十九【誓い】
クロウの警戒が甘かったのか、どこからか狙撃されてしまった。
な、何だ?腕が熱い!撃たれたのか!?
もっと確認してから出れば良かったと後悔しながらも、早く動かなければと必死に立とうとするが、足が震えて立ち上がれない。
それを見て恵華がクロウの所まで行こうと屋根から出ると、真上からマシンガンで狙われてしまった。
重力の壁ですぐに全ての銃弾を弾き落として一旦屋根まで戻るが、銃弾を弾きながらではクロウの所まで行くことができない。
クロウは左腕を撃たれてしまったようで、右手で押さえながら何とか立ち上がろうとするが、足腰が言うことを聞かない様子。
恵華は気合いで銃弾を弾きながら走って行くが、クロウの元にたどり着く前にまたクロウに命中した同じ銃声が鳴り響いた。
すると、なぜだろうか。
またしてもクロウの左腕に当たった。
それを見て恵華は気付いた。
クロウは痛がり怯えているが、何処から狙われているか分かるようで、無意識に左腕で上半身をガードをして銃弾を受けている。
銃を持っている利き手は守っているようだが、さすがに二度も左腕で受けていては屋敷の中に入ってからの行動に、出血のせいで支障が出る。
このままではと恵華は、相手のリロード中に隙を見て、重力の壁を解除して目にも止まらぬ速さで移動し、クロウの所に辿り着いた。
辿り着くと同時にライフルとマシンガンの銃弾の雨。
恵華は重力の壁で全て弾き防ぐが、立ち上がる事が困難なクロウに気遣う余裕が全くない。
恵華は銃弾を弾きなが必死に現在の状況打破を考える。
やばい!やばい!やばい!やばい!!
どうしよう!どうしよぉー!!
こんな時、昨日までのクロ様なら……。
恵華は記憶がなくなる前のクロウを思い出す。
クロウなら守っている相手を安全な場所まで放り投げて標的を全部自分に向けるだろうと考えるが、恵華にそんな腕力がない。
銃弾の雨の中を重力の壁を使いながらでは歩く事も難しい。
集中が切れて壁が消えしまい、二人共死んでしまう。
恵華が必死にどうするか考えている中で、クロウは倒れながら恵華の後ろ姿を見ていた。
またこの子に助けられていると思いつつ、必死に立とうとすると視界がぼやけ出した。
覚えている記憶で、今まで生きてきた中で初めて銃で撃たれたショックと、恵華が来てくれた事での緊張の緩和で意識が飛びそうになってしまう。
その時、銃弾の雨の中で後方からマシンガンとは異なる別の銃声が聞こえた。
何度か発砲音が聞こえた後にクロウ達への攻撃が止んだ。
誰かと思い、恵華は重力の壁を解除して後ろを振り返ると、林からクリスが顔を出した。
「お前等大丈夫か!?
恵華!ここから援護するからクロウを屋敷に連れてけ!!」
「はい!クリスさんどうもです!お元気で!!」
「お……何だそりゃ!」
クリスが屋上からクロウ達に銃撃していた者を潰してくれた。
恵華はクロウの腕を肩に回し、屋敷まで連れて歩いて行った。
先程恵華が手招きをしていた窓の屋根下に着いた時、また新たな銃声が響き渡り、それをクリスが応戦していた。
恵華はそれを見て有難いと微笑み、クロウを屋根下でゆっくりと下ろした。
左腕から大量の出血をしているクロウは、俯き呆然としていた。
恵華は何度か呼びかけるが反応がない。
ゆっくりしている暇はない、お嬢が助けを待っていますと話しかけるが、それでも反応がない。
ここが安全なのは今だけだし……クロ様をおいて行けないし……。
恵華はどうして良いものか分からなくなり、クロウの無線機を耳から取ってクリス以外にこちらに来れるか確認するが、誰も何も応答がない。
どうしようもなくなった恵華は地べたに座り込んでしまった。
近くではクリスが交戦。
遠くでも銃声が聞こえる事を考えると、エドガーやケビン、マーシャルは外で銃撃戦真っ只中だろう。
すぐに中に入れる状況にあるのは恵華とクロウ。
周りに注意がいっているおかげで屋敷の前まですんなりと来る事ができたが、自分とクロウがアンナを助けなければならないと考えると恵華は涙が溢れてきた。
するとクロウが恵華の泣き声に反応し、顔を上げて恵華を見始めた。
こいつ……また泣いていやがる。
また?泣き顔なんて見た事あったっけ……?
恵華の泣き顔を見た瞬間、フラッシュバックが起きた。
――これは過去の出来事なのか、脳裏で映像が流れ始めた。
恵華の泣いているシーンがいくつも流れ、その中でも泣きながら自分に何かを訴える恵華が居た。
「全部なくなったから全部捨てたの!
お前にどうしてくれとも頼んでない!!こんな事されても嬉しくない!
