三十八 【J・D総部隊長】
どういう理由があっても人外種の殲滅などガイアの耳に入ったら黙っているはずがない。
エドガーは屋敷の方を気にしつつ会話を進めた。
「なぜクロウなんだ?そもそもこの場所を誰に聞いた?」
男はエドガーの質問に素直に答え出した。
世界中の政府はクロウが人外種と深い関わりがあることを知っている。
元々ブランドンからの人外種が関わる命令は政府からの情報を元に発せられていた事も多々あり、クロウがブランドンの傘下でただ一人の対人外種戦闘員というのは大胆な行動をしていた事もあって有名のようだ。
そして人外種でないのにも関わらず異能力を使い、至る所で人外種を相手にしていたクロウに政府は目をつけた。
「元は手配書から始まったことでもあるのだよ。
君達のボスは国々で指名手配をかけられているからね」
男はエドガーに指名手配書を見せた。
人相は遠くから撮られた写真ではっきりとは分からないが、間違いなくクロウ。
指名手配についてはエドガー達も知っている事。
世界に通達が渡ったこの手配書から始まり、世界政府はクロウに目をつけ、細かに情報を始めたようだ。
能力持ちの人外種に対抗するには並の人間では不可能。
そこでクロウの力も加えたいと国々の情報機関が動き出し、クロウの人外種を交えたマフィアの抗争での戦果やブランドンファミリー幹部を辞めた後の足取りを調べてアジトを割り出したようだ。
「なるほどね。ウチのビッグボスに……ブランドンに事情を聞いている訳ではないのか」
これは本当に面倒な事になったな……まずボスに連絡してから動いた方が良いだろう。
この部隊が結成された事をブランドンが知っているのかは不明だが、人間社会に交じり普通に"人"として生活している者や、影で目を瞑れる程の悪事でなんとか生き凌いでいる人外種も多い。
何よりもクロウが今までに守り囲っている人外種も対象となってしまう。
そうなると記憶のないクロウでも後で事実を知れば暴れ出す可能性がある。
エドガーはどうにも返答が難しいこの場は引いてもらうように「クロウが戻ったら伝えておく」と話しを終わらせようとした。
すると、今まで黙り込み話しにも入ってこなかった異彩を放つ女が薄笑いを浮かべ口を開いた。
「分かりやすい嘘をつくな。
人外の気配がしっかりするぞ?
屋敷の中からも……すぐ目の前からも!!」
女は突如突進してエドガーを通り過ぎると、後ろの仲間の誰かが蹴り飛ばされた。
[バシーンッ!]
「くっ……痛ってぇ〜。
こんだけ近づいてやっと分かった……俺のことが分かったってことはお前が人外か!」
蹴り飛ばされたのはなんとクリスだった。
クリスは瞬時に銃で蹴りを受けたので怪我はないが、人間の女性では考えられない威力の蹴りだった。
「オラ待て!クロウは居ないが今屋敷に居る奴も含めてウチの者だ!」
エドガーは焦りつつも女を止めようと間に入ると、先程まで話していた男も止めに入ってくれた。
「やめるんだクイーン!
クロウファミリーにも人外はいると聞いていただろうが!」
女の名前はクイーン。
なぜそう呼ばれているかは謎だが、クリスの言っていた人外種はこの女のようだが、どうもおかしい。
クイーンを含め、後ろで待機する男共からも人外種のような生命力を感じさせていた。
クイーンは振り返り男の元まで戻って来るとなぜだと抗議し始めた。
「確かに私達の標的は人外種だが、クロウの入隊が決まればクロウファミリーに関わる者は別扱いとなると言っただろう!
それに今日の目的は勧誘だけだ!突然来たこちらにも非がある、行くぞ」
「そのクロウという男の姿もぼやけた写真を見せられただけで全員はっきりとしていないではないか。
……屋敷の中にいくつか感じる気配の中にクロウがいるかもしれないだろう?この人外を殺してあぶり出せばよいのではないか?」
この女……。
恐ろしいことを言い出すクイーンは、クリスの方へ殺意むき出しで構えに入った。
緊迫した空気は強まり、それに対しエドガー達はこのまま全員とやり合うのを覚悟して構え、狙われているクリスも臨戦態勢に入った。
すると、男が何かのリモコンのような物をジャケットの内ポケットから取り出した。
それを感じ取ったクイーンは殺気を抑えて舌打ちをしながら車の方へ戻り歩いて行った。
なんだあれは?どういうことだ?
エドガーが男が持っている物を凝視しているとクイーンは再度こちらに振り向き、
「大臣、しっかりこの者達とコンタクトが取れるようにしておけ。
それと……次会った時にその殺気を私に向けたら問答無用で殺すとそこに隠れている人外に伝えておけ」
クイーンはそう言い残し車に乗り込んだ。
「"人形"のくせしやがって……君達、失礼して済まなかった。
あれでもJ・Dの総部隊長なんだが、色々と欠落した部分が多くてな。
クロウが戻ったらここに連絡を」
男はエドガーに連絡先を渡し、その場から引き上げて行った。
クイーンは男を"大臣"と呼んでいたが、何の大臣なのだろうか。
しかし、J・Dを政府が結成となると、それもまた問題が出てきてしまう。
世界政府は様々な事件に関与していたクロウの存在を知っている。
クロウの並外れた力を知った上での勧誘は分かるが、過去にプラズマ亜空間探索に世界各国が動いていたところをクロウの身体を乗っ取ったガイアに悉く阻まれ、国々は「迷い込んだならまだしも、貴様等から関与しようと考えるな。これ以上詮索するならこの世界を滅ぼす」と脅された。
ガイアが言ったことであるが、これはクロウの姿で言った言葉。
数多くの人外種を囲い、プラズマ亜空間、その先にあるタスリーフにクロウが関わって守っていると知りつつも、人外種の殲滅部隊を結成させるような考えには国は至らないはず。
エドガーは頭を抱えてばかり疲れてしまった。
「とりあえずはクロウが目覚めてからだな……」




