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思いついたら書いてみる短編

声だけの君

作者: 一時二滴

 気分転換。です!

 短いから読んでって。すぐ終わるから。

 とある病院の二人部屋の病室。今の季節は出会いと別れの季節の春。外では桜が満開に咲き、その光景を窓越しから僕は見ていた。

 しかし、それももう一年前の話。一年前に桜を見て以来僕の目は盲目し、何も見えなくなってしまったのだ。唯一出来るのは音を拾うのと感触を味わうこと。

 僕は子どものころから徐々に感覚が奪われる病にかかっているのだ。

 最初の方はまだよかった。足の小指が動かなくなる程度だったらしい。しかし、次第に病は悪化していき、首以外の身体が動かなくなり、味覚がなくなり、嗅覚がなくなり、そして視覚がなくなり、今に至る。

 病院では点滴で栄養を確保している。退屈でしかない。しかし、視覚がなくなった翌日くらいにとある女性が僕に話しかけてきた。

 彼女は僕に外の世界や今流行っていることを沢山教えてくれた。

 ただでさえ退屈だった僕の生活に唯一の娯楽を彼女はくれたのだ。

 言葉にしてお礼を言いたい。しかし、僕は彼女に何もいうことができない。書くこともできないため、伝えることもできない。僕が彼女にできるのはただ頷くだけ。頷く以外何もできない。

 僕は彼女の声を聴いていると、次第に彼女に惹かれていった。

 顔も姿も形も知らない。知っているのは声だけ。それだけでも僕は彼女に惹かれていった。

 この一年。僕はとても充実した日々だった。


 そしてまた一年が経つ。最近彼女は遠くから僕に声を聴かせるようになった。遠くと言っても一メートルもないほどの距離くらいだろう。

 その一年で僕は触覚を失った。


 また一年が経つ。彼女は最近外の話をしなくなり、病院の出来事しか話さなくなってしまった。だけど、彼女の話し方がうまいおかげか退屈しなかった。

 その一年で僕は首を動かすことが出来なくなった。


 彼女はまた一年間、動かなくなった僕に声を聴かせてくれる。どうやら彼女は点滴を打つようになったらしい。どうやら身体の調子が悪くなり、口から栄養を摂取しても吸収してくれない身体になってしまったらしい。味覚をもう味わえなくなったと悲しんでいた。僕はあまり食べ物を食べたことがなかったため、その気持ちが分からない。

 彼女を励まそうにも僕には何もできない。それがとても悲しかった。

 この一年で僕は臓器を失った。


 僕の動かなくなった臓器はあらかじめ用意してあったらしいドナーになり、また一年を過ごした。

 だけど、彼女の声は聞こえなかった。彼女は喋ってくれなく、僕の耳にはナースさんの声しか聞こえない。

 耳もだんだん聞こえなくなっているのであろう。ナースさんの声はあまりよく聞こえない。

 僕は悲しんだ。だけど涙は出ない。

 僕は聴覚がなくなって行く感覚を感じる。

 僕は思う。

 まだ彼女のことを知りたい。

 もう一度彼女の話を聞きたい。

 僕の初恋の彼女の見たこと聞いたことをこの聞こえなくなっていく耳に入れたい。


 せめてもう一度だけ……。


 







 彼女の声を聞きたかった。



 その日僕は聴覚を失った。 

 読んでいただきありがとうございます。

 短すぎると思いますが、満足して戴いたら幸いです。

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