一 【療養と必要だった勧誘】
アンナの救出は成功したが、それと同時に今のクロウにとっての謎もまた増えた。
一つの事件を終えて、クロウは薬を使った副作用か、体を操られた後遺症なのか、アジトに戻っても目を覚まさなかった。
アジトに着いてすぐにクロウをドクの所へ連れて行くと、クロウ専用の医療室で"医療カプセルベッド"に全裸で入れられ回復を促した。
これは、クロウのみでしか意味のないカプセル。
中では酸素の流れるマスクをされ、自己免疫を高めるバイオ液が入り、"魔力の源"が備えられ、白髪の残ったクロウはカプセルの中で気持ち良さそうに寝ている。
その隣の医療室では恵華が療養していた。
恵華も謎の男の怪力で地面に叩きつけられたりと相当な怪我を負わせられた。
腕の骨と肋骨は折れ、足の骨にもヒビが入り、至る箇所が打撲状態だった。
そんな体だったにも関わらず、気絶もせずにクロウに鎮静剤を打ち込んだり、エリザを抱えて移動したりと、誰もが驚く程の身体力と根性だ。
二人をドクに預けた後、事件の話しは全員が集まってからにしようと休むことに。
アンナも怪我の治療を受け、すぐにドクの手伝いをしようとしたが全員に止められ、強制的に自室へ押し込まれた。
エリザを含め他の男共もあれだけの銃撃戦をしたにも関わらず幸福にも無傷だったが、エドガーだけ右手を負傷していた。
「結構な怪我だろ?どうしたんだ?」
クリス達が訪ねると、これも集まった時にすると言って、エドガーも手の治療を受けた。
そこでクロウについて、ボスの屋敷での行動、変貌などをドクに報告した。
アンナのエマージェンシーコールから数時間の戦いだったが、全員クタクタで自室に戻るとすぐに寝てしまった。
――次の日の朝。
医療室で休んでいた恵華を含めて全員目を覚まし、クロウの様子を見に行ったがまだ目を覚ましていなかった。
「クロ様……」
車椅子に乗った恵華は目覚めないクロウをカプセルの窓からジッと見つめる。
ドクが言うには操られた後の"魔力消費"や薬の後遺症でなく、単に疲労だろうと心配する仲間に伝えた。
クロウの上半身を見ると、弾痕は残っているが、怪我は完全に治って何も問題なさそうで全員安心した。
「そういえば今更だけど、怪我自体は一日で完全回復するのに他の古い傷跡は何で治らないんだ?」
「……不思議なもんじゃ。
彼奴の末裔で超人だとしても、人間と変わらん部分はあるということなんじゃろうな」
エドガーが疑問を投げると、数多くの体中に残る傷跡は人間の部分だと言うドク。
そもそもクロウの古傷はいつの間にかにできていたもので、仕事の中で少しずつ蓄積されていった傷なのだろうと全員は思い、その話題に対してなぜか周りは驚きもしない。
しかし、エリザだけは頭を傾げていた。
「……ねぇ、こいつは何者なの?
前からイカれた事やってたのは知ってるけどさ。
昨日のあれ、前にも見たことはあるけど末裔って何?何の末裔なの?だから何なの?」
「……」
全員口を閉ざす。
エリザ以外はクロウと行動を共にしてある程度のことを知りドクからも話しを聞いている訳だが、エリザは暴れている姿を見たことがあるだけ。
疑問になるのは当然だ。
するとエドガーから提案が。
「エリザ、お前クロウファミリーに来い。
最終的にはクロウが決めることだが、意思があるなら教えてやる。
それにルイスの行方が分からない今、ボスには見限られて居場所がないだろ?」
「あぁ!?……元々居場所なんかねぇよ!!
貿易にまわされてからいきなり呼ばれたの!
幹部に戻れると思ったのに、命じられたのがルイスの部下だったってだけ!」
「あぁ、知ってる」
エドガーは組織内で最高幹部の人間。
やはり全て知っているようだ。
エリザは元々恵華と共にボス直属の部下で本邸に居たが、恵華がクロウと行動を共にすることを決めて出て行った後に、他の本邸に残っていた直属の部下も半数居なくなってしまった。
これはクロウが原因らしい。
そして後からボスの元に有能な人材が集められたことで、エリザは居場所をなくし幹部から降板。
そして建築関係の貿易商にまわされた訳だが、実態は麻薬の運び屋。
それしかできなくなったエリザは、仕方なく数ヶ月仕事をこなしている中で突如ボスからの呼び出しがかかったようだ。
「あそこの貿易にまわされたのも、お前の頭の出来をボスが認めていたからだ。
態度や現場での使えなさを抜けばお前は有能なんだよ。
アジトからの俺達のフォローになると思うが……どうする?
クロウには俺から口添えしてやる」
エドガーはエリザが本邸での働きを知っているので、現場でなくアンナとの仕事を進めた。
エリザはエドガーの言葉に腹を立て、
「現場で使えないだぁ!?
って、あんた達……私が裏切るとかは考えないの?」
「その時はお別れ。クロ様に殺される。
ただそれだけですよ」
恵華は裏切りについてさらっと答えた。
裏切りがあれば、勧誘したのはエドガーだが、それを良しとしたボスであるクロウ自身に責任がある。
クロウ自ら手を下すことになるだろう。
エリザは考えながらもなぜか恵華をチラ見する。
恵華とエリザは共に働いていた経験もあるが、蟠りもあるようだった。
「私はルイスの馬鹿の命令だからって恵華に銃を向けたし、こんな体になったのも私のせいでもあるんだ……」
実際に昨日、エリザは別邸で恵華を殺そうとしていた。
しかし、本当に殺そうとしていたのかは疑問であった。
「……もうこれは良いですよ。
あの時だってエリザさんは重力の壁を知ってるのに恵華に銃を使ったりして……ふざけ過ぎですよ?」
エリザは元々恵華の武装も分かっていたようだ。
謎の男が恵華を殺そうとした時、必死で止めようともしていた。
恵華もあんなことがありながら、エリザの勧誘を反対をする訳でもない。
仲が良い訳ではないが、悪い訳でもないようだ。
うしろめたいきもち
エリザは考え、困惑しながら恵華を何度もチラ見。
「エリザさん?」
エリザは恵華に名前を呼ばれビクッと驚き、ため息を吐きつつ答えた。
「……分かったわよ。クロウの傘下に入るわ」




