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二十六 【もう一つの世界の姫】

 リルルに本気で殴られたクロウは頬を腫らして正座をさせられていた。


「バカ!それで本当に記憶がないの!?前のクロウと大して変わんないじゃない!」


「一応過去の出来事を忘れているだけで阿呆の根本は変わらん」


「……」


 しばらく二人からボロクソに言われ、クロウは何も言えず説教を受けた。


 ミルルは被害を受けたにも関わらず、お姉ちゃんそのくらいでとリルルをなだめている。


 ミルル……なんだこの子は?良い子すぎる。


「それより貴様がまだ顔を合わしていない者がいる。せっかく来たのだ、話しておけ」


「ガイア様、クロウはまだ体が……」


 ガイアは誰かに会わそうとクロウを部屋から連れ出そうとすると、リルルがクロウの容態を気にして止めた。


「気にするな、大したことはない。

 落ちる寸前に此奴は魔法で体に防御壁を作っていた。

 使い方を覚えているのかなんなのか……」


 魔法を使ったのか?っつーか見てたんなら助けろよ。


 仕方がないとクロウはガイアについて行くことになり、リルルとミルルも同行することになった。


 聞けばここでは二人共この城の警備担当で主に姫の護衛らしい。


「姫様のことも覚えてないにゅ?」


「ん〜姫様ねぇ……覚えてないにゅ」


「にゅっ!?真似しないでよ!」


 どうやらミルルは"にゅ"を語頭や語尾に付けるのが口癖のようだが、真似されるとおちょくられている感じで嫌みたいだ。


 リルルが言うには生まれた時からの口癖で、指摘はしてきたが、ミルルは直す気がなかったのでリルルも早くから諦めたようだ。


「何でリルルは"にゅ"って口癖にならなかったにゅ?

 あっ、でもさっき翼の内側触ってる時は言ってたな?にゅ?」


 [バチンッ!]


 先程の出来事を思い出し話題に出すと、クロウはまたリルルにビンタを食らった。


「フン。でもあたしも物心付くまでは言ってた……にゅ(笑)」


「にゅー!二人共からかわないでよー!」


 くだらない話しをしながら歩いていると、綺麗な木目調の扉の前に着いた。


 すると、なぜかクロウはその扉の色や模様に目が止まった。


「なぁ、俺ってこの部屋に来たことあるか?」


「ないかな?こっちの方には来たこともないんじゃないかな?」


 リルルが言うには過去に一度城の中に入っているが、礼拝堂と先程クロウが寝ていた居館だけで、本館には立ち入っていないようだ。


 でもこの扉……いつか何処かで見た事あるような。

 過去じゃないなら何なんだ?


 不思議に思いながらもリルルが扉をノックし開いた。


「クロウ?体は大丈夫ですか?突然上から落ちてきたから驚きましたよ」


 広い洋室に綺麗な金髪美女が立っていた。


 こりゃまたすげぇ可愛い子ちゃんだけど、若いな。

 恵華と同じ位か?


 歳は二十歳前後、綺麗なグリーンの瞳のこの女性が助けを呼び、クロウを城の中へ運ばせたようだ。


「迷惑かけたな。

 え〜っと、俺はあんたのこと知ってんのかな?」


「本当に記憶が……分かりました。

 それでは初めまして、私はレイチェル。

 貴方に()()()()後にガイア様の推薦でこちらの国王に紹介して頂き、この世界に身をおいております」


 レイチェルは元々地球の人間で王家の娘だったらしいが、ある事件で両親を失うと共に国を追われる立場に。


 逃亡の末にレイチェルは人外種達と出会い、怪しげなアパートへ連れて行かれると、そこは人外種だけが住むアパートだった。


 そして心優しい人外達とレイチェルは身を隠すように暮らしていたが、レイチェルを捜索していたある政治組織がアパートへ乗り込んで来ると、目に入った人外を問答無用で銃殺していった。

 自分もこのまま連行されずにここで殺される。

 そこにクロウが突如現れたようだ。


「そこで私は貴方に助けられた……どうですか?」


「んー……やっぱ思い出せねぇ。

 っつーか簡単に話すけど政治組織ってヤバくね?

 普通に警察が来たとかじゃねぇんだろ?」


 クロウは二年以上の時間をほぼ忘れているため、マフィア組織や関わる政治関連組織を何もかも忘れている状況。


 レイチェルもどこから話したら良いか悩んでいた。

 すると、


「阿呆、貴様は本当に面倒だ。

 レイチェルに会って何も思い出せないならそれで良い。

 ひとまずはこの世界がある事を認識しておけ」


「……ちょい待ち、ここどこなんだよ?」


 ここは地球を彷徨うプラズマ亜空間を越えた先にある世界。


 ドクから少し話しを聞いていた世界の中だった。


 地球のポケット、異世界、色々な名称で呼ばれているようだが、実態は地球から観測不可能な程離れた銀河の星の一つだった。


 聞けばこの世界は元々地球にゲートが複数あり、様々な生き物が知らずに出入りしていた。


 そこへガイアが地球へ来た際にこの空間を発見し、魔法でゲートを一つにした。

 そして絶滅危惧種や人間と生存の難しい人外種をこの世界に移住させて来たようだ。


 しかし、亜空間が不安定になった時期に人間側から観測できてしまった事があり、現時点でも地球にいる一部の人間はこの世界の存在を知ってしまっている。


 一般的にはオカルトの一つ話しで片付いているが、この世界の入口を探している人間、というより国は少なくはない。


 地球から逃れたレイチェルがこちらの世界にいることは政治組織に知られているようだが、ここはクロウとガイアの管轄区域。


 手を出せば地球をぶっ壊すとクロウ、元いガイアが脅しているため、世界政府が大々的動く事はな今のところはないようだ。


「なんとなく分かったけど、その話しだとレイチェルは人間なのか?」


「コラ!クロウ!!ここでは"姫"を付けなさい!」


 クロウはレイチェル姫と呼ぶようにリルルに怒れてしまった。


「クロウは良いのですよリルル。

 もちろん、私は普通の人間ですよ?

 この世界では"人間"ではなく"人種"と呼ばれますが」


 この世界にいる地球生まれの人種はレイチェルともう一人を含め、たったの二人。


 人間の世界で慎ましく生きるくらいならとクロウが提案し、ガイアがこちらに連れて来たと言うが、


「人間一人でうまくやっていけてるのか?」


「地球よりマシです……それに私のそばにはリルルとミルルもいます。

 何よりこっちの世界にはガイア様がついています。

 そして……貴方も」


「!?」


 レイチェルの言葉と視線でクロウは固まってしまい、なぜかガイアはため息を吐いた。


 これは……どういうことか聞いても良いのか?

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