十三 【再び現れた悪魔】
アンナはクロウから聞いた通り全員に話した。
すると、その夢は現実に起った出来事だとエドガーも言う。
「始めの……俺が殺した片腕がデカい奴は何者なんだ?」
「あれは他のギャングが雇っていた"巨人族"の人外種だ」
クロウが顔面を握り潰した男は巨人族の末裔。
ギャングに捕えられた人外種だが、普通にギャングの一員として組織に邪魔な人間を片付ける仕事をしていたようだ。
こちらの世界に居る人外種で人間と見た目が大きく異なる者、特殊な力を持った者は、自分なりにシノギを探して悪事に手を染める者も多いらしい。
「ちょっと待て、こちらの世界?どういうこと?」
「あぁ……そっか。悪いがドク。クロウに人類と世界の話しをしてやってくれ。
俺が説明するより分かりやすいだろ」
エドガーは改めて説明をしてくれとドクに頼んだ。
「やれやれ。年取ると話すだけでも疲れるんじゃぞ?」
ドクはエリザに話した三つの人種と四つの世界の話しをクロウに説明をしてくれた。
「――こんなところじゃ。
このわし等が生きる現世界とこの世界を彷徨うプラズマ亜空間だけを頭に入れておいてくれると良いじゃろ」
クロウは黙り込んでしまった。
「クロウ?」
エドガーが呼びかけるが返事がない。
クロウは記憶が欠落した事以外に一番初めにおかしいと感じたことを思い出した。
「なぁ?分からないって言うけどよ……"並行世界"の話し、もっと聞かせてくれよ」
「な、なんじゃ急に?観測されてない空間は説明は出来んってさっき……」
並行世界についてクロウは突っ掛り始めた。
アメリカに来てから記憶をなくして目覚めるまでどうしても不思議に思っていた。
それは名称。
様々な物から国名までが変わっていた。
ここまでの不可解な出来事に非常識な事の積み重ねが、クロウの中で並行世界はあると勝手に決めつけていた。
「知らバックレんな、言え。
この国に来て俺が知っていた物のほとんど名称が変わっていた。
これが説明出来ねぇと自分で自分を証明出来なくなる……言え」
クロウはドクに鬼の形相で責め立てる。
するとエドガーが間を割り込み出した。
「クロウ!いきなりどうした!?それは今は分からないって――」
割り込んで来たエドガーの胸倉を掴み激怒するクロウ。
「うるせぇんだよ!俺の中で並行世界が引っ掛かってた事の一つだ!!
これなんだよ!俺の中で……何か覚えがあんだよ!」
「落ち着け!覚えって何がだ!?」
クロウの目は血走り、異常な食い下がりを見せる。
すると、クロウの様子が急変し始めた。
「だから!!
それが分からねぇから――うっ!!?」
エドガーにどう伝えて良いか分からずに事を訴えている途中で、クロウは急に苦しみ出し倒れてしまった。
「ちょっ、クロウ!?どうした!?」
「……!エドさん離れてください!あいつですよ!!」
恵華の言う事にエドガーが後ろに下がると、突如現れた黒く濁った霧がクロウを包み込んだ。
霧が体の中に全て入り込むと、途端にクロウは立ち上がった。
「フゥー。
此の所思念体に魔力が乗るようになったな……もういける」
昨日と同じく、クロウの結膜は赤く染まり変貌していた。
その姿を見て全員クロウから離れる。
突如現れた悪魔に、アンナは驚きながらも疑問を感じていた。
何で?昨日の今日で早過ぎる……しかもアジトで出てくるのは初めて……。
「……貴様等に用意してもらいたい物がある」
少し前までは一度この悪魔が現れると、しばらく現れることはなかったようでアンナは驚いている。
そして突然出て来ての頼み事。
全員困惑して固まっている中で、恵華が口を開いた。
「何いきなり出てきて勝手なこと言ってんの?今お前が出てくる理由はある?」
クロウの意識を乗っ取った悪魔には妙に強気な恵華。
すると、悪魔は恵華に近寄り顔を近づけ笑い始めた。
「ククク……。相変わらず威勢の良い小娘だな。
貴様のためにやった事をまだ憎んでいるのか?
