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紫陽花(あじさい)と鴨(かも)  作者: ろいやるぱふ
春紫苑
16/41

◆夢(砂漠)◆

 


独楽(こま)が回ることをやめると倒れてしまうように、人もまた歩くことをやめては生きていけない。



立ち止まったが最後、孤独という闇はまたたく間に私を飲み込んでいく。



飲み込まれたが最後、一向に抜け出すことができないのは、一体何故なんだろう。







今、まさに私は蟻地獄とも思える砂漠の脅威に襲われていた。



気づけばその流砂はいつしか私の体の自由を奪い、身動き一つとれない状況になってしまった。



すると、私の頭上で薄汚い鴨の群れがバタバタと羽ばたいている。



いつにもまして甲高く、耳障りな鳴き声が私の耳を突く。




耳を塞ごうにも、私の手足はもはや自由を奪われている。




鼓膜は破れ、頭には鴨の糞がぼたぼたと垂れてくる。




いっそ、この流砂が早く私を飲み込んでくれればいいのに。




そんな私の祈りも虚しく、時間さえもゆっくりとしか流れてはくれない。





そんな私の惨めな姿を横目に、古代ローマ人のような出で立ちの老人が佇んでいた。




その神聖な雰囲気から察するに、彼はきっと何かの神なのだろう。




正直、誰でもよかったけれど、もし神であるならば、きっと私を助けてくれると思った。




淡い期待を抱いて見ていると、彼は何を思ったか呑気にも鴨に餌を撒き始めた。



もはや救いの道はない。




この世に神も仏もあったものではないと言う人がいる。



その意見に、私も大きく賛同したい。





きっとこの体が不自由でさえなかったら、私は目の前の老人を生かしてはおけないだろう。



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