか考えるがこの状況下では何も出てこない。
ガイアに助け舟を求めようと視線を向けたが、
関わりを避けるためテーブルに戻り外を眺めながらティータイムに入っていた。
クッソー!助けてくれても良いじゃねぇか!!
四人にボロクソに言われた挙句、いつの間にか正座をさせられているクロウは、
ジハードにキスをさせようとした経緯を洗いざらい吐かされた。
「よりにもよって何でこの方にそんな事するかなぁ?
未遂で終わってたから良かったけど……ガイア様が止めて無かったら今頃死んでたよ?」
「……はい」
何も言い返せず、責められ続けていると部屋のドアがノックされ話しが止まった。
レイチェルが少し声を荒げながら返事をすると、パーティー会場への迎えの兵士達だった。
恵華とジハードのドレス選びに時間を忘れていたレイチェルは慌てて化粧を直し始め、
他の者も準備を手伝い、自然にクロウへの説教は打ち切られた。
ふぅ~やっと終わった……ん?
立ち上がろうと腰を上げながら、何気無い視線に気付きジハードを見ると、
クロウを見下しながら薄ら笑いを浮かべていた。
……この後こいつと楽しく祭りをまわれる気がしねぇぞ。
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