いつまでも悔やむな、忘れろ」
恵華の過去の話しをしているのか。
その瞬間恵華は激怒し、車椅子に座ったままの恵華は膝に置いていたコーヒーカップを悪魔に投げつけた。
すると、カップと中の紅茶が悪魔に当たる直前に宙で止まり、カップに中身を戻して恵華の膝の上の置いた。
周りは超能力でも見ているようで驚いている。
しかし恵華はそれを見ても睨みつけたまま微動だにしない。
「無駄な話しはなしだ。貴様等は今クロウと揉めていたのだろう?
もう一度言う……ん?おい、貴様が用意しろ」
悪魔はエドガーに指をさし任命した。
エドガーはなぜ自分に?という顔をすると、クロウとエドガーにしか分からないことだからだと言う。
それは、まだクロウが幹部に席置いていたクロウファミリーを結成する前のこと。
ある村で特殊な種族の人外を、何者かに拉致られそうになったところをクロウは救った。
そしてその人外は自分が死んだ時、クロウに魂を捧げると誓いを立てた。
「え!?それって……その子、死んじゃったの!?」
恵華はその意味を分かっているようだったが、悪魔は相手にせず話しを続けた。
「本来魂は俺の……今はこやつの力となるのだが、今回その魂と死体は俺が使う。
従ってその体をここへ持って来い」
身勝手なことを言い出し、恵華はまた怒り出した。
「何でそんな事しなきゃいけないの!?
そもそもお前はクロ様を見守るだけじゃなかったの!?」
「騒がしい小娘だな……クロウの為でもあることだ。黙ってろ」
クロウの為だと聞いて恵華は言葉を返せなくなってしまった。
エドガーはその人外種の事を覚えていた。
するとエドガーは了承したが、それをどうするかの説明を要求した。
「それは物が来てからのお楽しみというところだな。
まだ俺にもどうなるか分からないのが現状だ。
だが、もし成功すればクロウの歩むべき道を違わないよう傍に居ることが可能となり、貴様等の為にもなるのだ」
クロウやその周りの為にもなると言う悪魔だが、信用できるのだろうか。
エドガーは悪魔のはっきりとしない答えに揚げ足を取った。
「それは、クロウに言って動いてもらえば良いことじゃないのか?
なぜ自分で言わない?
そもそも思念体なら体を乗っ取らずに意識の中で会話すれば良いだろう?
それともできないのか?」
もっともなことをエドガーは言い、悪魔に痛いところを突いた。
「チッ……小童が」
すると、イラ立ちながらもクロウと意思疎通が現状難しい理由について話し始めた。
今この世界での悪魔は制限があり思念でしかない。
自身の末裔であるクロウの存在が分かり"憑いて"からは、クロウが見ている物、経験した事以外は悪魔も情報が得られないようだ。
なぜかは悪魔自身でも分からないが、昨日に意識を乗っ取った時にクロウ独自の魔力と本来悪魔の持つ魔力の波長が合い思念がより強力となった。
それにより、夢の中に語り掛ける事は出来たが会話は出来なかった。
長時間意識を奪うことも制限のある現状況では持たず、クロウの意識から離れるとしばらく眠りについてしまうようだ。
「これで満足か?俺にここまで説明させたんだ。早速行って来い」
納得はいかないが、エドガー達からすればこの悪魔がここまで口数の多いことはなかった。
「……分かった。
クロウの為と言ったこと、忘れるなよ」
エドガーが釘を刺すと悪魔は笑みを浮かべた。
すると、再度クロウの体から黒い霧が出始めた。
「案ずるな、"魔王ガイア"に二言はない。
……最後に貴様等に忠告だ。
一昨日までのクロウ《こやつ》は並行世界の存在を知っていた。
そこの老いぼれと小僧、何気無い言動でこやつに足を掬われないようにな」
最後に自身の名前とドクとエドガーにとって衝撃の事実を置いて黒い霧と共に消えていった。




