六 【黒ノ夢】
――クロウが恵華に鎮静剤を打たれて意識が飛んだ後、黒い闇の中で一人佇んでいた。
「「……また夢の中か?」」
夢だと自覚し明晰夢となると、辺りは徐々に明るくなり映像が見えてくると共に声も聞こえ始めた。
「何でこんな平和ボケした日本人と一緒に居なきゃなんねぇのよ?」
「……エリザ、マスターが居ないからってうるさくしないで」
これはいつで何処なのか分からないが、女性二人と広い部屋に居るのが見えてきた。
「「なんだ?知らねぇ女と……恵華?」」
一人は見た目も雰囲気も違う恵華で、もう一人は"エリザ"と呼ばれていた。
しばらくすると、エドガーとボスが部屋に入って来た。
「それじゃあクロウと恵華はついて来い。仕事だ」
「ボス!私は?」
「お前はクラブの集金に行け」
エリザは別の仕事に回され、クロウと恵華だけを連れて行った。
「「……これって夢なのか?何で客観的に自分の姿も見えるんだ?」」
まるでホームビデオでも観ているかのようにクロウ自身の表情までも窺えた。
現在恵華は茶髪だが、黒髪セミロングで服装も私服でなく、綺麗なドレスを着ていた。
クロウは髪型が少し違うだけで、差ほど変わりない。
二人が車に乗せられると、突然映像が暗くなって夢が終わった。
すると、すぐに明るくなって場面が切り替わり、廃墟のような場所で銃撃戦となっている場面が映しだされた。
[パンッ!パパンッ!パンッ――]
何人もいる相手とボスの部下の間で激しい銃撃戦となっている。
すぐ近くで恵華が銃撃戦の中を重力の壁を使いながら何人もの相手を潰していた。
その中でクロウが相手をしているのは大の大人を覆い尽くせる程に片腕が異様に大きく、その片寄った体では考えられない素早さを持つ男とやり合っていた。
[ドーンッ!]
クロウも能力を使っているのか、相手の大きな腕を掴んだ後に前蹴りで数十メートル吹っ飛ばした。
男は壁にめり込み、動きが止まった所を瞬時に男の懐へ入ると、左手で相手の頭を掴み押さえ、右手の指を目と口突っ込みだした。
すると、クロウの両腕に赤と黒のプラズマが走り出し、尋常でない位血管が浮き出し始めた。
[バチッ……バチバチバチバチ!]
次の瞬間、
指を突っ込んだ顔面を握り潰し、そのまま皮と骨を引き抜いた。
[グチャンッ――]
「あれが"スカル・ブレイク"か……恐ろしいね〜。
心底味方で良かったと思うぜ」
クロウの戦いを見ていた部下が驚いていた。
「「何だあれ!?特撮か?俺も何やってんだ……気持ちわる……」」
異形の男は即死。
この男をクロウが潰し終えると、相手側が降参したのかすぐに銃撃戦は止んだ。
異形の男の死体を見ていると、視界がゆっくりと暗くなり何も見えなくなっていった。
「「こういう奴は自分から好んで使われているのだから助ける価値も気にする必要はない」」
突然聞いたことのない声が何処からか聞こえてきだした。
「「何のことを言ってんだ?っつーか誰だ!」」
――また新たに場面が切り替わると、そこはボスの屋敷の庭であった。
そこでなぜかクロウはまた誰かと戦っている。
[ドンッ!ドンッ!バシーン!]
相手をよく見ると、それはなんと恵華であった。
何をやっているのか、周りにはボスやドクの姿も見受けられる。
「「何で恵華と?でもあいつ本気で向かって来てるな……ん?何だあれ?何か飛んで来た!」」
やり合っていると突如翼の生えた者が割込み攻撃を仕掛けてきた。
[ガンッ!]
