表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

箱物語

狐のつづら箱(箱物語5)

作者: keikato

 我が家には昔から、開かずの箱ならぬ開けられずの箱がある。

 草のツルで編まれたつづら箱で、神棚の奥に大事にしまわれている。

 とはいえ……。

 家宝でもなんでもない。むしろ我が家にとってはたいそう迷惑なものだった。


 およそ百年前の明治時代。

 オレの祖父の祖父は猟師をしていた。その祖父が死んだ夜、通夜に参った狐が、このつづら箱を供えたそうだ。

 通夜の席に、なんで狐が?

 そう思われようが……。

 当時、人間と動物はたいそう身近な関係にあり、人間の葬儀に動物がやってくることもあったという。

 だとしても狐にとって、祖父の祖父は仲間を撃ち殺した憎き相手のはず。恨むことはあっても、恩を返す義理などあるとは思えない。

 なにかしらの呪いが入っているのでは?

 不気味に思った家族は、だれもがつづら箱を開けられなかった。かといって、捨てるにもバチがあたりそうで捨てられないでいた。

 それから百年間。

 だれ一人、つづら箱を開けた者はいない。ぜったいに開けてはならぬ……その戒めの言葉とともに、こうして大切に受け継がれてきたという。

 ところがだ。

 開けてはならぬ――そう言われると、開けてみたいと思うのが人情。ひねくれ者のオレは、以前からつづら箱の中を見たくてしょうがなかった。

 今日は家族が留守である。

――百年もたったんだ。狐の呪いも、さすがにとけているだろう。

 オレは神棚からつづら箱を取り降ろした。

 箱は風呂敷で厳重にくるまれている。

――なんということはないさ。

 意を決して風呂敷をはぐようにほどくと、草のツルで編まれた箱があらわれた。

 幼少だったころに見て以来だ。

 フタに手をかけ、おそるおそる持ち上げてみる。

 なにも起こらなかった。

 ホッとして中をのぞくと、ひとまわり小型の紙の箱が入っており、左下すみに長方形の小さな和紙が貼られてあった。

 和紙には文字が数行にわたっていた。どうも箱の中身の説明書きのようだ。

 その内容を語ることは非常にむずかしい。そこでここに、そのままを記すことにする。


 名称 栗ようかん

 原材料名 栗、小豆、寒天、砂糖、水飴、食塩

 内容量 三〇〇グラム

 賞味期限 枠外下部に記載

 保存方法 常温、暗所保存

 製造者 狐屋本舗

 取扱上の注意 開封後はお早めにお召しあがりください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ラスト笑いました。これはないでしょう。
2018/12/31 01:39 退会済み
管理
[一言] オチを読み、ブフォっと吹き出し暫く笑い、それから上手いなぁって感心させられました。
[良い点] 自分に非があると猜疑心が大きくなるんだな…と思いました。 生前 敵だとしても亡くなってしまったら仏さま… 怨みは水に流して茶で濁すつもりだったのかもしれませんね。 お茶請…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