四十一【煙草がない】
クロウはアンナからビンタを貰い、前と同じように上着を腰に巻いたまま逃亡するように自室に走って行った。
ミルルだけはクロウの裸を見て目を伏せて恥ずかしそうにしているが、他は前と全く同じ光景にクロウが部屋に逃げ込んだ後、アンナも含め全員思わず笑ってしまっていた。
「何で自分の服を着ないのよ。
何でタオルじゃなくて私の上着なのよ」
「わざとだろ(笑)いいからクロウ呼んで来るぞ」
クロウは部屋に入るとクローゼットから適当に服を取り出して着替えた。
おっと、アンナの上着持って返さないと。
部屋を出ようとしたが、ベッドの上に放り投げたアンナの上着を取りに行こうと振り向いた時、何気なく部屋を見渡しクロウは少し不自然に感じた。
初めにここで起きた時も思ったけど、ギター以外は本当に何もねぇ部屋……本当に俺の部屋か?
クロウはニッポンで過ごしていた時は、多趣味で色々な物が部屋にあり、自室がここだと言われてもとても信じられない程だった。
「本当に三年近くの時間を忘れてるだけなのかな?
まぁ、前の俺の心境なんか分かりゃしねぇし。
それより煙草煙草〜……煙草ちゃんはどこにいるのよ!」
エドガーがクロウの部屋をノックして呼び出すと、クロウはすぐに出てきた。
しかしながら、クロウはなぜか物凄い形相でエドガーの肩を掴みかかった。
驚いたエドガーは、何があったのかと訪ねると、
「た……煙草がねぇぞ!!」
「……」
エドガーは呆れてクロウの頭を叩き、掴んでいる手を振り解いた。
そのままクロウをリビングに連れて行き部屋に入ると、アンナがすぐに寄ってきてはクロウが手に持っていた自分の上着を取り上げ、再度クロウにビンタを食らわした。
「ぶぅー!痛っったぁ〜何回殴るんじゃ!
っつーかお前等煙草持ってねぇの?」
タスリーフでも城内に居たため、長いこと吸っていなかった。
自室にストックがなかったので他から貰って吸おうとしている。
「そりゃ何人か吸ってるけど……良いのか?
マルボロ以外は吸いたくないっていつもうるさいじゃんか?」
「はぁ?そんなこと……言うな(笑)
あ"ぁ〜、じゃあ転移魔法使って買ってくりゅっ!」
クロウは煙草を買うためだけに魔法を使うと言い出した。
またふざけた冗談を言っていると思いきや、クロウは目を瞑り本気で転移しようと魔法陣を展開させ始めた。
「!!」
クロウは魔力切れで倒れた事をまだ知らされていない。
それを忘れていた全員で止めようと動き出すと、ガイアが逸早くクロウに飛びかかり、「戯けが!」と後頭部を思いきり蹴り飛ばした。
「っ痛〜、いきなり何すんだてめぇ!
どいつもこいつも病み上がり対して!アホか!」
「何が病み上がりだ!
貴様は余裕のあったはずの魔力が突如無くなり死にかけたのだ!
今はまだ安易に使うでない!この阿呆が!!」
クロウはガイアの言っている事が分からず、改めてアンナとドクから説明を受けることに。
すると話しを聞いている途中で、なぜか恵華が部屋を出てどこかへ行ってしまった。
それを追うようにエリザも出て行くと、マーシャルがクロウのコーヒーを入れると言ってキッチンへ向かった。
クロウに倒れた後の話しを聞かせ、そして問題の魔法を使う際、もしくは使った後に何か異変があったのかを尋ね、クロウは妙な胸焼けのような感覚がこちらに転移する前と転移した後にあったことを素直に話した。
それについてガイアは間違い無く魔力量が残りわずかとなったサインだと言う。
能力持ちの人外種が生命力を使い果たしそうになると、自然に息切れや空腹を起こす。
それ等の危険信号に背いて能力を使い続けると死に至る可能性がある。
魔力も同じように、使い過ぎると身体に何かしらの危険信号を発するようだ。
クロウの場合は胸焼けのような感覚と言っているがそれは確実に魔力の使い過ぎ。
人間や人外種は生命力の"核"だけだが、クロウは生命力と魔力を覆う両方の核にダメージを負った可能性があると言う。
しかし、こちらに転移する前にクロウが黙り込んで異変が見えた時、ガイアはクロウの魔力量を表面上だが確認はしていた。
何も問題なかったはずなのにも関わらず、実は魔力切れ寸前だったということ。
解せぬ……やはり融合して確かめてみなければ何とも言えんな。
核にダメージを負ったとなると生命にも関わる。
ガイアはクロウに融合して魔力の流れを確認すると共に、レイチェル達を融合状態でも転移させられるか試したいとクロウに話した。
「……それは構わねぇけど、もう帰んの?
勘だけど、ちゃんと帰れると思うからもっとこっちで遊ばせてやれば?」
魔力に関して二度目の命の危機に面して軽率な考えにガイアはため息を吐き呆れた。
すると、
「そうですよ!まだ一緒にいたいですしー!
クロ様なら大丈夫ですよね!これがあれば!」
恵華が部屋に戻ってくると車椅子で勢いよくクロウの目の前まで来ては、腕を伸ばし煙草を見せた。
「おぉー!何でお前が持ってんの!?
えぇ?お前も吸ってんの?しかもマルボロ!」
「ふふふっ☆こういう時のために恵華は持っているのです!
恵華は月に一本位しか吸いませんけど(笑)」
恵華は常にクロウの吸っている銘柄の煙草を常備しているようだ。
過去に仕事やプライベートで煙草がなくなり機嫌の悪くなるクロウを見て、恵華はわざわざ買い物に行く度に数箱買って部屋に常備するようになったらしい。
クロウはそれを聞いて、前の自分も根本は変わらず超気分屋だったのは変わらないと少し反省し、恵華の頭を撫でた。
「へへへ〜♡」
「よしよし……っつーかガイア、こいつの怪我は魔法で治せねぇのかよ?」
まだまだ車椅子から立つことのできない恵華を見てガイアに魔法で治癒が可能が尋ねた。
「再生、蘇生は不可能だ。
そもそも魔法は他人に使う事はできん。
何かを生成し、それを相手に放つ事は出来ても人の生命力に干渉するようなことは……」
ガイアは話しの途中で黙り込んでしまい、不思議に思ったクロウが近づき腰を曲げて顔を覗き込む。
一点を見つめながら動かないガイアの頭をぽんぽんと叩きながら「何だ?ガイアちゃん?腹減ったのか?お菓子でも食うか?」と茶化し始めた。
すると、クロウの顎にガイアの強烈なアッパー炸裂。
「ぶぅお!!」
周りはそれを見て爆笑する中、真面目な顔でガイアは恵華の方を見ながら「大丈夫なのだろうか」と呟いた。
クロウは顎を押さえながらガイアの小さな頭を片手で掴んだ。
「勝手にてめぇの中で話し進めんな!何なんだよ!?」
「……まだ分からぬが、この小娘の体を治せるかもしれん」