もう立ち上がるな!本当に殺すよ!?」
言葉使いの荒い恵華が泣きながらクロウに罵倒し叫んでいる。
場面が切り替わりアングルも変わり、クロウは倒れているのだろうか、下から恵華をなぜか見上げている。
「貴方について行きます……"あいつ"は嫌いだけど、貴方になら"この魂を捧げます"……死んだら使ってください。
恵華を……笑って死ねるよう導いて下さい……」
恵華は泣きながらクロウに"この魂を捧げます"と言っているが、意味が分からない。
しかし、その時の感覚だけは少し思い出し始めた。
何かを約束している。
誓っている。
絶対的自分に従順な人間。
この世界でも見つけた。
この女は裏切らない。
俺も答えよう。
もう悲しい涙は流させずに嬉し涙だけで今後済むように……。
――これらを誓った感覚だけをなぜか今思い出すクロウ。
フラッシュバックが終わり、目の前に恵華の泣き顔。
クロウは緊張が解け、静かに立ち上がると上着を脱ぎ出し、中のシャツを破き左腕を縛り出血を止めだした。
恵華はクロウを見上げて「クロ様?」と静かに呟くと、上着を羽織りながら
「先行する……お前は後ろをガードしろ」
恵華に指示し、窓を銃で叩き割った。
どうしたのだろうかとクロウの顔を覗き込むと、さっきまでとまるで顔つきが違う。
恵華はクロウの突発的行動と激変に驚き言葉が出ない。
記憶がなくなる先日までのクロウを見ているようで、クロウが窓から中に入ったと同時に恵華は我に返り、焦りながらもクロウの後を追う。
「クロ様……どうしたんですか?何が起きたんです??」
恵華は片手で涙を拭いながらクロウに問うと、
「……分からねぇ。
思い出してねぇけど思い出したっつー感覚」
「……」
恵華の頭上にはクエスチョンマーク。
辺りを気にせず躊躇せずに前進するクロウ。
別邸の中は恵華も初めて入るため、どこに何があるか分からない。
クロウに言われた通りに後ろを警戒しながら恐れる事なく先へ進むクロウの背中を追う。
すると突然前方の曲がり角から人が現れ、すぐさま胸元から銃を出し構えだした。
クロウの後ろに居た恵華は隠れる所もないので危ないと思い、重力の壁でクロウを守ろうと前に出ようとしたが、
[ッパーン!]
屋敷の廊下に発砲音が響き渡り、恵華は遅れてしまったと思い前方を見ると、クロウでなく相手が倒れ込んでいた。
「反動が強ぇな、これ」
相手が発砲すると同時にクロウも発砲していたようだ。
「クロ様……本当にどうしたんですか!?」
恵華は驚きを隠せない。
しかしながら、クロウも縛って止血していたはずの左腕からまた大量の出血が。
どうやら相手の撃った弾をまた左腕で受けていたようだ。
しかしクロウは気にせず歩き始めた。
「クロ様!血が!出血し過ぎですよ!!」
恵華の言葉を無視し、倒れている男の元へ向かった。
クロウはその部下の胸ぐらを掴んでアンナの居所を聞き出す。
「おい、死んでねぇだろ?拉致った女は何処だ?」
その男は生きていた。
クロウはあえて心臓を避けたのか、相手の銃を持っていた右肩を狙い撃っていた。
その男は撃たれた肩を抑え、項垂れている。
クロウは胸ぐらから手を離し、撃ち抜いた男の肩を足で踏みつけだした。
「っう……!あああぁ!!」
「うるせぇんだよ!時間がねぇんだ、楽になりたかったらさっさと吐け!恵華、後ろ見張ってろ」
クロウは人が変わったように男に尋問する。
後ろで見張りをしている恵華もクロウの変貌ぶりに驚き見入ってしまっていた。
しかし男は強情にも全く教えようとはしない。
男は助けを待っているのだろうか、肩の痛みに耐えつつ何も答えようとしない。
「あっそ……上等だ」
イラ立ちが限界に来たのか、クロウは壁や天井を銃で乱射し始めた。
リボルバー式なので弾はすぐに空になると、
「あぁ〜もうなくなっちまったぁ〜……次はこっちの弾にしよ」
男から少し後ろに下がりながらクリスからもらった弾を込め始めた。
「このマグナムってやつ、回転かかって体に風穴空くって本当かなぁ〜……俺記憶ねぇから知らねぇんだよー。
お前で試させてもらうわ」
のらりくらりとラリったように喋りながら男に銃を向けて狙いを定め始めた。
すると無線からマーシャルの声が聞こえ、クロウは応答した。
「マーシャルだ!何処にいるの!?こっちはケビンと今から中に入る!その後にクリスとも合流するよ!」
どうやらクロウ達とは真逆の正面の方から二人も中に入れたようで、クロウは自分が先行するから正面の方に敵を誘き寄せてくれと頼み、ニヤリと男に笑いかけた。
「誰も助けには来ねぇ、最後のチャンスだ。女は何処だ?」
クロウの最後と言う問いかけに、それでも男は震えながらも黙り通す。
[カチャッ]
撃鉄を起こし、
「……じゃあ死ね」
クロウがゆっくりと引き金を引こうとした。
すると、
「わ……分かった!言う!言うから撃つな!!」
やっと男は口を開いた。
だがしかし、
「――うるせぇんだよ」
[ッパーン!]
クロウは男の頭を撃ち抜いた。
クリス特製弾薬は威力が凄まじく強く、男の口から上が消し飛んでいた。




