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十五【緊急事態】

 二人は恵華の部屋を出て行き、幹部だけのリビングと言われた部屋に向かった。


 部屋を開けると、一人の男が先にソファーで寛いでいる。

 男は振り向き真顔で立ち上がり、クロウへ近づき歩いてくると顔をマジマジと見てゆっくりと口を開いた。


「……分からないよな〜。

 ったく、勝手に記憶ぶっ飛びやがって(笑)」


 綺麗な顔をしたその男は無理に作った笑顔で記憶がなくなった事を笑い飛ばしてくる。

 ここは幹部だけが集まるとエドガーから聞いていたので、この男も幹部の一人なのだろうと思いクロウは「悪い」と言葉を返す。


「謝るなよ。お前の体は元々謎だらけだったんだから何が起きてもおかしくなかった。

 そんじゃっ、初めまして!俺はクリス!よろしくな!」


 男は"クリストファー"。

 皆からはクリスと呼ばれているようだ。

 髪はブロンドカラーで北欧系なのだろうか、モデル並みの綺麗な顔立ち。

 日本人のクロウも百八十センチを超える身長だが、それよりも少し高い。


 何だこのイケメンは?何でこんな組織にいるんだ?

 そういえば、起きた直後に駆けつけて来た中にエドガーの後ろにいた様な。


「あぁ、よろしく。

 あんたの……クリスの事も何も覚えてないけど、きっかけがあれば思い出すと思う。色々これから教えてくれ」


「おう!任せな!」


 クロウが記憶をなくして気を使っているのかと思う位クリスはやけに明るかった。

 三人共ソファーに座り、すぐにクロウはクリスに出会いの話しを聞こうとした。

 すると、


「焦んなって。まだ他にもお前の家族が来るから!全員揃ったらゆっくり話すって!」


 クリスは全員で話しをしようとする。

 明るく振舞ってはいるが、えらくクロウを心配し気遣っている様子。

 どこまで話して良いか分からないのだろうか、クリスは笑いながらも戸惑いを隠せない。


 自分のことを思っての行動に、クロウはクリスの優しさがひしひしと伝わる。


「分かったよ。

 そんじゃ他の奴が来るまでを待つか……タバコ吸おっと」


 クリスはホッとし、クロウがソファーに腰かけて煙草に火をつけようとした瞬間に扉が開いた。

 入ってきたのはエドガー先頭に三人の男。


 エドガーの後ろにいる二人にクロウは見覚えがあった。

 それは拉致されて薬を打たれ眠らされた時にエドガーと一緒にいた白人二人だったからだ。


「そこの二人……見覚えがあるな。

 俺の事二人で押さえて薬打ったろ?」


 クロウは二人を責めるように問い始めた。


「そこまでは覚えてるんだね(笑)」


「まぁ、その後俺等二人共お前に襲われてんだよ?

 だからもう良いじゃんか」


 二人は笑いながら答える。


 話しを聞くとクロウが目覚め、組織内を案内された際にエドガーに二人を紹介され、その時にクロウが殴りかかった。

 ちょっとした乱闘になり、エドガーも含めて周りに居た部下共もクロウは殴り倒し、また薬を打たれ眠らされたとか。


 こんな得体の知れない奴等に?本当に俺か?


「俺アホじゃん」


 クロウは自分の馬鹿さかげんに驚き、頭を抱えため息を吐いた。


「あの時はお前もまだ混乱していたからな。終わった事だ。気にするな」


 エドガーはクロウの背中を軽く叩きながら慰めると、クロウを押さえて薬を打った二人を改めて紹介した。


 二人共アメリカ人。

 一人は"ケビン"もう一人は"マーシャル"。

 二人共エドガーの幼少時代からの親友で幼馴染。


 昔から良く一緒に遊び、悪さなどもいつも三人一緒だったようだ。

 先に組織に入ったのはエドガーだが、二人はある事件がきっかけでエドガーを放ってはおけず、普段の生活を捨て組織に入る事を決めた。


「へぇ〜!仲良過ぎだろ?

 エドガーのためにこの組織に……どんな事があったん?」


「え〜っと、長い話しになるから端的に言うと――」


[ビーーーーーーーーーーーーーーー……]


 ケビンとマーシャルが組織に入ったきっかけをマーシャルが話そうとした途端、何とも言えない耳障りな大きな音が鳴り響いた。


「うるせっ!何だこの音?どっから……携帯?」


 クロウはポケットをから携帯電話出して画面を見ると"EMERGENCY ANNA"と出ていた。

 その音はそこに居た六人全員の携帯電話からも鳴っていた。


 エドガーが携帯電話の画面を確認してアラートの場所を確認し始めた。

 すると、恵華が声を荒らげて全員に問い出した。


「あれ!?"お嬢"は何処ですか!?」


 もう一人のメンバーに"アンナ"という女性がいるらしいが、お嬢とも呼ばれているようだ。

 今は待機中のため、全員屋敷に居るはずなのにも関わらず、アンナからの警報がきた。


 警報の場所を確認すると現時点から約二百キロメートル。


「なぁ、この携帯電話って何?普通じゃねぇよな?

 何で俺らはガラケーなのに恵華はスマホなの?俺もスマホが良いんだけど」


 クロウはサイレントにしていたのにも関わらずに音が鳴ったこの端末に興味を持って仕方ない。


「そんなん後だ!

 クロウ!この場所はさっきまで俺達が居たボスの屋敷だ!なんでか分からねぇけど、アンナは俺達を追って来てたんだ!!」


「……」


 俺達ヘリに乗り継いで行かなかったっけ?

 っつーか、途中で連絡の一つもなかったのかよ?


 エマージェンシーコールは幹部全員の携帯電話で誰が何処で送ったか分かるようになっている仕組み。

 今回アンナが何かしらの危険、緊急事態を知らせている信号だった。


 だが、アンナは仕事でも現場に出ない人間で、ほとんどがアジトから場所の誘導や事によってPCでハッキング等をしている。

 なので、そのアンナからの信号はほとんどない。


 クロウ以外の全員は、なぜボスの屋敷からアンナから信号がきたのか困惑している。


 恵華はアンナの携帯に電話。

 エドガーはボスへ連絡を取ろうとするが、アンナに電話は繋がらず、ボスやその屋敷に居る人間誰とも連絡が取れない。


 すると、エドガーはクロウの顔を見始めた。

 クロウは何だろうと頭を傾げると、いつの間にか全員がクロウの顔を見ていた。


「クロウ……」


「クロウ!」


「クー!」


「クロウ!」


「クロ様!!」


 全員がクロウの名前を呼び始めた。



「な、何だよ?」


 っつーか、ケビンだけ"クー"って……。


「ウチのボスはお前だ。お前がまずどうするか決めろ」


 エドガーはクロウに判断を求める。

 クロウは困惑するが、エドガーも恵華も時折見せる悲しい顔をクロウ自身も嫌になっていた。


 記憶が全くないがために周りに迷惑かけ、しかも前の自分は相当強く頼られていた人間だったんだなと思い、クロウは頭を掻きながら困惑しつつも腹を決めて全員に命令を言い渡した。


「え〜っと……お前等、あのおっさんの所で何がどうなってんのか、今の俺に何が出来るかも分からねぇ。

 俺はアンナを覚えてねぇ。

 だけど、"家族"だってんなら……急くぞ!!」


 戸惑いながらもクロウの出した号令に、全員笑顔で一斉に返事を返した。


「イエッサー!!」

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