空を飛んできたその者に恵華は蹴り飛ばされ、振り向きざまにクロウにも襲いかかって来た。
[パシッ]
クロウは相手の拳を手のひらで受け止めた。
「妹は何処だ!!」
クロウは何をしたのか。
翼の生えた者は妹を探しているようで酷く興奮状態だった。
「おい、あの龍人脱出しているぞ。
クロウ、捕らえろ」
ボスがこの翼の生えた女の子を"龍人"と呼んだ。
脱出していると言っている位なので、組織に囚われていた者なのだろうか。
クロウは龍人の攻撃に応戦する。
弱っているようで攻撃は早いが重みはなく、軽く弾いていた。
しばらく相手にしていると、蹴り飛ばされた恵華が起き上がって龍人に攻撃を始めた。
「「何やってんだこいつ等?」」
すると、突如クロウの周囲に変化が起き始め、黒い霧が辺り一帯を覆い真っ暗に。
黒い霧はボスや周りの部下、恵華とその龍人も一緒に飲み込んだ。
しばらくして霧が晴れると、なぜかクロウは片手でボスの首を絞め掴んでいた。
何が起こったのか、辺りを見渡すと龍人は翼が消えて普通の女の子になっており、恵華と共に倒れ気絶している。
「おい!お前どっちだ!?ボスから手を放せ!!」
エドガーの声が聞こえると、ゆっくりとボスの首から手を放し何をやっていたのか分からなく困惑していると、クロウは首元を手で押さえ始めた。
あの霧の中で誰が打ったのか、注射器が首に打ち込まれていた。
鎮静剤か不明だが、そのままクロウは倒れ込んでしまい、また暗闇の中に――。
「「この時は迂闊だった。
貴様が居ない隙に捕らえられていた。
だが、これはもう解決した事だ」」
「「……さっきから普通の人間じゃねぇ奴が出てきてるけど、マジで何かの撮影なのか?」」
――場面が切り替わり、先程よりも長い暗闇が続く。
「「……なげぇ。何も見えてこねぇな。
溜め過ぎじゃね?」」
しばらく待つと、黒い霧が晴れるように徐々に何かが見えてきた。
雨の中倒れている女性の姿を見てクロウは辛さそうに涙を流していた。
周りにも何人かの人影が見える。
女性の顔は見えないが大切な人間なのだろう、その周りに居る者達も涙を拭う仕草が見 受けられる。
クロウはその女性にキスをすると優しく頭を撫でていた。
そして女性の顔を見ながらポケットから小さな紙を取り出した。
「きっと◇◇◇つけるから」
「「あれ⁉煙草に入ってたメモ!っつーか何言ってるか聞こえねぇ‼」」
はっきりとは聞き取れないが、ボロボロのクロウがメモを見ながら何かを周りに居る人間に伝えた。
すると、
「「気をしっかり持てよ。
二つ以上の魂の使用には生命力核に負荷がかかる……始めるぞ」」
「「クロウ……落ち着いて魔力を抑え、無になれ」」
頭の中に初めて聞く声と自分だと思われる声が聞こえると、突然白銀に輝く魔法陣がクロウの足元に現れた。
「スゥー……ハァー。
じゃあなお前等、またここで会おうぜ!」
「当たり前だ!必ずやり遂げろよ!じゃあな!」
クロウはボロボロの顔で笑いかけ、周りも泣きながら叫ぶように別れを言った。
目を瞑り白銀の魔法陣は更に輝きを増し始めると、クロウは口を開いた。
"――◇◇◇以降の◇◇◇"死"を――"
「「何してんだ!っつーか周りの奴等は誰だ……どっかで聞いたことある声だけど、眩しくて見えねぇ!」」
聞き取りにくいが、クロウの発する言葉がこだまする。
そして口元から出るその言葉は具現化し白銀に光に。
呪文なのか、ただの言葉なのか、その瞬間倒れている女性を含め、そこに居た全員が消え去るとクロウ自身も消えて居なくなった。
――濁った暗闇の中へ戻ると、新たな場面が見えてくる事もなく、クロウは次に何が起こるのか待っていると、闇の中で一人の男の姿がやんわりと見えてきた。
しかし、霧が邪魔で姿がしっかり確認できない。
人間に見えるが、どこか異様な雰囲気がする。
「「最も救いたい者を救えない……悪いが俺の末裔である貴様もそういう運命だ。
五千年前、全てが洗い流されリセットされたこの世界に多くの民を連れ異世界から移住した。
しかし、そのせいで……俺のせいで全ての悪循環が始まってしまった。
ここまで抗ったのは貴様が初めての事。
突如記憶が欠落した原因は俺でも断定は出来ないが、おそらくは貴様自身の行いだ。
何の為かは分からないが、自分で解き明かせ。
そして頼む……
この輪廻を断ち切ってくれ」」
「「こいつ……人間に思えねぇ。
でも何だ?この懐かしい感覚」」




