◆夢(砂漠)◆
独楽が回ることをやめると倒れてしまうように、人もまた歩くことをやめては生きていけない。
立ち止まったが最後、孤独という闇はまたたく間に私を飲み込んでいく。
飲み込まれたが最後、一向に抜け出すことができないのは、一体何故なんだろう。
今、まさに私は蟻地獄とも思える砂漠の脅威に襲われていた。
気づけばその流砂はいつしか私の体の自由を奪い、身動き一つとれない状況になってしまった。
すると、私の頭上で薄汚い鴨の群れがバタバタと羽ばたいている。
いつにもまして甲高く、耳障りな鳴き声が私の耳を突く。
耳を塞ごうにも、私の手足はもはや自由を奪われている。
鼓膜は破れ、頭には鴨の糞がぼたぼたと垂れてくる。
いっそ、この流砂が早く私を飲み込んでくれればいいのに。
そんな私の祈りも虚しく、時間さえもゆっくりとしか流れてはくれない。
そんな私の惨めな姿を横目に、古代ローマ人のような出で立ちの老人が佇んでいた。
その神聖な雰囲気から察するに、彼はきっと何かの神なのだろう。
正直、誰でもよかったけれど、もし神であるならば、きっと私を助けてくれると思った。
淡い期待を抱いて見ていると、彼は何を思ったか呑気にも鴨に餌を撒き始めた。
もはや救いの道はない。
この世に神も仏もあったものではないと言う人がいる。
その意見に、私も大きく賛同したい。
きっとこの体が不自由でさえなかったら、私は目の前の老人を生かしてはおけないだろう。




