三十二 【いつかの黒龍】
「驚くに決まってんだろ!こんなん見たことねぇのに……このデカい龍は何なんだよ!?」
この黒龍はガイアがこの世界に連れて来た遠い異世界の龍。
なのでガイアには慕っているようだ。
結界が解かれクロウを見つけ近づいてきたが、黒龍が前にガイアと会った時はクロウと融合した姿だった。
しかしながら感じられる生命力がガイアと異なるため、困惑しつつ様子を見ていたようだ。
しかも、ガナフ国王によると龍人族のリルルとミルルはこの黒龍とは一度会って今では友人関係にあるという。
「はぁ!?
あの二人が手懐けてんのに何でおっさんはビビってんだよ?」
「す、すまない。
襲われた時の事を思い出してしまい完全に圧倒されていた。
今あの子達がこの場にいないので戦う他ないと……」
テンパリ過ぎだろこのおっさん……こんなんに免疫ない俺の方が怖かったっちゅーの。
ガイアは城から黒龍が見えていたようだが、膨大なクロウの魔力を感じ取ってすぐに転移してきたようだ。
「すまないなぁ黒龍よ。
此奴等は頭が悪いからなぁ、勘弁してくれ。
おいクロウ!こっちへ来い!貴様自身の生命力と魔力を覚えさせろ!」
うるせぇな……そんな怒んなよ。
クロウは少しイラ立ちながら黒龍に近づく。
黒龍の顔の前まで来るとガイアは魔力を出せと言うが、何をどう出せば良いか分からないクロウ。
「ポンコツが。では墓石にやったことを黒龍にやってやれ」
なるほど。それで魔力が出るからオッケーってことか……ポンコツ?
クロウは黒龍の巨体に対して車を丸ごと洗うようなイメージを頭に浮かべて魔法陣を展開。
赤い魔力の光が黒龍を包むと、大きな足周りの汚れから体に付着した煤汚れまで綺麗になっていった。
「キィィ!キィィ!」
黒龍は嬉しがっているのか、頭をクロウに擦り付けてきた。
おぉ……ちょっと怖ぇけど、こうしてると可愛いじゃねぇか。
ガイアが言うには、黒龍は人を襲うことなどはないどころか、このタスリーフ国のある大陸に身を置いて国の脅威となる生物を追いやってくれているようだ。
「あれ?国王はこいつに襲われたんじゃねぇの?」
「それは此奴が国から離れた際に、黒龍に勝手に驚き勝手に攻撃したからだ。
俺が気付き思念体を飛ばしていなければ死んでいただろうな」
なんじゃそりゃ?この龍何も悪ぃことしてねぇじゃん。
っつーかこの龍に名前はねぇのかよ。
黒龍ってまんま過ぎるだろ。
話しを聞いたクロウは見た目は恐ろしいこの黒龍が気に入ったようで、自分ももっと仲良くなりたいと名前をつけたいと言い出す。
「黒龍なんかそのまんまでセンスがねぇ。
見た目でいくなら……"ジハード"なんてどぉよ?
意味は色々だけど防衛や聖戦っつー意味がある。
どぉよ?」
ガイアはパッとしない顔をしているが、黒龍は言葉を理解しているのか、また嬉しそうに頭をクロウに擦り付ける。
「ハハッ!可愛いなこいつ!俺はクロウ!
よろしくなジハード!この国の防衛頼むな!」
黒龍をまるでペット感覚だった。
突如現れた龍と仲良くなり、生命力と魔力を覚えさせたことでクロウとガイアは別の存在だと理解させた。
他の危ない生物がこの大陸に来るのをジハードが阻止してるって他にどんなんがいるんだろ……っつーか、
「なぁ、この世界ってどんだけの広さなん?」
「貴様が生まれた星と大差変わり無い」
なんと地球のポケットなんて言い方の割に広い世界だった。
しかし、人が一つの場所に集まりまとも生活しているのはこの世界でこの国だけだとガイアは言う。
様々な生物がこの世界で散らばり、弱肉強食の生存競争の中で生活している。
猛獣以外にもこの大陸を離れた人型人外種もいるようで、どのようにして生きているかはガイアでも把握できていないようだ。
他の人種と共存を好まない者や狩りをしなければ暴発するような生命力を抑えられない者は、何処か違う大陸で生存しているようだ。
「生命力をなんらかの形で放出していれば何が何処にいるか分かるものだが、肉眼で確認していない者、生命力の形状も見ていなければ察知しようもない。
まぁ至る所を光速で飛び回っているこの龍なら色々と見ているだろうがな」
「ジハードだっちゅーに!
ふーん、そうか……よし!」
クロウはジハードを見つつ魔法陣を展開させた。
何をするのかガイアには予想がついたようで止めもせず黙って見ている。
ん〜……意思疎通を〜……喉……じゃない、耳だ!
ジハードの頭上にも魔法陣が現れると、クロウは自分とジハードの鼓膜から脳に渡り魔法をかけ、両方どちらの言葉も通じるようにした。
「……ジハード、俺の言葉が分かるか?お前も何か話してくれ」
「自在に魔法を……驚きました。
本当に魔王様の末裔なのですね」
おぉ!すげぇー!できたー!
っつーかこいつ雌かーい!……魔王様?ガイアが?
そういやそんな事言ってた記憶があるような無いような……。
魔法はガイアだけの力と思っていたので、クロウの持つ魔力が本物だと分かるとジハードは驚いていた。
そしてガイアも同じように魔法でジハードと言葉を交わしていたようだ。
此奴、もう魔法を使いこなし始めたな。
しかし何だこの魔力量は……大丈夫なのか?
ガイアはなぜかクロウの魔力量を気にしていた。
クロウ自身も何も気にせず魔法を使っているが、何も問題ない様子。
クロウは今の魔法が使える現状を楽しんでいた。
「えっと〜……まぁ良いや。
なぁジハード、声からしてお前雌なんじゃね?
俺の世界じゃジハードって雄っぽいけど、変えるか?」
「そうなのですか?ですが構いません。
魔王様の末裔である貴方に名を与えて頂けただけで光栄です。
ジハード……私も気に入りました。
ありがとうございます」
妙に礼儀正しいな。俺がガイアの末裔だからか?
クロウはまだガイアが何者なのか、何処から来たのかまだ何も知らない。
前の自分は全て理解し、ガイアという存在を受け入れていたのか。
改めて考えだすとクロウは気になり始めた。
ジハードの周りで盛り上がっている中、呆気にとられているガナフ国王。
んー、完全に忘れられているな。
確か私は国王のはず……黒龍と何をしているのだ?
魔法をかけられていないガナフ国王は、クロウ達のやり取りを見ていても意味不明だった。




