四十二【彼方からの声】
ガイアは何か閃いたようで、恵華の怪我を治すことが可能かもしれないと言い出した。
しかしながら、それに伴い危険性もあると。
「何だよ危険って?俺の魔力的問題とかまた安易に使ったらどうこうってことか?」
「それもあるが、方法としては転移魔法と同じだ。
レイチェル達にしたように血を飲ませれば、貴様の想像力ならば魔法で傷を癒すことも可能となるかもしれん。
しかし……」
ガイアが何を気にして何を躊躇しているのか。
リルルやミルルに血を飲ませたクロウだけはすぐに分かった。
レイチェル達はクロウが思った通り上手く事が運んだが、実際にこの行為はやって良い事なのか、誰にでも安全に適応する事なのか不明。
「……やめておくか。
ただでさえ体ズタボロなのに、俺の血飲ませるってことは気絶するほど身体に異変が起こるんだ。何かあったらシャレになんねぇ」
クロウはガイアの考えを読んで治癒魔法を断念した。
さて、そんじゃあどうするか――痛っ!
すると、後頭部から前頭部にかけて一本の針を打ち込まれたような痛みが突如走り出し、頭の中を駆け巡るように誰かの叫ぶ声が聞こえた。
――大丈夫だ!!血を与えてくれ!!……頼む……届いてくれ――
驚いたクロウは思わず背後を確認するが、そこは部屋の壁。
……何だ今の。
「えぇ〜!大丈夫ですよぉ〜!恵華にもチュー♡ってして下さいよぉー!!」
「なっ、ミルル!お前余計なこと話してんじゃねぇよ!」
ミルルは恵華に転移してきた経緯を事細かく話し恵華どころか全員に全て伝わってしまっていた。
それについてエリザと、なぜかクリスも気に入らないようでクロウを睨んでいる。
リルル達に血を口移しをした事に関して「あのゲス野郎」とボロクソに言っていたエリザは、それを恵華にされそうだと感じ、今にもクロウに掴みかかりそうな程怒りを露わにしている。
その視線を感じとったアンナが話しに割って入った。
「た、確かにできるか分からないことをやるものじゃないわ!恵華の体は私が責任持って完治させるから。魔法も大事な事だけど、クロウに話さなきゃいけないことがあるでしょ!」
「おっと、忘れてた!
クロウ、お前が寝ている間に――」
エドガーは世界政府が人外殲滅部隊を結成してクロウを勧誘しに来た事、部隊は人造人間の集まりだという事、そして総部隊長のクイーンの話をした。
それ等を聞いたクロウは、考えもせずに即答で嫌だと言って断る気満々。
「そんな訳分からんもんに俺が入ると思うか?
ただでさえ自分の事で頭抱えてんのによ」
「断るのは分かってる。だけどな……考えなきゃいけないのは、断るとウチの組織やお前が今までに囲い守っている人外種が危ないんだよ」
問題は一つだった。
人間以外の全てを殲滅となると、クロウを含めて知り合った人外達が全て標的になる。
クロウは自分が殲滅部隊に入ることは考えられないが、人外を見捨てることはできない。
「ふーん……だったらこの世界に居る人外種全員をタスリーフに移せば良いじゃんか」
「貴様は本当の阿呆か?どうするのだ?この世界にいる人外全てを探し出して亜空間に放り投げるのか?
それとも全員に貴様の血を飲ませて転移でもさせるのか?」
「……」
ガイアは黙り込んで悩み始めたクロウにそう焦るなと言うと、殲滅部隊へのこれからどう対処するか話し始めた。
こちらがどう動こうが、部隊との対立は免れることはできない。
そしてクロウ以外に人造人間とまともにやり合うのは厳しい。
銃器で潰せるかもしれないが、恵華が相手にしたような者であれば、とても厄介である。
人外の殲滅など許す訳にもいかないが、世界に散らばる人外種も馬鹿ではない。
能力持ち以外も決して弱者なわけではなく、しっかりと抵抗する手段を持っているはずだ。
それでもどんな種族も人間社会に溶け込み、普通の人間と大差無い生活を送っている者もいる。
人外種の生命力や気配を察知できても、まず見つけるのは困難となるだろう。
「俺と貴様がこの世界の人外種を把握し、すぐに駆けつけることができるのは、広範囲で考えてもこの国だけで精一杯だろう。
人数も少なくないからな。
それでもこちらから遠ければ遠い程助けに行くのも困難となるがな」
殲滅部隊の入隊を断わったその後の動向を予測して動きたいところだが、今の状況からは何を準備して何をして良いか分からない。
すると、ガイアが勝手にクロウファミリーへ命令を下し始また。
「貴様等に命じる。
まず、俺は手が空いたらジジイに会いに行き、全てを吐かせてから対策を練る。
さすがにあのジジイもこの状況に焦っていると思うからな。
その後に貴様等全員人造人間の対策に勤しめ。
まともに抗争となったらこの小娘の二の舞となるぞ。
勢いで帰ってきてしまったが、この阿呆はやはりタスリーフで鍛える。
此奴を鍛える元々の目的は違えど、人外の殲滅など俺は許すわけにもいかぬからな。
それにあちらの方が何かと都合が良い、此奴の魔力の謎と能力の使い方も教えなければならんしな」
……よく喋るなぁ。
クロウはアホと言われたことに関してもツッコまずに煙草を取り出し火をつけた。
ガイアが突如仕切り出したことにより、全員事の重大さを改めて理解した。
しかし、タスリーフでクロウを鍛えるというのは当初の予定通りだが、人外殲滅部隊が現れたことで状況が変わってしまった。
迂闊にクロウとガイアがこの世界を離れ、人外種の情報が何も得られなくなってしまうと非常に危険だ。
どうにか殲滅部隊が結成されたことを、できるだけ多くの人外種に広めたい。
そこでガイアはブランドンと話しがしたいそうだ。
「貴様もジジイのところへ共に行くぞ……貴様……」
「タァ〜……うんめぇ〜」
クロウは久々の煙草を周りが焦る程にアホな顔をして満喫していた。
その顔にガイアはイラ立ち、指に挟んでいる煙草を蹴り上げた。
「て、てめぇ!ちゃんと聞いてるわ!
っつーかよぉ、細かい事言ってるけどそんなもん魔法で大体なんとかなんじゃねぇのか!?」
クロウの言う通り魔法は魔力を持ち、何かを行う想像力がしっかりしていれば、縛りなくなんでも繰り出せる。
「色々と魔力を使いたいところだが。
いや、しかし……」
この世界には魔力の素となる"マナ"が一切存在しない。
どんなに膨大な魔力を持っていてもいずれなくなってしまう。
なくなれば生命力と共に回復を促すための睡眠が不可欠だが……これから先、俺の魔力の回復に此奴の魔力だけに頼って良いのか。
ガイアはまたしても黙り考え込んでしまった。
また黙り込みやがった。何だこいつ……。
クロウは舌打ちをして蹴り飛ばされた煙草を拾って捨てると、新しい煙草に火をつけソファーに腰掛けた。
そういや、さっきの頭に入ってきた声って俺の声じゃねぇかな。
"大丈夫だ""血を与えてくれ"……か。




