夏になった君へ
僕が先に死ぬはずだった。なのに、君に先を越されてしまったよ。残された僕は、死だけが救いだと思っていた僕は、死の虚しさを知ってしまった。死による摩耗がこの世界に満ちていたら、世界も摩耗していくね。だから世界は僕らに死を忘れさせようとするんだろうね。抗いはしないよ。でも君の白い骨は、君が死んだことの証だね。それは誰にも消せないよ。
青空の向こうに、青い時間が広がっている。
向日葵畑の向こうに、死んでいった回顧が生えている。
かき氷の中に、凍った墓場が混じってる。
波の底に、あの日の死骸が沈んでる。
空の色は、目にしみる夢の積層。
忘れ去られて行く透明の積み重ねが、今日の空の青。
死んでしまった過去の上に、今日があるから、
今日の空の向こうにあの日の思い出が透けて見える。
死んでしまった君の思い出が、後悔だったなら簡単なのに。
どうして死んでしまったのって、
無粋な言葉で生きられたなら簡単なのに。
そんなのは、死の輪郭をなぞってるだけ。
君が欲しかったのは、共感でも同情でもなかったと思う。
夏の一部になった君は、
存在だけが大気になって流れてる。
生きたことへの埋め合わせをした君は、
たぶん間違ってない。
あの空の向こうには、
薄れていく君の記憶が流れてる。
だから、僕は、
あの青空を見ている。
ノスタルジーな空を。
君が死んだことを悔やむのは、
なにかしてあげられたかもしれない、
なんて思うのは、
ひどく傲慢な気がする。
空の断層から、
君の存在感が見える。
君が死んだことを悔やむくらいなら、
なにかしてあげられたかもしれない、
なんて思うくらいなら、
あの青空を見よう。
あの空に君はいないけれど、
君のことを思い出すくらいならできるさ。
でも、それができるのはいつまでだろう。
僕だって、君のことを忘れてしまうと思う。
空の模様が変わるように、
君の残した過去も摩滅しながら変わっていく。
変わらないものなんてはないさ。
生きているみたいだね。
変わらないのは、君の白い骨だけだね。
生きても死んでもいる君がうらやましいよ。