十五 【初任務と探知能力を持つ人外の謎】
「まぁ〜平行世界があると分かったところでって感じだしなぁ。
ただ……自分の事は知りたいからよ」
「それはそうだろ。
俺だったら自分の居た世界が変わったって分かった時点でどうして良いか分からなくなる」
クロウが組織で仕事するようになった時からずっと傍に居たエドガーは、元の生活に戻れないと知った後に錯乱して暴れた事を思い出していた。
今のクロウは色々と聞いた後でも、やけに落ち着いている。
過去の事を完全に忘れた訳ではなく、感覚だけは思い出してきていると言っていたのは本当のようだ。
初見で驚いていた事も今となってはデジャブのような感覚で受け止めているのだろう。
エドガーは今後、クロウの記憶が徐々に戻り教えなかった事についての言及を避けるために知っていることは教えておこうと自らガイアについて話し始めた。
「それとな、あのガイアという悪魔だけど、
初めて俺達の前に現れたのは人外種絡みなんだ」
初めてクロウの意識が奪われ、表に出て来たのはクロウの初仕事で人外種を殺した時に現れたようだ。
――クロウが組織に入り半年が経つ頃、対人外戦闘員として、ブランドンから初の任務指令が下った。
それまでは実験やエドガーの仕事に見物としてついて行くだけ日々。
その中でいきなりの指令だった。
組織に属する探知能力を持った人外が言うには、人外種は見つかったが能力持ちかどうか分からずしっかりとした裏付けもまだなかったので、ブランドンの同行はなしでエドガーとマーシャルにケビン。
他に数人の部下がクロウについた状態で任務にあたることに。
その人外種は見た目は人間と変わらないが"獣人族"の一種。詳細は不明。
そして、後から分かった特殊能力は"分解"。
至る物体をも手で触れれば全て分離分解出来る能力だった。
勿論人間のような生きた固形体もバラバラにしてしまう恐ろしい能力だ。
それだけなら銃殺するのは容易いことだが、ブランドンはなぜか能力持ちの人外種を取集をしていたため、生きたまま捕えろとの命令だった。
しかし、行ってみれば相手は組織ではなく、十代半ばの子供達。
仲間内に一人居た人外の力を乱用し、喧嘩になった相手を人外に片付けさせ、時に能力を利用して銀行強盗などをしていた。
そこでクロウの出番ということだった。
しかし、クロウはまだ能力の発動も制御も上手くいかず、L,B導入剤で無理矢理限界突破を促していた。
エドガーがクロウにL,Bを打つと途端に理性を失い好き放題に暴れ、数秒で九人居た子供達を人並外れた素早さと怪力で全員殴り殺してしまった。
人外の子供も能力を使う前にクロウが背後に回り込み、後頭部を掴んだ後にそのまま握り潰され即死。
周りの部下達はクロウの力に一驚している中で、エドガーは任務失敗に「やっちまった」とため息を吐き、鎮静剤の入った銃をクロウに構えた。
すると突如、黒い霧が現れるとクロウを包み込み、霧が全て体の中に入ると、変貌を遂げたクロウの姿が。
その時はエドガーでさえも状況の理解に苦しみ、銃を構えたまま動くことが出来なかった。
クロウはしゃがみ込んで死んだ人外をまじまじと見た後にエドガーの前まで瞬時に移動してきた。
「貴様等のボスに伝えろ。
この世界に良しとしない人外種は好きにしても構わんが、無差別に殺害するような真似を始めたら殺す」
人格の変わったクロウは突然ボスへの伝言をエドガーに託し出した。
瞬時にゼロ距離へ来たクロウに恐怖しつつもエドガーは口を開く。
「お、お前は何者だ?クロウは?」
「……しっかりクロウの御守りに励め」
そう言い残し、黒い霧が体から出て行くと、崩れ落ちるように倒れるクロウをエドガーは両手で受け止めた。
「エドガー、今のは何だ!?」
ケビンはクロウの寝顔を見ながらエドガーに問うが、この時は分かる訳もなかった。
「分からない。しかし、何て報告すれば良いんだ……」
――これが初めてガイアが表に現れた時の話し。
「本当に突然だな(笑)そりゃ焦るわ」
「アホか。あの時は笑えないし、お前の外見も変わって何が起こったかも次の任務から何が起こるのかも分からなかったんだぞ?」
クロウは自分の話しにも関わらず客観的になって笑っていた。
その後アジトへ戻りすぐにブランドンに報告をしたが、詳細を聞かれることもなく「分かった、ご苦労」で終わってしまった。
「ふーん、やっぱこの白髪はそのせいか。
しかし何だそりゃ?おかしいだろ?あのジジィ何か色々隠してんだろ?」
「……そうかもな」
全てにおいてエドガーはブランドンに知っている訳でもない。
時折エドガーや他の幹部を同行を許さずにクロウを何処かへ連れて行く事もあったようだ。
「……なぁ、俺とか他の人外を見つけた奴って何なの?
ブランドンの部下なのか?」
探知能力を持つ人外をブランドンは従えているようだが、あの屋敷には居ないらしい。
他にも人外種を囲っているようだが、何処にいるかも何の能力持ちかも分からない。
しかし、エドガーの推測では戦闘タイプは居ないだろうと言う。
でなければクロウに拘り、人外種の相手をクロウだけにさせている理由もないはず。
「あのジジィの目的は何なんだ?」
「それが分かれば俺は苦労しないんだよ」
エドガーはブランドンの部下でクロウの監視も担っていながらクロウファミリーで行動している。
何か事が起きれば板挟みになることもあるのだろうと少しエドガーを不憫に思うクロウだった。




