分かれ道
分かれ道の前に自分がいる。目の前には男がいる。
「早く決めなよ。どっちに行くか……、早くしないと。フフフフ。」
不気味な笑い声と共に男は消えた。
その後、後ろから足音が聞こえてきた。足音はだんだん近づいてくる。でも振り向けない。
「こっちを向け。愚か者が。」
「向けないんだ。」
声が出ていた。
「従わぬと申すか。」
「違う!」
「……従わぬならば貴様には死あるのみ。」
ズッ、背中から何かが入り込んできた。そして胸の辺りを見ると、刃が出ていた。服からは血がにじみ出ている。
死、その言葉が頭に浮かんだとき場面が変わった。
また元の光景に戻っていた。
「早く決めなよ。どっちに行くか……、早くしないと。フフフフ。」
「俺は右に行く!」
また声が出ていた。
「そうかい。じゃぁ行きなよ。」
男が消えた後にゆっくりと立ち上がり右に歩いていった。
もう数十分は歩いただろう。しかしいくら歩いても何も見えてこない。
その後も、しばらく歩き続けると光が見えてきた。そしてそこから何かが現れた。
「やぁ。何をしているんだい?」
それはジョーカーだった。
「………。」
「何も答えないのかい?」
「どけ。」
思わず口を押さえた。
「何だって?」
ジョーカーはトランプを取り出した。そして投げてきた。
「うわぁ!」
そのトランプは全てスペードのエースだった。
「君は消えるんだ。ハッハッハ。」
ジョーカーが指を鳴らすと、体がバラバラになり始めた。そして一枚一枚のトランプに少しずつ吸い込まれていく。
頭に浮かんだのは、死。
また元の場面だった。
「早く決めなよ。どっちに行くか……、早くしないと。フフフフ。」
「ひ…左。」
「フフフ。」
左の道へ飛ばされた。
「気をつけなよ。」
男は消えた。
歩いていくとすぐに子供に出会った。
「すいません。食べ物を恵んでもらえませんか?」
言った言葉にふさわしい格好をしている。
「いや持っていないんだ……。」
子供は顔をうつむけた。次の瞬間、顔を上げた。口が異様に開いている。
「アナタでかまいません。」
そして腕に噛みつかれた。
「ぐぅ。」
左腕は完全に手首から無くなった。
次は右腕に噛みつかれた。血がかなり出てきた。そして首に噛みつかれた瞬間、意識が飛んだ。今までに無い感覚だ。
元の場面に戻っていた。しかし男が発した言葉は違う物だった。
「フフフフ、どうだった?」
「黙れ。」
「どうだったか聞いているんだ。死の感覚はどうだった?」
あれは死だったのか………。
「何故、俺は生きているんだ?」
「今ここで死ぬためさ。」
男が手を伸ばしてきた。
「死になよ。」
その手は自分の胸の中に入ってきた。胸に痛みが走る。息が苦しくなる。目がかすむ。
ブチッという音と共に手が出てきた。
「コレが何か分かるかい?」
男が持っていた物は……、おそらく心臓だった。
「コレは返すよ。君のだ。」
男の手は赤く染まっていた。
「嘘だ。心臓が無くて何故俺が生きている?」
「僕の力だよ。フフフフ。そうだ指を鳴らした時、君は死ぬよ。」
「やめろ!」
「遺言を聞いてあげても良いよ。」
「やめろ!」
「フフフフ。」
パチン。
「うわああああぁ。」