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二【気絶から彼方へ】

 どれだけ気絶していたのか。


 タクロウは意識を取り戻したが何があったのか、今どういう状況か、全く把握できていない。


 それもそのはず。

 窓から照らす微妙な月明かりだけの薄暗い部屋の中で手足を縛られているからだ。

 意味不明な状況下で段々と恐怖から怒りに変わり、


「何でこんな事になってんだ……俺が何かしたか!?うるぁぁぁー!!」


 イラ立ちから大きな声を出した。

 誰かが気付かなければどうにもならないと思い、後先考えず叫び続けた。

 しばらく叫ぶと共に力み過ぎたせいか、なぜかいきなり頭痛が起こり横たわってしまう。


「ハァ……ハァ……意味が分からん。

 っつーか、さっきから体中痛いし何なんだ……ん?」


 タクロウは部屋の隅に目をやると、部屋の隅で横たわっている人影を見つける。


「おい!」


「……」


「ヘイ!」


「……」


 呼んでも返事がない。

 口を塞がれているのか気絶しているのか、それすらも部屋が暗く見えない。


「アーユーオーケイ!?」


「……」


 必死に知っているロベリカ語で適当に話しかけるが返事がない。


 俺と同じで気絶しているんだな。でも俺は何をして何されたんだ??


 この状況になる前の事を必死に思い出すが、記憶が曖昧な事に疑問を感じていた。


 その時、


 [ッガチャ……]


 ゆっくりと部屋のドアが開きだした。

 タクロウは暗い部屋に慣れてきた目をドアの方に向けると、体の大きい人影が三人。

 そして手に薄暗い中で窓から漏れる月明かりで光る"何か"を持っていることに気が付いた。


 ……これはマジでまずい。


 タクロウはそれを見て銃だと気づき、途端に顔が青ざめ、俯き、覚悟を決めた。


 死の覚悟を。


 銃を見た瞬間死を覚悟し、顔を下に俯いたまま動けない。

 恐怖心が強過ぎて涙も出ない状態に。


「おい」


 部屋に入って来た一人が流暢なニッポン語で話しかけてきた。

 何故俺がニッポン人だと知っているんだと疑問を感じつつ、タクロウはゆっくりと顔を上げる。


「お前は英語は分かるか?」


「……英語?」


 タクロウは相手の質問が分からず頭を傾げる。


「悪いがお前が入国してホテルに着いた時からつけさせてもらった」


 話している相手をよく見ると、薄暗い中ニッポン語を話しているのは黒人の大男。あとの二人は白人に見える。


 喋っていたのはニッポン人じゃねえのか。


「も……目的は?

 この国に来たのは俺は初めてなんだ!なのに何で……」


 タクロウが疑問を口にすると、黒人が白人二人とロベ語で話し始めた。


 よく見るとホテルに帰る前に見た外人に似ている事に気付き、嫌な予感に包まれる。

 必死に現状を理解しようとするが、三人共ネイティブなロベ語で全く話しの内容が分からず、じっと三人の方を見て話し終わるのを待つ。


 話しが終わると、白人の一人が胸ポケットから書類の様な紙を出し、それを黒人が携帯電話のライトで照らしながら見始めた。


 部屋の照明はないのか?何がしたいんだよ。


 タクロウは恐怖しながらも段々とイラ立ち始めてきていた。

 しばらくするとライトが消え、やっと話しを始めた。


「全ては話せない。

 だが、現時点でお前は生きている。

 駄目ならあそこに横たわっている男と一緒に明日処分していたからな」


 タクロウはまた部屋の隅に目をやり、死体だと分かると途端にまた恐怖に駆られ体が震えだした。


「お前は元々他と違うんだ。

 アイツも背丈や骨格は同じようだが……やはり関係なかったようだな」


「な……何が違うんだ?」


 震えながら疑問を口にすると、黒人はいきなり怒り始めた。


「ヘイ!こっちが質問するまで喋るな!」


 いきなりの怒鳴り声に驚き、またタクロウは俯き黙り込んでしまう。


「今知っても意味がない。ただ昨日ホテルに着いた段階で……」


「……」


「お前は既に実験対象になっていたんだよ」


 その言葉でタクロウはふと顔を上げる。


「実験対象……」


「お前は実験対象として一日中の動きを観察され、ホテルで寝静まった後にこちらで色々と試させてもらい、今お前は死ぬ事もなく目を覚ました」


 やはり何かをされたと分かり、タクロウは怒りを露わにして状況に構わず大声で怒鳴り出した。


「色々って何だよ!!」


 タクロウが声を張り上げると黒人が急に近づき、


 [ッガン!]


「勝手に喋るなと言っただろ!」


 思い切り顔を蹴り上げられてしまった。

 視界も悪く、縛られて受け身も取れずに歯を食いしばっていなかったので口の中があちこち切れてしまい、血を大量に吐いてしまう。


「……っく……うぅ……」


 じゃあ目を覚ます確率はどんなもんだったんだよ……ふざけんじゃねぇよ……。


「死んだアイツと違い、お前は目を覚ました。もうお前は″実験対象″じゃなく″実験体″だ」


 タクロウはやっと体中の痛みの意味が分かった。


 寝ている間に何か薬を盛られたんだ……後頭部から首まで熱いし痛いし、体中の痛みも強くなってきた……。


 何をされたか明確にも分からない。

 聞く気力もなくタクロウはこいつ等のマウスになる位ならと目を瞑り顔を下ろし呟いた。


「……殺してくれ」


 どうせこんなギャング紛いの奴等に好きにされるならと、二度目の覚悟を決めた。

 すると白人二人がいきなり動き出し、タクロウの体を押さえ、髪を掴み首筋に注射器の様な物で何かを打った。


「な……何を!っ痛!!……」


「現段階で残念ながら俺達にはお前を殺す権利がない。

 その台詞は俺達のイカれた"ボス"に言ってくれ。それと、多分お前は"こっち"で働いてもらう事になる。

 とりあえず今は寝てろ」


 タクロウはとりあえず寝てろの言葉で一気に意識が朦朧としてきた。

 そして意識が飛ぶ直前、黒人の小さな一言が聞こえた。


「すまねぇな……」


 タクロウは最後の言葉の意味も分からずそのまま寝込んでしまい、少し長い夢を見る事になった――。



「うるあぁぁぁー!!」


 ――モウイヤダ――


「目から血が……銃をよこせ!!」


 ――ドコデオワリ?――


「もう駄目だ!脚だけでも使う!後で拾えよ!!」


 ――カエリタイ――


「次はどうすりゃいいんだよ……」


 ――ナンデオレダケ――


「うるせぇんだよ……失せろ……」


 ――モウツライ――


「全員殺してやる……会いたい……」


 ――死ナセテクレヨ――



 ――激しく移り変わる不思議な映像が薄れていくと、タクロウは夢から目を覚ました。

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