七十五【間一髪】
力一杯叫ぶクロウの声はとても小さく二人は全く気づかない。
それでも必死に"逃げろ"と言い続けるクロウ。
声は届いてはいないのが、周辺の違和感に気づいた恵華が何気なく後ろを振り返った。
すると、床に散らばっていた衣類が宙に浮き、恵華がそれに気づいた途端二人の首に巻きつき締め出した。
「あぐっ!!」
声が出せない程強く巻きつき、自力ではとても取ることができない。
恵華は首を締められながら倒れた少女の方を横目で見ると、うつ伏せで倒れながらも地面についた少女の手の平は青白い光を放っていた。
この子……気絶しながらも能力を使ってる……。
意識があるのか無いのかも分からない少女は、念動力で衣類を動かし二人を絞め殺そうとしていた。
壁に寄りかかりながらそれを見ているクロウは、何とかしなければと体を動かし立とうとするが、どうしても全身に力が入らない。
クッソ!動け!このままじゃ恵華が死んじまう!オラッ!!
必死で動くように自分の体に言い聞かせ、なんとか立ち上がることはできた。
しかしながら、やっとの思いで立った足は痙攣を起こしてガクガクと震えてしまい、歩くことさえできない状態だった。
こんなんじゃ……あそこまで行けたとしても助けらんねぇ……。
首を締められている二人はもう限界にきてしまい、意識も段々遠のいてしまっていた。
このままでは恵華もメアルも窒息死してしまう。
そう思ったクロウは、体が動かないならとその場で魔法陣を展開させた。
ここへ来てからの感情と体調が魔法を使ってからおかしくなった事をクロウ自身も気づいており、現に魔力を集中するだけで目眩が起こっていた。
魔力切れを起こす寸前となんとなく分かっていながら、二人の首に締まっている物を消し飛ばせる魔法を想像し思い浮かべようとした。
しかし、目眩が酷く視界もぼやけて何かを思い浮かべられる程の余裕もなく、集中も途切れてしまったせいで魔法陣も消えてしまった。
「ふざっけんな……」
もう一度!!
再度魔法陣を展開させるが、どうしても発動までに至らない。
二人の首に巻き付いている物を消せれば良い。
簡単な事なのにも関わらず、どうしても魔力が乗らない。
初めて行う魔法は今は使えないと思ったクロウは、空間転移魔法で少女の所まで行き、なんとかして能力を止めようと考えた。
転移ならできるはずだ。
息ができない二人にはもう抵抗する力も無く限界がきている。
締めつけている布を解こうと握っている恵華とメアルの腕から力抜け落ち、遂に意識が無くなる寸前となっていた。
「くっ!!」
それを見たクロウは意識が朦朧としつつも転移する場所に集中し、少女の微弱な生命力を掴む事ができたので転移しようと意気込んだ。
その瞬間――、
「阿呆が!!」
[ガンッ!]
突如目の前に現れたガイアに、クロウは思い切り蹴り飛ばされ倒れてしまい、恵華とメアルをジハードが首に巻き付いている衣類に手そえて聖神気法で破り消し去った。
窒息ギリギリで助けられた恵華とメアルは首を押さえながら咳き込み、すぐには落ち着かない様子。
「状況把握に困りますね……この人種は何でしょう?」
ジハードの見る先にはボロボロの少女が倒れているが、生命力はほとんど感じられない程になって気絶しているようだった。
先程の二人の首を締め上げる為に使った能力は、最後の一雫だったのだろう。
「おい阿呆、なぜ貴様は自分の魔力残量も分からんのだ?今の貴様が魔力放出を行うと魔力核に亀裂が入り最悪死ぬぞ?」
ガイアは倒れているクロウの顔の前でしゃがみ説教を始めた。
「う……うるせぇな。魔法使う以外に……方法が――」
クロウは説明しようにも体力の限界を迎えてしまい、話している途中でそのまま気絶してしまった。
「阿呆め……力の使い方も忘れた死に急ぎ小童が。早いところ素の状態のまま特殊能力を使える様にし、"魔人化"を思い出させなければな」
クロウの魔力量はほとんど残っておらず、あと少しでも無理矢理絞り出そうものならアジトでの二の舞になっていた。
「黒龍よ、そこの二人を城まで連れて行け。俺は此奴と融合し、この体とそこの……転がっている娘を持って行く」
「分かりました。恵華、それと……妖精種のあなた。少し気持ちが悪くなるかと思いますが、私の能力で体を浮かしながら連れて行きますので力を抜いて楽にしてください」
ガイアはクロウと融合して自分の体と少女を担ぎ上げ、ジハードは疲労困憊で動けない恵華とメアルをまるで少女が使っていた念動力のように体を浮かして城へ向かった――。
――城内パーティーが終わり落ち着いた頃、クロウと恵華、そしてメアルの眠る客間にて集まり状況を確認していた。
ガイアはクロウと融合した事によって魔力の供給と記憶の共有をし、それによってクロウの容態は安定した。
そして、このような始末となった事態も把握する事もできたので、ガイアはレイチェル達に説明をした。
「町外れではそんな事が……」
パーティーで盛り上がっていた中央区を除き、詳しく知らされていなかった郊外地の状況を知ったレイチェルはショックを隠しきれない様子だった。
数ある中からこちらを開いて頂きありがとうございます!
少しでも目に止まられたのでしたら☆だけでもポチッと頂けたら幸いです!
追加でブックマークして頂けると執筆に気合いが入り……泣けます!




