五十四 【回復と見知らぬ女性】
タスリーフに転移し、空間が開いた先は恵華の居る場所ではなく城の外庭にだった。
何で今回はここに転移したんだ?あ……平原に転移した時は俺の意識じゃねぇからか。
前回はガイアが転移魔法を使い、魔力や想像が不安定だったので国外に空間が開いていた。
「でも丁度良かったか。レイチェルは国王に戻ったって報告してきな。
あとリルルとミルルはガイアの体を頼むわ」
三人と別れて恵華を迎えに再度転移魔法を使い向かった。
クロウは転移魔法を何度も使い慣れてきたのか、生命力を一瞬で探知し、ピンポイントで恵華を置いて来た場所に空間が開いた。
すると、驚くことに恵華はすでに目覚めていた。
見知らぬ女性と大きな岩の上に座り、話しをしながらクロウ達の帰りを待っていたようだ。
その女性は鋭い目付きでこちらを見た途端にスっと立ち上がり、こちらに頭を下げた。
雰囲気的に人間じゃねぇな。
でも、他とは全く異質な生命力の感じ……。
「クロ様ーー!!」
[ゴンッ!]
「ぶっ!」
見知らぬ女性に気を取られていると、物凄いスピードでクロウの所まで移動し飛びついてきた恵華。
恵華は泣きながらクロウの首に腕を回し、感極まって強く抱きしめる。
「クロさまぁ〜!ありがとうございますぅ〜……ふえぇ〜ん」
クロウもこの時ばかりは恵華の腰に腕を回し抱きしめ「無事で良かった」と頭を撫でる。
しかし、礼を言いながら泣きじゃくる恵華は徐々に腕に力が入り、クロウの首は締まりまくる。
空気を読んで我慢していたが一向に恵華は離さずにいるため、クロウの首は血が止まり徐々に顔が赤く染まっていった。
投げ飛ばす訳にもいかず、恵華の肩をタップして思わず「ギブ!」と口にした。
すると恵華は首を締めていたことに気付いて腕を離し地面に足を付けると、クロウは首を押さえ咳き込みふらついていた。
「わぁー!大丈夫ですか!?ごめんなさいクロ様(笑)」
「ゴホッ……あぁ〜死ぬ思ったわ。
けど、そんだけ元気なら問題ねぇみたいだな」
見た感じからして恵華の体は完全回復している。
生命力も不思議なくらいに問題はなく、いつもの恵華だった。
すると、恵華と一緒にいた女性が微笑みながらこちらへ近づいてくると「まだあまり動かないでください」と恵華の肩を支えた。
その姿をクロウはジッと見つめ、確信はないがもしやと思い尋ねる。
「お前……もしかしてジハードなのか?」
「あ、申し遅れました!そうです、これが私の人型となった姿……どうですかね?」
ジハードは恵華が目覚めた時に驚かせてはいけないと思い、人の姿になっていたと言う。
どうですかって……めっちゃ可愛いやんけ。
人の姿をしたジハードは、ダークレッドカラーでストンと長いストレートヘア。
瞳は金色でモノトーンカラーの服を着ている。
クロウは昔から可愛いと思った者を素直に可愛いと言えない性格で、ジハードに対しても「おぉ……良い感じじゃん」と何とも曖昧な返答。
あれだけ大きな黒龍も人型になると小柄で恵華と背丈はそう変わらない。
黒龍が人型に変われるということは昔の龍人族と変わらないのではないかと思い尋ねた。
「そうですね、この能力に限っては古代の龍人族と差程変わりはありません。
他の龍族はこの様な力を持ち合わせていませんが」
古代の龍人族は龍の姿と人の姿を使い分け生活していたようだが、進化の過程で人の姿を選んだ。
その為、龍族としての力が退化し、リルルとミルルのように翼と牙だけという半端な姿でしか龍にはなれなくなった。
ジハードは龍の中でも特別な種族の生まれで、体型を人種のように変化させる能力が元々備わっていたと言う。
「「黒龍は龍神。
個々の特殊能力や魔力とはまた違う力を備えている。このくらいは造作もないことだ。
此奴は元居た世界でも龍族だけでなく、種族全体の頂点に位置する存在だ」」
しかし……なるほど。
彼奴が誰かに似ておると気になってはいたが……クククッ、下界とはこれだから面白い。
長らく此奴の人種に化けた姿を見ていなかったがために忘れていたわ。
ガイアは何かを思い出したようだが、なぜかそれをクロウには伝わずに黙っていた。
龍族の頂点、龍神族。
そんな龍がなぜタスリーフにいるのかがクロウは不思議に思った。
魔力とは違う力……ジハードってすげぇんだな。
超可愛いし。
っつーか、始めっからこの姿になってくれれば魔法使って喋る必要なかったんじゃね?
それをジハードに尋ねると、元はよっぽどの事がない限り変身はしなかったようで、長らく人型の姿になることがなかった。
そもそも、何らかの理由で人種の中に身を置く事でもなければ変身能力など使わないらしい。
今回はクロウの頼みで任された恵華を思っての行い。
過去に何かあったのか、できれば人種に変身したくないようだ。
龍神なんて奴にも色々あるんだな。
「「っつーかよ、そんなすげぇならジハードにも俺の相手してもらったら良いんじゃね?」」
「「……構わんが、貴様死ぬぞ?此奴の戦闘力は次元が異なる。
もしもの時を考えて人里から離れなければならんしな」」
そんなにやべぇのかよ。
それでも、他の人外種には持ち合わしていない魔力を感じ取れるジハードには立ち会ってもらった方が何かと便利だとガイアも了承し、クロウはジハードに修行の立ち会いを頼んだ。
するとジハードは魔王様とクロウの頼みならと快く引き受けてくれたが、代わりにこの大陸を見張る者をつけて欲しいと言う。
どうすれば良いか分からないクロウはガイアに相談するが、ジハードのように意思疎通が可能で見た目が恐ろしく生命力の高い者は今現在この大陸にはいないようだ。
そこで、一時的であればクロウの魔法でジハードの分身を生み出し、大陸の見回りくらいは任せられるだろうとガイアは提案する。
また簡単に言いやがって。
クロウはジハードに自分の魔力と能力の事情を説明し、リルル達と共にクロウの修行相手をする事を了承してくれた。
今日はレイチェルのパーティーがあるため、リルルとミルルは同行出来ない。
なので次の日から修行開始として、明日の日が昇り切る頃にこの場所へ来てくれとジハードと待ち合わせをした。
俺と恵華はどうするか……おっと、とりあえず恵華が無事っつーことをあいつ等に思念を送っておかねぇとな。
とりあえず城へ行くか。




