プロローグ 便器さんの超理論
プロローグ 便器さんの超理論
「私は究極のあげまん、便器さんですよ!」
真っ白い陶器の洋式便器に座る女子高生に僕は困惑した。
便器さんにとって洋式便器はイスの最高傑作らしい。しかし女子高生が白昼堂々、便器に座っている光景はなんとなく卑猥だった。
「便器さんの目的は何なんだよ」
この奇特なクラスメートの便器さんは、高校入学初日から孤独を愛するこの僕に何かとからんでくる。今日で入学してから一週間がたった。僕はいい加減、便器さんの真意を知りたくなったのだ。
すると、便器さんはにんまりといやらしい笑みを浮かべながら、とんでもないことを言い放った。
「神谷仁近、あなたを究極のATMに育て上げることです!」
何言ってんだよ、この便器さんは。
「ATMって、つまり僕を金づるにするということかな」
「そうです。仁近には圧倒的な才能が眠っています。しかしその能力を引き出す人が周りにはいないようです。だから私があなたの能力を最大限まで引き出してあげます」
「そんなことされても僕は一向にうれしくないぞ!」
「そんなことありません。仁近が自身の能力を存分に発揮すれば、あらゆる名誉を手に入れることが出来るはずです」
「便器さんは?」
「仁近が稼ぐ大金で一生優雅に暮らします。私の人生は仁近の稼ぎにかかっているんです。あなたは私のATMなんですから!」
「便器さんは僕に一生涯寄生するというのかっ!」
「違いますよ。寄り添うんですよ。仁近に寄り添って、仁近の能力を最大限に発揮させてあげます。そして仁近に稼いでもらいます。私は一生働きません!」
無茶苦茶な理論だった。
「仁近は名誉を、私はお金を手に入れる。ウィン―ウィンの関係じゃないですか」
「断る!」
名誉なんて欲しくない。
欲しいのは一人きりになれる時間だ。
孤独を愛するこの僕は、強い気持ちで便器さんの提案を拒絶した。