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紫陽花(あじさい)と鴨(かも)  作者: ろいやるぱふ
春紫苑
18/41

◆再診◆

 

 放課後、私は久々に梶原記念病院を訪れた。


 

 前回訪れたのは、一年以上も前のことだっただろうか。



 当時は母の車で送られてきたが、今日は一人で歩いてきた。



 中学時代とは打って変わって、高校からは徒歩でも十分程度の距離に位置しているからである。



 もっとも、帰路とは全くの反対方向なので、滅多に出向くことはないのだけれど。




 

 相も変わらず、退屈な診察はあっという間に終わった。


 脳に異常がないことを確認して、鎮静剤を処方される。


 初めて病院に来たときはうんと長く感じた時間の流れも、同じ経験を重ねるごとに短く感じるようになった。



 旅行に出かけるとき、同じ景色を見ているはずなのに、帰るときの時間が早く感じるのと似ているなあと私は思った。





 そういえば前回病院に来たときは、その足でアネモスに寄って帰ったんだっけ。


 

 中学生時代、アネモスで辻夏樹に出会ってから彼とは一切関わっていない。


 高校から歩いても十分程度で行ける距離にあることから、多少気にはしていたけれど、私がそこまで足を延ばすことはなかった。




 なぜだろう、当時人前で涙を流したことがほとんどなかったせいか、不覚にも彼の前で泣いたことが自分でも不思議でしかたなかった。



 なんとなく気まずさを感じていたこともあり、例の店に行くこともなくなってしまったのである。




 病院のあとはまっすぐ家に帰るつもりだったけれど、その日は母が親戚の葬儀に出向いていることを失念していた。



 母からは夕食代と、近所のお弁当屋さんで使える割引券を預かっていた。


 お弁当が嫌いなわけではないのだけれど、ふとアネモスの食事を思い出してしまう。



 辻夏樹に会うことは若干気が引けたけれど、もう一度あのおいしいご飯を食べたいという気持ちのほうが勝ってしまった。



 

 病院の正面出口を後に、私はアネモスへ歩を進めることに決めた。



 すると、何やらブルーシートや折り畳みのベンチを手に、坂を上っていく人々が目についた。




 気づけば、今は花見シーズンの真っただ中で、丘の上に見える公園では早くも夜桜を観賞するために場所取りをする人や屋台の準備をする人で賑わい始めていた。





 そういえば近々、千鶴から一緒に花見に行こうと誘われていたのを思い出した。



 確かに、今の時期を見逃すのはもったいない。



 でも、それは今日でなくても大丈夫だろう。



 あと一週間くらいは見ごろのはずだ。




 今の私はとりあえず、美味しい晩御飯にありつくことが最優先なのだから。


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