十七 【悪魔への怨恨・Ⅱ】
対象の家の前に着くと、エドガーはボスから"殺せ"と命令されているのにも関わらずに中に人が居ることをわざわざ確認して普通にチャイムを鳴らした。
すると中から普通の五十代前後の女が玄関に出てきた。
「はーい……あんたが来るなんて珍しいねぇ。
何の用?この間の取引は無事終わらせたわよ?」
とても人身売買などに関与してるようには見えない。
しかしエドガーに対し"取引"と口にしているので間違いないのだろう。
「何の用もクソもねぇ。
お前等がウチの名前で他と取引しているようだが、どうなんだ?」
エドガーは事実確認をしたいのか、率直に質問を始めた。
裏は取れているとも言ったが、それに対し女は「知らない」の一点張り。
ボスからは始末するように言われているとも話す。
エドガーは何を考えているのか、ここまで来た理由まで女に全てを話した。
「あんた……何を企んでるの?
顔合わさないで私等を始末することもできただろうに」
「それよりもお前等が全て捨てて勝手に消えてくれた方が楽なんだよ」
エドガーはできるだけ殺さずに済ませたいのか、死体処理が面倒なのか、他の取引先とのやり取りした証拠さえ渡せば見逃すと言う。
ブランドンには先に逃げられたことにして家の中から出てきた証拠物を持って帰れば終わると話した。
「そう。悪事に悪事を重ねた結果ね……分かったわ。物は電子手帳の中身でいい?
とりあえず今皆居るから支度を始めるわ。
時間を頂戴」
「あぁ、話しが早くて助かる……もしかして今取引に使おうと囲ってる奴が居たりするのか?」
「居ないわ。この間の売女で最後よ」
そう言って女は身支度をするために家の中に戻った。
すると突然エドガーの後ろで話しを聞いていたクロウが急に倒れ出した。
[ドサ……]
「クロウ!どうした!?」
倒れたと同時に突如黒い霧が出現し、クロウを囲むと悪魔に人格が入れ代わり現れた。
すると、すぐに立ち上がりエドガーに向かって話しを始め出す。
「戯けが、欺かれおって。
貴様は彼奴等を見張ってろ」
悪魔はそう言って家から数メートル離れたガレージの方へ向かい歩いて行った。
何かに気付いたのか、女の言っていることにおかしい箇所でもあったのか。
確認するためにエドガーは玄関の扉を開けて中に入ろうとした瞬間、女が物凄い勢いで家から飛び出してきた。
「エドガー!じ、時間がかかるから中で待ってなさいよ?向こうに言った部下も連れておいで!」
中からこちらを監視していたのだろうか、そんなことを言いだし何やら少し慌てている。
確実に何かを隠していると踏んだエドガーは銃を胸元から出し、女に構えた。
「こっちに構うな、身支度を続けろ」
エドガーが銃で脅すと、女の後ろから三人の女が銃を構えて出てきた。
すると「そこに銃を置いて下がれ」と逆に脅しかけ出した。
それに対しエドガーは笑いながら何を隠しているかと疑問を投げると四人は黙り込み、何も答えない。
さすがに逃そうと考えたエドガーも痺れを切らし、銃を置いて後ろに下がりつつも腰に入れているもう一丁の銃で撃ち殺そうと考えた。
エドガー自身も撃たれてしまう危険もあるが仕方がない状況だった。
それでも少しの助け舟を求めるようにガレージの方を確認してクロウを探すが、なぜか姿が見えない。
何処に行きやがった……。
一人でやるしかないと構えている銃を下ろそうとしたその時、エドガーの背後に人の気配が。
「久しぶりだね、おばさん」
恵華であった。
「!?」
エドガーは「しまった」と思いながらも態勢を変えなかった。
女達も銃を構えたエドガーに集中していたからか、恵華が声を掛けるまで全く気付かなかったようだ。
その姿を見た四人は呆気に取られながら一人が呟く。
「なんで……ここに」
女達は恵華をブランドンが引き取ったとは知らず、驚きを隠せない。
すると、視線がエドガーを逸れたその隙に目の前に居る女を捕まえて人質に取った。
「丸く収めてやろうと思ったのによ」
対象を逃がそうとしていたのも全ては恵華に悟られないためにしようとしてたこと。
女達が何かを隠し、恵華にバレたこの時点で徒労に終わった。
「エドガー?何で?何でこの人達が目標なの?教えてよ?
ねぇ、おばさん?何でお姉さん達がそんな物持ってるの?ねぇ……」
恵華もさすがにこの状況で察しただろうが、今の今まで短い期間だが自分を本当の家族のように優しく接し、丁寧に絵を教えてくれた女達が人身売買をしていた。
尚且つ自分を売った張本人達だとは思いもしなかった。
しかも、恵華は拉致られた後でもこの女達のことを心配をしていた。
自分が拉致られた事により、ホームステイ先の家族も何か巻き込まれたりしていないだろうかと。
それにより、とてつもないショックを受けた恵華は状況を分かっているのに認めたくない様子で同じ質問を繰り返す。
すると銃を構えている女の一人が口を開いた。
「恵華ちゃん……ごめんね。
本当はあなたを取引に使う予定じゃなかったの。
でも、あの時丁度変わった子を探していてね。
期日が迫ってて私達が危うかったの……ごめんね……」
「……」
それを聞いた恵華は大きな目を見開いたままポロポロと涙を流し、エドガーも何と言ったら分からなく行き場のない思いになる。
今すぐにでも銃を乱射し終わらせたいところだが、恵華がいくら自分を売った人間と言えども一度世話になった人間。
組織に入って知人を殺した経験もないままこの女達が目の前で殺されれば、心に消えない傷跡を残してしまう可能性もある。
それにこのまま撃ち合いになると、エドガーは女を盾に出来るが恵華が危ない。
それを考え仕方なくエドガーは、また見逃す方へ頭を切り替えた。
「……今ならまだ見逃してやる。
銃を下ろして隠していることを話せ!」
女達も落ち着き頭が回るようになったのか、恵華が来た事によりエドガーが気変わりした理由を察して三人は銃を下ろした。
エドガーも銃を下ろし女を放すと、すぐに詫びを入れようと後ろに居る恵華の方へ振り向いた。
「恵華、今回のことは――」
その瞬間、
[ズガーーーーン!!]
大きな音と共にエドガーの背中に家の壁など沢山の破片が飛んできた。
家の方へ振り向くと、車が斜めにフロントから玄関に突っ込んでいた。
玄関に居た女三人は飛んできた車に圧し潰され即死。
「えっ……いやぁぁぁーーー!!」
先程までエドガーに捕まっていた女は離れていたため助かったが、玄関から外に流れる大量の血を見て悲鳴を上げている。
その中で恵華は真実を知りショックを受けた上にこの有り様。
地べたにしゃがみ込んで放心状態となってしまった。
何処から突っ込んできたのかエドガーは辺りを確認するが、音も全くなかったため何がなんなのか分からない。
周りには何も見当たらず人影もない。
……あいつは何処だ!?
ガレージの方を見ると悪魔は見当たらないが、見知らぬ一人の女性が座っていた。
あれは誰だ?いつからあんな所に女が?
エドガーは全く意味が分からなく再度辺りを見渡す。
すると、悲鳴を上げている女の目の前に突如悪魔が空から下りてきた。




